狼人間ハーフの俺と、宇宙人ハーフの委員長。
平 遊
第1話 心の傷
『皆既月食、一緒に見よう?』
あれは、忘れもしない、小学校2年の秋。
皆既月食が始まる時間がそれほど遅い時間じゃなかったこともあって、俺は初恋のチイちゃんに誘われてコッソリ小学校に忍び込み、屋上で優雅な天体ショーが始まるのをワクワクしながら待っていた。
少し肌寒くて、ドサクサに紛れてチイちゃんと手を繋いだことも、覚えてる。
あとから考えれば、これがいけなかったのかもしれない。
いや。
親に内緒でコッソリ出かけた事が、そもそもの間違いか。
東の空から満月がその姿を表した時。
恐らく、手に違和感を覚えたチイちゃんが、空を見上げていた目を繋がれた手に落とし…その目をパチパチさせて大きく見開きながら、俺の顔を見て。
「きゃあぁぁっ!」
大きな悲鳴を上げ、俺の手を振り払って後退りしたんだ。
「チイちゃん?どうしたの?」
「いやっ、来ないで…バケモノっ!」
そう言って、チイちゃんは俺を置いて走り去って行った。
訳が分からず、そのまま天体ショーを見る気にもならなくて、俺は家に帰って母さんに話した。
「母さん、俺、さっきチイちゃんに『バケモノ』って言われたんだけど…なんで?」
「あぁ、今日は満月だったわね。そうそう、皆既月食だとか。…あなた、外でチイちゃんと会ったの?」
「うん。一緒に皆既月食見ようって約束したから。それなのに…」
少し困ったように、母さんは眉毛を下げて笑い、俺を優しく抱きしめた。
「こんなに可愛いのに、ね。『バケモノ』なんて酷いわね。でもね、
「なんで?」
「あなたのお父さんは、狼男だから。あなたは、狼男と人間の、ハーフなの」
「…だから?」
俺はこの時、まだ知らなかった。
狼男と人間の違いを。
まだ幼くて家の外の世界の事を知らなかった俺は、男はみんな狼男で、満月の夜に月の光を浴びれば、みんな父さんみたいにカッコいい狼になるものだと思っていたんだ。
俺は小さいから、中途半端な狼男になるだけで、大きくなればいつか俺も父さんみたいにカッコいい狼になれるものだと思っていた。
でも、思い返してみれば、狼になった父さんと一緒に外に出掛けたことは無かったし、俺も満月の夜に外に行く時には、母さんが必ず帽子を被せてくれて、袖の長い服を着せてくれていたっけ。
「チイちゃんのところは、恐らくご両親とも人間なのでしょう。驚かせてしまったわね。返って、可哀想なことをしてしまったわ…」
母さんの言葉が、俺の心に重く響く。
確かにチイちゃんは、全力で俺を怖がっていたから。
本当に、『バケモノ』でも見るみたいに。
「母さん…俺、バケモノなのか?父さんも、バケモノなのか?」
「いいえ、違うわ。父さんみたいにあんなカッコいいバケモノ、いると思う?正人みたいに、こんなに可愛いバケモノ、いると思う?」
なぜだか目に涙を浮かべながら、それでも母さんは笑って言った。
「でも、正人が本当に心から信頼できる人に出会うまでは、満月の夜には外で人に会わない方がいいわね。あなたがこれ以上、傷つくことが無いように」
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