英雄なんかじゃない。
さんまぐ
15歳の現実。
第1話 英雄の息子。
2XXX年。
とっくの昔に世界は滅んだ。
馬鹿な旧人類は戦争をして化石燃料を使いまくった。
そして得た繁栄を捨てられないと無理をした。
無理をすれば歪みが生まれる。
歪みはいつか崩壊に繋がる。
初めは死を克服したい気持ちだったかもしれないが、いつしか死にたくないという願いのみで医療の発展を求めた結果、逆に死病をばら撒いた。
明るく煌々とした世界に生きたいとエネルギーを産み続けた結果、オーバーロードで毒素をばら撒いた。
飢えたくないと命を弄び、家畜を作り出そうとした結果、世界に化物をばら撒いた。
また別の者が飢えたくないと神でもないのに無から食料を作った結果、食べた人間は人ではなくなった。
こんな壊れた世界に俺はひもじく生きている。
朝一番。
壮絶な空腹で目を覚ます。
育ち盛りに一日一食は残酷な話だ。
腹が減る度に世界に対して忌々しい気持ちになる。
世界が滅んで何があったのか、壊れた世界で生きていける為か、新人類達は超能力に目覚めた。
これにより後退した技術力はなんとか補填されていた。
そして世の中は新人類の超能力で生き延びた。
俺以外には案外優しい世界で新人類達は旧人類に差別や偏見を行わず、新人類は旧人類を劣等種と見下さなかった。
だが新人類は期待値の高さだけに給料は良いがどうやっても短命だ。
できるなら旧人類として極々普通の一生を終えたい。
俺の両親は第一世代の新人類で街の英雄だった。
よくある皆の為に散った存在。
まだよくわからない幼い俺を置いて死んでしまった。
そのおかげで俺は孤児になり、こうして給食だけで食い繋ぐひもじい存在になった。
親は新人類に産まれてきた事の意味を考えて世界の為に尽くすと言っていた…らしい。
まあ、遺されていた日記にも書いてあったからその通りなのだろう。
旧世界の浄化装置、今もあるにはあるが水や空気を綺麗にするものは今で言えば水の能力者や風の能力者が力を使わないと旧世界の水準にまで辿り着かない。
水の中の不純物や汚染物質なんかを選り分けて汚いものを水源の外に捨てるなんてのは今や水能力者の仕事になっている。
空気中の汚染物質も風能力者が同じようにやってくれる。
そんな感じで能力者たちが世界を回していく。
そんな中でも一番なってはいけないのは「雷能力者」だ。
世界は結局電気を捨てられなかった。
汚染された地域から逃げようが何をしようが、電気を捨てられず、旧世界からの蓄電池の技術だけはなんとか引き継いで、雷能力者たちは三交代制で一日中蓄電池に雷の力、電気を送り込み、人類がそれを食い潰していく。
俺ももう中学卒業になる。
そうなると待っているのは2月の頭に待っている能力測定。
ここで旧人類と新人類のふるいにかけられる。
両親が新人類の俺はおそらく新人類になってしまう。
だが稀に旧人類が生まれてくる。
それを願っている。
何故か?
そんなものは簡単だ。
旧人類なら昔ながらの暮らしができる。
高校に行き進路を決められる。
料理人なんか夢があっていい。
食材から美味しい食事を作れれば繁盛間違いなし。
そしてそれを食べに来る人を見ながら爺になる。
それが今の夢だ。
夕刻。
とりあえず腹が減って死にそうだ。
土日になるとクラスメイト達は休みに喜ぶがこちらは死活問題で昼に食べたら後はとにかくひたすら耐える。
夕方になると匂ってくる近所の食事が憎らしい。
旧世界が滅び、世界の崩壊と共に突然変異の化け物達が溢れかえる。
かつて人間だった慣れの果てを食べた動物たちも化け物になる。
チワワなんて旧世界では愛玩動物の代名詞だったらしいが今や成体になると首は3つで人間くらい丸呑みできる存在で3つの頭の中で当たりを引いて潰すまで頭だろうが手足だろうが再生して襲いかかってくる。どうせなら火の能力者が一斉に焼き払うのが楽だったりする。
他にもインコだのハムスターなどの色んな化物達が汚染地域を跋扈している。
時折、化物達が街を襲いに来る。
大人達が言うには汚染物質を食べ過ぎた化物達が狂って街を襲いに来る。
そうなった時は新人類の能力者達が街を死守する。
俺の両親はこの街の中ではトップクラスの火の能力者と風の能力者だった。
この時も街を能力者達が守り、弱い順に倒されていき、街最強と呼ばれていた両親達も結構な負傷をした。
そしてこの時だけは違っていた。
何故か化物どもの第二波があった。
普段なら一波を退ければ数年は化け物の襲来はない。
戦える能力者はもう居なかった。
ここで街の連中は父さんと母さんに助けてくれと縋った。
父さんと母さんは一度は断った。
「我々が死んだら息子はどうなる?」
「息子はまだ2歳。我々抜きじゃ生きていけない」
「皆で街を捨てて逃げよう」
「私が死んでもこの人が死んでも能力者の息子が片親で存命できた試しはない!」
だが皆して「復興した街を失いたくない」「新しい街に家がない」「今より部屋が狭くなる」「家財がなくなる」と言ってごねた時、1人の大人が「お前達の子供は我々がキチンと育て上げる!」と言って両親が一瞬躊躇した隙を見逃さずに「お前達の子供も焼け出されて家が無ければ苦労するぞ!」と言い、大人達が両親に拝み倒した結果、両親は最後の命を振り絞って街の周囲に命を燃やした火炎竜巻を放って化物どもの襲来を阻止して死んだ。
火の能力者だった父は亡骸が残ったが風の能力者だった母は火に適正が無かったからだろう。
燃え尽きて何も残っていなかった。
皆、英雄に街は助けられたと言って生き残った事に感謝をした。
だが俺の生活は困窮していて今日も飢えている。
優しい悪意は世の中に溢れてる。
俺も立場に甘んじて何もしないわけではない。
両親が遺してくれた家を売ろうとしたら「英雄様の家を買い取るなんてとんでもない!」と断られた。家財道具から服一着に至るまで売れなかった。
弁当配達の仕事なら中学生でも出来るだろうと思ったが「英雄様の子供を働かせるなんてとんでもない!」と断られた。
それこそドブさらいから掃除の手伝いから子守りまで何をやろうとしてもダメだった。
街の連中は「英雄様の息子を働かせたなんてあったら村八分に遭う」と言って逃げ続けている。
最初の5年は確かに街の有志達がキチンと俺の生活費を届けてくれていた。
それがだんだんと「もういいんじゃないかな?」と言う声に従っていき、俺の元に金は来なくなる。
中学に上がると同時に支援の手は消えた。
一応ゼロではなく!未だに毎月Mと名乗る人が最低限の水光熱費を含む生活費に学費や給食費を未だに払ってくれているので、平日は給食を食べて翌朝まで過ごす。
そして土日は夜を食べずに浮かせた食費を使い1日一食だけ食べて凌ぐ。
本来ならMからの入金があるから1日二食にすることもやろうと思えばできる。
誕生日のある一月には少しだがこれでご馳走でも食べなさいとばかりに多めに振り込まれる。
問題は大型連休だ。
それを考えると振り込まれたお金は使えない。
だから1日一食で耐えて大型連休も1日一食で過ごす。
この街の連中は腐ってる。
俺が街を出る事も許さない。
英雄の息子を街から追い出すなんてとんでもないと言う。
安い仕事を探す事も許さない。
公園で水を飲むのも認めない。
風呂を抜かして水光熱費を抑える事も許さない。
全て「英雄の息子なのにとんでもない」と言う。
何言ってるんだ?
これでは餓死寸前だ。
とりあえずさっさと寝るに限る。
水は飲めるから水で腹を誤魔化す。
だが時刻は18時半。
どうしても寝る前に淡い期待を抱いてしまう。
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