第125話 メッセージの遅配?

 部屋はなかなか、いやかなりいい感じだ。

 寝室は大きいふかふかのベッドが2つ。

 更にテーブルとソファーがあるリビングか応接室という感じの部屋が寝室とは別に1つ。


 シャワーがある洗い場と浴槽がある風呂があって、そこから屋外の露天風呂に出ることが可能。

 露天風呂がある庭は勿論この部屋専用で、広いとは言えないがそれでも100㎡くらいある。

 高い板塀で囲まれているから覗かれる心配はない。


 更には簡単なキッチンもリビング端についている。

 買ってきたものを調理して食べるなんてことも出来るようだ。


「これで1泊1人1円、2千カルコスならすごく安いよね」


 パイアキアンこのオンラインせかい内では宿賃、いままで見た中での最高クラス。

 しかし2千カルコス現実そとの日本の物価水準にすると2万円くらいだろう。

 ラッキー君を含めた2人と1匹で1泊2万円、しかも朝夕食付き。

 そう考えるとどう考えても安い気がする。


「そうなんですか」


「絶対。現実 そとならこの寝室部分だけで1泊1万円以上は余裕で取られると思う。部屋にこれだけきっちりお風呂がついていたらどれくらいだろ。泊まったことはないけれど4〜5万はすると思う」


 そこまでお高いお宿なんて流石に縁がない。

 せいぜい旅行パンフでチラ見した位の経験値だ。 


「それじゃ早速露天風呂入ってみようか。カリーナはどうする?」


「少し此処の資料を読んでみようと思います。運営からの資料、かなり多いので」


 あ、確かにそれはやった方がいいだろう。

 カリーナちゃん任せにするだけではなく、私自身も。


 パイアキアン・オンラインこのせかいに来てから何かと他人に頼りっぱなしだ。

 特に途中からはカリーナちゃんにおんぶに抱っこ状態。

 これからは少しは私自身も自分の知識で判断できるようにしておかないと。


 ただ、だからといって机やテーブルに向かう必要はない。


「なんならお風呂に入りながら読めば?」


 運営からの資料なら別Windowを開いて読むことになる。

 それなら風呂に浸かりながら読んでも問題は無い筈だ。


「そうですね。折角ですからそうしましょうか。2人で入っても充分な広さはありそうですし」


 プラス、ラッキーくんが入っても問題はなさそうだ。

 浴槽だけで現実そと のうちの風呂場全体より広そうだし。


 それではお風呂だ。

 部屋の隅、風呂の手前で服を脱ぐというよりそのままアイテムボックスに放り込む形で脱衣。


 鏡に映った自分の姿を見ると、少しばかり成長具合が悲しくなったりする。

 もちろん外見年齢中学生のエルフだから現実そとの自分と全く見た目は違う。

 しかし悲しいかな微妙に共通な部分があったりもするのだ。

 具体的にはどこぞの成長具合とかボリュームとかが足りないところ。


 本当に中学生なら今後の成長に期待してもいい。

 しかし22歳女子はもう成長への期待なんて持ち得ないのだ。

 いいんだいいんだ、どうせその辺が必要な相手もいないし大きいと重くて肩がこるらしいから。

 なんてしょうもない問答を頭の中で展開しつつ、お風呂場へ。


 さて、現実そとなら湯船につかるのは身体を洗ってからが鉄則。

 それはこういった専用風呂でも同じだ。

 垢が浮いたり浴槽についたら悲しいから。


 しかしパイアキアン・オンライン ここには魔法がある。

 だから清浄魔法をかけて、あと邪魔にならないよう髪をまとめてタオルでガードすれば準備OK.


 一応ということでシャワーで全身を流した後、内湯の浴槽を飛ばして外の露天風呂へ。

 すぐそこまで太陽の光が届いていて空が青い中、裸というのはちょっとばかり背徳的な気分。

 別に変なことをするわけではないのだけれど。

 

 手でお湯の温度を確認、うん、これくらいぬるめなほうが長湯ができてよろしい。

 それではということで檜かなにかわからないけれど木の香りがする浴槽へ。

 お湯が溢れるのもまた贅沢だなんて思いながら入って、中で思い切り足というか全身を伸ばす。


「そっちへ行っていいですか」


 カリーナちゃんの声。


「勿論、浴槽広いし大丈夫。こっちのほうが中より蒸さないし気持ちいいと思うよ」


「それじゃおじゃまします」


 うん、カリーナちゃんはやっぱり美少女だ。

 胸がないところも好感が持てる、なんてちょっと私情が入ってしまった。


 そしてカリーナちゃんだけでなくラッキー君も一緒に露天風呂コーナーへと出てくる。

 入られると中で毛が浮きそうなので、清浄魔法を少し魔力多めにしてかけておいた。


 更にラッキーくんが飛び込んだ時、波が顔にかからないよう対策。

 具体的には身体を少し起こして顔の位置を上げておく。

 若干リラックス具合が減るけれど仕方ない。


「失礼します」


 カリーナちゃんが入ってきた。

 お湯がこぼれるけれど、それもまた風情。

 自分の家ではないので勿体ないと思わなくていい。


 ラッキーくんは温泉より庭の方に興味があるようだ。 

 この庭は露天風呂が主役で、それ以外は端のほうに笹がちょっと植わっているだけ。

 ほかは木の塀で囲われていて、地面は玉砂利だ。

 その玉砂利をジャリジャリ鳴らしつつ、端に沿ってくんくん匂いをかぎながら歩いている。


「縄張りの確認でしょか?」


「かもね。家でも帰ってきたら一通り匂いを確認するし。それにこのお湯、人間にはぬるめで長湯にちょうどいいけれど、わんこにはきっと熱すぎるから」


 さて、ラッキーくんに邪魔されないならちょうどいい。

 運営のメールにあった資料のページを読み込んでおこう。

 そう思った時、メッセージが届いたとの通知が表示された。


 差出人はメアリーさんだ。

 開いて中をさっと確認する。

 この前の動画、Webで公開を開始したという内容だ。


「メアリーさんからメッセージがきました。Webページにエキンム戦の動画を解説付きで載せたそうです」


 カリーナちゃんにもメッセージが届いたようだ。


「こっちにも来た。動画、見た?」


「これから見てみます。ただ……」


 ただ、何だろう。


「どうかした?」


「メッセージのタイムスタンプが狂っている気がします」


 カリーナちゃんに言われて確認。

 メッセージのタイムスタンプは3月9日18時08分となっている。

 何がおかしいのだろう、そう思ってそして気づいた。


「船の中では4月1日と言っていたよね、システムの表示で」


「そうです。3月9日は私達がケルキラを出港した日です。メアリーが出したのが3月9日だとしたら、このメッセージはもっと早く、船中かせめて港についた直後くらいに受け取っていないとおかしいです」


 うーん、確かにそうだ。


「テストマップだから受信処理に時間がかかるのかな」


「そういう事はないと思いますが……一応運営に連絡しておきます。こういう現象があったと。

 あとメアリーにもメッセージを出しておきます。諸事情で返信が遅くなってもうしわけないと」



※ 参考

  3月4日 オブクラリス討伐

  3月5日 80~85話まで

  3月6日 86~101話

  3月7日 102~115話

  3月8日 116~117話

  3月9日 118話(ケルキラ港出発)

 となっています。勿論パイアキアン・オンラインこの世界の暦の月日です。

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