第110話 頑丈なボス

 とりあえず雑音は無視して本題へと進もう。


「左側の扉を開けて、中へ入った時点から即戦闘開始でいいんだよね」


「そうです。敵はボスのアフカルとアルグル3体になります」


 どう戦うかはもう決めている。

 斧技パワースラッシュで吹っ飛ばす、以上だ。

 これが一番簡単でわかりやすくていい。


 扉に手をかけ、開く。

 中は海の塔と似た感じの広間だ。

 奥に椅子があり大きいのが座っていて、手前にそれよりは小さいけれどスケルトンナイトよりは大柄なアルグル3体。


 扉をカリーナちゃんが押さえてくれたので、前へ出ながら斧を構える。

 前にいる3体が動き始めた。

 戦闘開始、私はいつも通り斧を横へと振るう。


『斧技:パワースラッシュ!』


 決まった! アルグル3体が吹っ飛んで左の壁へと叩きつけられる。

 更に奥のアフカルも動いた。

 私のパワースラッシュの攻撃を防ぐように斧で受けるような動作をしたのだ。


 アフカルは椅子から立ち上がり、戦斧を構える。

 私が持つ狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックスと同じくらいの大きさの黒い斧だ。

 相手に不足なしなんて言いたくなる。

 効率を考えたら不足があってかつ経験値が高いのが望ましいのだけれど。

 

 敵が攻撃に移る前にまず一撃。

 私は再び戦斧を、全力で横薙ぎに振る。


『斧技:パワースラッシュ!』


 アフカル、戦斧で私の攻撃を受け止めた。

 一歩後退したが吹っ飛ばず堪えている。

 アフカル、スケルトンジェネラルより頑丈で足腰が強いようだ。


 なら追撃だ。

 パワースラッシュをもう一発出すのは不味い。

 隙が大きすぎる。

 ここは斧を引き戻してすぐ発動でき、更に移動も可能なこの技だろう。


『奥義:彗星進撃!』


 連続で突きを放ちつつ相手の間合いに飛び込む。

 アフカル、戦斧を横にして突きを防御しつつ後退。

 あまり効いていないようだ。


 かまわない。

 私の本命の技はこんな柔な攻撃じゃない。

 この奥義も接近の手段。

 あとは単に相手の動きを止めて技をすぐに出せなくするため程度。


 私は突き攻撃の最後で斧を思い切り後ろへと振りかぶる。

 アフカル、パワースラッシュに備えるよう、斧を横へと構えた。


 甘い、私の本気の決め技はそっちではない。

 直接斧が届く距離でしか発動しないこの技だ。

 アフカルの直前へ飛び込み、振り上げた戦斧を腕力体重その他全身の力全てで振り下ろす。


『斧技:大地裂断!』


 大亀オブクラリスの右前足をぶった切り、スケルトンジェネラルを葬った大技。

 だが固い! 戦斧は兜を思い切り歪ませただけ。倒れない!

 

 強烈な反動で右手が痺れる。

 戦斧を握る感覚がない。

 落とす前に戦斧をアイテムボックスに収納し、後方へと飛んで間合いをとる。


 神槍を出して左手主体で構える。

 右手は実質添えているだけ。


 しかしアフカルからの追撃はない。

 奴は棒立ち状態だ。

 どうする、距離を取るか突きで攻撃するか。

 


 アフカル、ふらっと前へ前進したように見えた。

 咄嗟に私は突きを出すモーションに入る。


 アフカルの上体がゆっくり前へ。

 しかしその時には既に私は気づいていた。

 動くならば出す筈の足も、斧を構えるべき腕も動いていない事に。


 どさっ。

 アフカルが倒れたと同時にいつもの表示が出る。


『アルグル3体、ケルキラ新要塞・本館ボス:アフカルを倒した! ボーナス経験値1210を獲得……』


『ケルキラ新要塞・本館ボス:アフカルを倒した6924組目のパーティとなりました。所要時間1分55秒。

 ケルキラ新要塞の石碑モニュメントに功績が記載されます……』


 そして今回は最後におまけがあった。


屍強鬼アフカル戦斧バトルアックス、及び屍強鬼アフカル手斧ハンドアックス2個を入手可能です。収納しますか?』


 よし、斧ゲットだ! しかも予定より多い。

 手斧ハンドアックスとはアフカルの腰につけている2本の小さい斧の事だろう。

 片手で使うにはちょうどいい大きさだ。

 何なら両手で装備しても良さそう。


「何というか、ただただ圧倒的なパワーで豪快に押し切る感じだね」


「ええ。一応私も援護攻撃出来るようにしてはいます。ですが実際に援護したのは大亀オブクラリスの時くらいです」


「確かにこれでは必要なさそうだ。レベル管理をカリーナがきちんとやっているからだろうけれど。

 でも最後の大技、攻撃力いくつ出ているんだ? アフカルを一撃必殺ってまともじゃないだろ」


「あれで大亀オブクラリスの足を切り落としたりスケルトンジェネラルを両断したりしていましたから。運営の想定外に近い攻撃力はあるように思います」


 何か外野が言っているようだが気にしない。

 私は斧で思い切り戦うスタイルが性に合っているのだ。

 それに一撃必殺というほどではない。

 その前にも技を幾つか当てているし。


 とりあえず神槍を収納し、代わりに初級治療薬ポーションを出す、

 右手にかけたら感覚が戻って来た。

 更に治療薬ポーションをかけてもみもみすりすり。


 うん、右手が復活した。

 感覚だけでなく自由に動かせるし力も入る。

 初級とは言え治療薬ポーション、強力だ。


 ところで今回、ボスを倒して斧と経験値を手に入れた。

 しかしレベルアップの通知はない。

 となると……


「レベルアップ出来なかったから、この下のボスも行っていい?」


 手っ取り早い経験値稼ぎならやっぱりボス戦だろう。


「そうですね。下のエキンムは少しだけ階段を降りて歩きますけれど、今のミヤさんなら問題は無いと思います」


「ただエキンムは悪霊で身体の実体が無いからさ。張り飛ばすという技は効かないだろうね」


 そうなるとまた腕が疲れる戦い方をする事になる訳か。

 斧ではなく神槍を使って。

 あ、でも待てよ、そういえば今回、使えそうなものを手に入れたな。


 階段を降りながら別窓を出して検索……

 うん、屍強鬼アフカル戦斧バトルアックス屍強鬼アフカル手斧ハンドアックスも対魔属性がついている。


 何でアンデッドが対魔属性持ちなんて武器を使っているんだろう。

 疑問もついでに検索。

 どうやら魔物同士でも縄張り争い等があるようだ。


 ゾンビ・グール系、スケルトン系、ゴースト系はそれぞれ住む場所が似ている。

 下級の魔物なら思考力がないので共存は可能。

 しかしある程度進化した魔物となると共存できなくなり、魔物同士の争いになりやすい。


 故にスケルトン系やゾンビ・グール系の進化種が持つ武器はゴーストに効果がある対魔属性がついているのが普通とのこと。

 

 なら今考えた方法論、充分使えそうだ。

 でも一応、ボス前に確認と練習はしておこう。


「ボス前に新しい戦い方を試してみたいんだけれど、ゴースト系がそこそこ多い場所ってある? ただのゴーストより若干強めの方がいいんだけれど」



 

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