第103話 目的達成
ギルドへ向かって歩きながら、視界に別窓を出す。
以前カリーナちゃんに教わった攻略サイトでデータベースを検索。
『拳技 オブクラリス 高速討伐 本』
残念ながらこの検索では出てこない。
ならこの条件ではどうだろう。
『拳技 奥義書』
11件ヒット。
ただどれも掲示板の雑談で、信頼できそうな情報は無い。
そろそろオブクラリス高速討伐を格闘家でクリアした人が書き込んでいるかと期待したのだが、まだの模様だ。
でもまあ格闘家用の奥義書っぽいものはきっとあるだろう。
最悪なくても満点賞の賞品でカリーナちゃんかラッキー君に使えるものがあればいい。
それすら無くても私の
なんて既に満点賞を取った位の勢いで思考しながら冒険者ギルドへ。
通常は冒険者ギルドが混むのは朝一番と夕方と聞いている。
朝一番は貼り出された依頼から出来るだけいい条件のものを選ぼうとする冒険者。
夕方は依頼を終えた冒険者が依頼達成報告にやってくるから。
しかし今日はこの時間でも人が多い気がする。
以前講習を受けに行った時以来だけれど、あの時よりずっと多い。
中へ入ると何故混んでいるかがすぐにわかった。
人の列、列、列点々
列の一番後ろには『講習受付窓口・最後尾』なんてプラカードを持った人がいて、声を張り上げて案内している。
「講習受付窓口への列はここが最後尾です。講習を希望される方は申込用紙を記載の上、こちらにお並びください」
何というか凄いことになっているようだ。
ただし列の動きは結構早い。
これなら大丈夫かなと思いつつ、講習申込用紙をオートコンプリートでささっと書いて列に並ぶ。
選んだ科目は中学校卒業程度の数学1科目だけ。
高認試験程度の数学、物理、化学は前にやったから選べない。
それに今回は満点賞狙い、だから多少簡単でも確実に狙える方が正しいだろう。
カリーナちゃんとラッキー君が待っているから1科目だけ、そのかわり今回はきっちり見直しまでする予定。
並びながら他の人の会話を何となく聞く。
「これで満点取れればあの攻略で使える本が取れるって本当かなあ?」
「槍の本は既に何人かが取ったと報告しているしさあ。動画でも出ていたから間違いないだろ。問題は満点を取れるかってところだ」
「確かにそうだよなあ。にしてもまさかゲームまで勉強が必要とは。運営に裏切られた気がする」
「で、何を選ぶんだ?」
「当然アニメ&ゲームだろ。この科目だけを3回申し込んで、2回はあえて点数を取らずに内容とパターンを確認。猛勉強して明日に満点を狙う!
評定がBランク以下なら同じ科目を受けても問題ない」
……世の中には私が考えつかない攻略法を実行する人がいるようだ。
確かにそうやって得意分野で出題傾向を掴んだ後、挑戦するという技はあるだろう。
けれど……まあいいか。
やりやすい方法なんてのもきっと人それぞれだから。
他の人の会話も耳をすましてみる。
大半は満点賞の商品、それも技の奥義書が目当てのようだ。
そして複数回受験組が多い模様。
どうやら一発で満点賞を狙うというのは難しい事らしい。
まあ私も高認程度の化学では満点を逃したし、そんなものだろう。
思った以上に列はガンガン進んでいく。
列の途中まで来て理由がわかった。
講習受付窓口を5つも開設してさばいている。
これなら1分で5人くらい列が進むのも当然だ。
おかげであまり待たずに私の番になった。
「はい、講習の申し込みですね。講習の内容は冒険者用教養講習。科目は中学校卒業程度の数学。申し込みは1科目のみ1回で宜しいでしょうか」
受付のお姉さん、今日はやたら早口だ。
声の波長は上がっていないけれど、動作や発音は2倍速モードといった感じ。
「はい、それで」
「わかりました。それでは2,000
話しながらものすごい速度で書類を作成している。
「わかりました」
何というか人間離れした動きだと思いつつ、アイテムボックスから1,000
「ありがとうございます。こちらが受講証兼領収書になります。それでは試験は2階、12番教室で受験となります。中央の階段を上って右へお進みください」
「わかりました」
受付を出て階段へ歩きつつ、ふと気づく。
そういえば前に講習を受けた時、教室は12個も無かったよなと。
そもそもこの建物、12個も講習用の教室をとれるような大きさではなかった筈だ。
わからないことは検索だ。
階段を上りながら検索してみる。
運営からのお知らせページがヒットした。
『現在、スケリア島内の冒険者ギルドにおいて、冒険者用教養講習の申込件数が激増しています。出来る限り多くの方の要望に迅速に応える為、以下のように処理の高速化を狙った対策を行いますのでご了承願います。
〇 受付職員NPCの増員及び処理高速化
〇 講習部屋の増室』
なるほど、要望に応える為にその辺対応していると。
外見以上に教室数を増やすなんて仮想世界でなければ無理だ。
ただこういった事を『リアルじゃない』と嫌う人もいるのかもしれない、なんて事も思ったりする。
その辺の意見は人それぞれだから。
先ほど読んだ運営からのお知らせも、そういった方面からの文句を抑えるためのものだろうし。
そんな事を思いつつ2階へ。
どう見ても建物の外見以上に長い廊下。
本来は窓がある筈の道路側も含め両側にずらりと並んだ教室の出入口。
12番教室は階段から数えて3番目、右側。
入口に『科目:中卒程度数学』と書いてある出入口から私は中へ入った。
◇◇◇
うん、危ういところだった。
2回見直さないと気付かないケアレスミスが1問あった。
しかししっかり見直したおかげで、無事満点賞を獲得。
「こちらが成績表になります。今回の講習で
言われてそうかと改めて気づいた。
もし満点賞を取れずに
レベル60になってハイエルフあたりに進化するまで。
見直しをして良かった。
そう心から思う。
「成績表の通り今回は満点です。ですので満点賞の賞品をひとつ選ぶ事が出来ます。
こちらがそのリストです。賞品はどちらになさいますか」
周囲の冒険者からの視線を感じつつ、私はリストをざっと見る。
あった、『格闘術奥義皆伝』。
名前が槍術のものとほぼ同じだし間違いないだろう。
それでも念のため他もざっと見て確認。
うん、大丈夫。
「それではこの『格闘術奥義皆伝』をお願いします」
どよめきに似た何かを感じた。
気にしないそぶりを徹底する。
「わかりました。それではこちらになります」
装幀は『槍術奥義皆伝』と色以外ほとんど同じ。
厚めの和紙風の黄色い表紙で厚さもほぼ同じ。
「ありがとうございます」
受け取ってすぐにアイテムボックスへ仕舞う。
周囲の視線が微妙に怖い。
しかし隙を見せたらまずい。
ここは気づかないふりを続ける。
「それではこれで手続きは終了です。本日は講習受講お疲れ様でした」
「こちらこそありがとうございました」
受付嬢さんに頭を下げ、そしてくるっとターンして。
入口までのルートを確認、障害物が無いコース選定完了。
私は全力ダッシュで走り出す。
もちろん妙な奴に声をかけられるのを避ける為だ。
入口の扉が開いたままになっているおかげでそのまま冒険者ギルドを脱出成功。
念のため更にダッシュを続ける。
曲がり角を4つ曲がったところで背後を確認。
どうやら妙な追跡者はいないようだ。
ただどうしても不安は消えない。
時間を確認、11時10分だ。
まだお昼まで余裕がある。
ふと錬金術ギルドに寄ってみようかと思いついた。
予定ではカレンさん、今日まではいる筈だ。
雑談して時間を潰してから帰れば少しは安全だろう。
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