第89話 遭難船の名前⑵
「それじゃまたな」
メアリーさんはそう言うと階段を上っていった。
カリーナちゃんは後ろ姿を見送り、そして歩き出す。
「あの人は攻略系動画の配信者です。あのカラスはカトゥボドゥアという特殊従魔で、動物や魔物では無く古代遺物のゴーレムです。攻撃補助の他に自分達の行動を上空の指定した位置から撮影する機能があります」
動画を流すか。
何というか余計に心配になる。
「ひょっとして名前を名乗ったのは失敗?」
「大丈夫です。あの人はそういったところは編集して出さないでくれますから。
それに多分、オブクラリスを新記録で倒したのが私達だって事、メアリーさんは気づいています。出会って話をしたのも本当はその確認が目的です、きっと」
うーん、ますます危険な気がする。
それにカリーナちゃんの考えが正しいとすればだ。
「なら何でオブクラリスを倒したのが私達で、ここにいるとわかったんだろう」
「オブクラリス討伐の石碑から見当をつけたのだと思います。石碑の閲覧から詳細記録を辿れば討伐時の名前、職業、レベルがわかりますから」
どれどれ、試してみよう。
情報ウィンドウを開いて功績→石碑→スケリア島→コリション干潟と階層を辿る。
石碑の映像が出てきた。
討伐日時順に上から下へ記載していく方式のようだ。
下から3番目に私達の記載があった。
『ムーサー暦132年3月4日、無名パーティの格闘家カリーナ・ラオ・ハワ、錬金術師ミヤ・アカワ、魔犬ラッキーにより15分23秒の戦闘の末に倒された』
無名パーティか。
そう言えばパーティ名をつけていなかったなと今更ながらに気づいた。
でも今はパーティ名を考えている場合では無い。
討伐の詳細、そう意識して見てみる。
石碑の記載が変わった。
『無名パーティ
カリーナ・ラオ・ハワ 格闘家 レベル66 装備:シルバーナックル、無銘体操服、標準ショートブーツ オブクラリス討伐2回目
ミヤ・アカワ 錬金術師 レベル34 装備:
ラッキー ミヤの従魔 魔犬 レベル36 装備 可愛いペットのシンプルコート(上) オブクラリス初討伐』
なるほど、レベルと討伐回数、職業でカリーナちゃんと見当をつける事が出来る訳か。
カリーナちゃんを知っている人ならば、だけれども。
カリーナちゃんの説明は更に続く。
「コリション干潟クエストの次の難易度と言えば、
そう考えてメアリーさんは此処へ来たのではないかと思います」
確かにそう考えれば出会えた事は不思議では無い。
ならば、ひょっとして。
「変な連中がそう考えてここで待ち構えたりなんてしなくて良かった」
「
ただ本当は此処でそういった連中と出会う事は、ある程度想定していたんです。私の武器もミヤさんの武器も対魔属性があります。その事に気づいていれば、新要塞ではなく
最悪2~3人は運営送りにする必要があるかなと思っていました。そうすれば少しは大人しくなるでしょうから」
カリーナちゃん、そこまで考えていた訳か。
とりあえず今のところはそうなっていないからセーフと。
となると当座の心配は今のメアリーさんを信用していいかという事。
でもまあ、カリーナちゃんは信用しているようだしきっと大丈夫なのだろう。
どうも私、人をなかなか信じられなくなっているようだ。
人見知りをするというカリーナちゃんより、ずっと。
理由は叔母家族や遺産金狙いの皆さんのせいだとわかっている。
でももう少し気楽に考えてもいいかもしれない。
此処は
「オブクラリス関係の攻略が動画や記事になれば、私達を探すなんて面倒な人も減るでしょう。少なくとも情報確認の為に会う必要はなくなります。あの本を取得出来た人がもっと増えれば私達から手に入れようと考える人もいなくなるでしょう。」
確かにそうだなと私も思う。
満点賞、やっぱり狙える人は狙えるのだ。
場合によってはオブクラリス攻略なんてする気が無くても満点賞経由であの本を狙おうなんて人も出るかもしれない。
売ればお金儲けになりそうだし。
あ、でもあの本、売ることは出来るのだろうか。
アイテムの売買でゲームQ&Aを検索する。
『アイテムは『譲渡不可』と表示される一部のものをのぞき、プレイヤー間の合意で他のアイテムと交換、または
ならあの本の売買、問題ないようだ。
もちろん私はいまのところ売るつもりはないし、その必要もないけれど。
安心したところでひとつ気になった事を聞いておこう。
「それにしてもメアリー・セレストって名前としては縁起が良くない気がするよね」
確か乗員消失事件で有名な船の名前だ。
「わざとそうつけたと言っていました。現実から消え去りたいという名前なんだって、以前に」
思った以上に重い名前だった。
何というか闇を感じる。
「メアリーさんのサイトってアドレスわかる?」
「前に聞きました。送りますね」
「ありがとう」
カリーナちゃんからURL入りのメッセージが届いた。
後で家に帰ったら確認してみよう。
今はまだ敵が出る場所だから油断せずに。
さっき残った敵に気づかなくて、ラッキー君に助けられたばかりだし。
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