第14章 久しぶりのケルキラで
第80話 異世界の手強い卵
コリション干潟を攻略し終わった翌日の朝9時過ぎ。
私達はケルキラの街にある私の家へと無事到着した。
「なんというか、随分久しぶりな気がするよね。こっちの家」
「そうですね。実際は4日ぶりなのですけれど」
ラッキー君は庭の端をゆっくり歩きながら匂いを嗅いで、不在中の状況を確認中。
窓を開けて魔法で風を通して、そしてリビングで一息つきつつお茶の時間。
「今回は蒸しプリンを作ってみました」
以前チーズケーキを作ったケーキ型で作ったと思われるサイズ。
つまりプリンにしてはかなり大きいけれど、ハードに作ってあるようでしっかり自立している。
いかにもという焦げ茶のカラメルが上からかかっているのもいい感じ。
庭を確認していた筈のイヤシ犬がいつの間にかテーブル横ではあはあしていた。
この辺はいつも通りだ。
「今日も美味しそうだよね」
「ネットでみつけた『しっかり固い昔ながらのプリン』というレシピを元にしてみました。魔法を使うと蒸し器を使ったり温度調整に苦労したり、加熱や冷却に時間をかけたりしなくて済むから楽です」
ケーキのように切り分けでそれぞれの皿へ。
なお切り分けても崩れない位にハードだ。
勿論カリーナちゃんが切り分けるのが上手だというのはあるけれど。
うん、スプーンを入れても崩れない。
味はしっかりコクがあってプリンプリンしている。
ほろ苦のカラメルソースもいい案配だ。
「何というか、ここまでしっかりしたプリンって久しぶりに食べた気がする。売っているのよりずっと美味しい」
「分量そのものはWebにあったのと同じです。でも良かったです」
ハードなプリンなのだけれど、ラッキー君は最初に頭を突っ込んだ時に崩してしまったようだ。
美味しかったようで皿の隅々まで舐めつくしているけれど、顔に飛び散った跡が残っている。
清浄魔法で綺麗にしてやって、そしてカリーナちゃんに聞いてみた。
「さて、今日はこの後どうしようか。買い物は当分しなくても大丈夫だし。
もしカリーナが講習に行って満点賞を狙ってくるなら、ラッキーと一緒に待っているけれど」
帰る途中の雑談でカリーナちゃんが言っていたのだ。
『もし私も『槍術奥義皆伝』の拳技版を読んだら更なる技を使えるようになるかもしれませんね』と。
「流石に満点賞を狙って取るのは無理だと思います。ただ
無理だと思いますは謙遜で、実は狙う気だな。
そう私は察した。
「なら行ってきなよ。私は久しぶりにラッキー君とのんびりしようと思うから。あと少し家でやってみたい事もあるし」
やってみたい事、それは料理の練習だ。
いつもいつもカリーナちゃんばかりに負担をかけて大変申し訳ない。
しかしカリーナちゃんに教わるのはやめた方がいい気がする。
というか一度やって懲りたのだ。
「わかりました。それではこれを食べたら行ってきます」
「こっちは気にせずじっくり時間をかけて見直しとかしてきて。何なら向こうで食べてきてもいいから。こっちは昼食もストックはいっぱいあるから」
そうは言ってもカリーナちゃんは外食とかするタイプでは無い。
だから私の作った昼食で出迎えるつもりだったりする。
簡単な料理くらいなら私だって作れるだろうし。
◇◇◇
さて、カリーナちゃんが出て行ったので早速料理だ。
キッチンへ入り、まずはボウルを棚から、卵をアイテムボックスから取り出す。
そう、まずは基本の玉子焼きから挑戦だ。
まずは卵を割り入れるところから。
しかしこの卵、ボウルの角に軽くぶつけた程度では軽いひびしか入らない。
きっと
もう少し力を入れてぶつけてみる。
あっ、殻がボウルの角にめり込んだ。
おまけに中の白身がこぼれてしまう。
慌てて残りをボウルの中へ入れたが、白身は半分くらいに減っているし卵の殻が混入している。
黄身も潰れて流れている状態。
スプーンを出して殻を取ろうと試みるもうまくいかない。
スプーンから殻の破片が逃げるのだ。
うん、これはもう駄目だ。
卵一個は尊い犠牲となり、そして私は教訓を得た。
卵を割るのは諦めるべきだと。
しかしそこで私は天啓にうたれる。
そうだ、中が流体だから難しいのだ、固めてやれば問題ないと。
そう、ゆで卵だ。
私はアイテムボックスから卵をもう1個取り出す。
さて、ゆで卵は温度で卵のタンパク質が固まることを利用した料理だ。
故に卵全体をそれなりの温度にすればゆで卵が出来る筈だ。
わざわざ長時間茹でる必要は無い。
私は卵を皿の上に置く。
温度は……素早く全体を固めたいから沸騰温度よりちょい上、120度くらいでいいか。
それでは加熱魔法、卵全体を120度に……
ドン! 熱い!
何が起きたんだ!
私は熱く感じた腕に魔法で水をかけつつ周囲を観察する。
黄色や白のつぶつぶが飛び散っている。
そして卵が上半分飛び散った哀れな姿になっていた。
清浄魔法を起動、とりあえず付近に飛び散った元・卵だったものを片付ける。
しかし私は戦慄を禁じ得ない。
まさか卵が爆発するとは思わなかった。
流石
仕方が無い、今日はこのくらいにしておいてやろう。
私はボウルにも洗浄魔法をかけ、料理を試みようとした痕跡を抹殺する。
今日は日が悪いのだ、きっと。
だから挑戦は次の機会で。
それでは気分を取り直してラッキー君と遊ぶことにしよう。
私はキッチンと反対側、庭に出る窓にへばりついているラッキー君に声をかける。
「ラッキー、ちょっとお庭でボール遊びをしようか」
窓を開けるとダッシュで外へと出て行く。
どうやらラッキー君も遊びたかったようだ。
そう思いながら私もサンダルをはいて外に出た。
※ 何故ラッキー君がキッチンと反対側の窓にへばりついていたかは……まあ、言わぬが花という奴です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます