第6話 宿でまったり夕食を

 役場にて本日3回目の換金を実施。

 とりあえずお金はしっかり稼げた。

 これで1週間くらいは稼がなくても大丈夫だ。

 勿論天気が良ければ明日も討伐をするつもりだけれど。


 レベルも3まで上がった。

 きっと身体能力も成長しているのだろう。

 収納容量の増加以外はよくわからないけれど。

 

 でもいい加減疲れたなと感じる。

 それにお腹も空いてきた。


 そう言えば昼食を食べるのを忘れていた。

 しかも考えてみれば朝食も食べていない。

 朝一番に船でここの港に着いたという設定だったのだ。

 朝食は船中で出ていないだろう。


 決めた、宿を探そう。

 宿へ入って夕食を食べて休むのだ。


 しかし宿ってどう探せばいいのだろう。

 予約なんて制度は無いだろうし。

 そう思いながら役場を出る。


 街の賑やかそうな方へと足を向けてみる。

 10mも歩かないうちに早くも宿屋発見。

 宿賃も看板に明記してある。


『宿屋 半月亭

 棚貸し相部屋 1泊200Cカルコス

 個室 1泊400Cカルコス

 宿泊者の場合40Cカルコスで朝食追加』 


 シルラが言っていた値段とほぼ同じだし妥当な線だろう。

 ただ建物が少々ボロく薄汚れた感じがする。

 今ひとつここでいいという気になれない。


 他にあるか見てみて、無かったら戻ってこよう。

 だから私は更に先へ。


 この辺りは飲食店やテイクアウト食品の店が多いようだ。

 テイクアウトの店の店頭と看板をちらっと見てみる。


 ギロスというものが概ね1個40Cカルコスくらい。

 見ると店内でケバブみたいに串に刺した肉を焼いている。

 この肉やトマト、フライドポテトをクレープで巻いたものがギロスというもののようだ。


 明日あたり昼食用に買っていってもいいかもしれない。

 そう思いつつ、更に先へ。


 武器屋、防具屋、薬局、食堂なんて店の後、宿屋をもう1軒発見。

『宿屋 夕凪亭

 個室 1泊400Cカルコス

 宿泊者の場合40Cカルコスで朝食追加、70Cカルコスで夕食追加

 連泊歓迎、3泊以上割引き有り』 


 値段は先程の宿と同じだけれど、相部屋はなく個室のみ。

 そして夕食や連泊割引きなんてのがある。

 建物は古いけれどしっかりメンテされている感じだ。

 入口もしっかり掃除している。


 ここでいいかな、疲れているしお腹も空いたし。

 私は中へ入ってカウンターへ。

 受付をしているお姉さんに声をかける。


「すみません。泊まりたいのですけれど、部屋はありますか」


「ええ、ございます。部屋を確認されますか?」


 泊まるか決める前に部屋を確認出来るのか。

 これなら泊まったけれど部屋が酷い、なんて事が無くて済む。

 なかなか良心的なシステムだ。


「御願いします」


「わかりました。それでは案内します」


 階段を上がって2階の部屋に案内された。


「こちらが400Cカルコスの部屋となります」


 部屋はベッドと机だけとシンプルで広さも最小限。

 しかし清潔で好感が持てる。


 窓は一応あるけれど、3m位先に隣の建物。

 まあカーテンを閉めておけば問題無いだろう。

 勿論窓そのものを閉めておく事も出来る。

 だから問題はそれほど無い。


「トイレと浴室は合同です。確認されますか」


「御願いします」


 それぞれ案内して貰って確認する。

 いずれも清潔で感じがいい。

 今日のところはこの宿でいいだろう。


「わかりました。それでは1泊、御願いします」


「それでは下へ戻ります」


 受付カウンターで夕食と明日の朝食分を含め510Cカルコス支払う。


「夕食、朝食ともにそちらの食堂で食べる形になります。この食券を入口で提示して下さい。食券そのものは食事をテーブルに届けた時点で回収します。

 夕食は今から夜20時まで、朝食は朝6時から9時まで、チェックアウトは10時までとなります」


 それなら夕食にしよう。

 いいかげんお腹が空いているから。


 しかし外を歩いたままの格好では不味いかなと思う。

 マント、砂埃だの返り血だのを浴びているし。

 防汚の継続魔法がかかっているから一見そうとは見えないけれど。


 まずは一番上に着ているフード付きマントを脱いで収納。

 次に清浄魔法で服や靴等の埃や汚れを取る。

 種族がエルフの場合、いくつかの魔法が最初から使える。

 清浄魔法もそのひとつ。


 これ1つで身体は風呂に入った以上にきれいになるし、服も洗濯してアイロン掛けしたのと同等となる。

 現実にも是非あって欲しい魔法だ。

 まあ現実には当分戻らないつもりだけれど。


 これで食堂へ行っても大丈夫だろう。

 カウンターから階段を登らず奥の食堂スペースへ。


「夕食です」


 食堂入口で先程とは違うお姉さんに食券を提示。 

  

「空いているお席へどうぞ」


 ゲーム内時間は視界端に半透明で表示されている。

 今の時間は16時過ぎ。

 夕食には時間が早いからか食堂はガラガラだ。

 私の他は軽戦士風の若い男が1人だけ。


 これだけ空いているなら遠慮する必要はないだろう。

 4人掛けの席に1人で陣取り、そして食券をテーブル上に置く。


「お待たせしました。本日の夕食です」 


 座ってすぐ、先程食券を見せたお姉さんがやってきた。

 でもお姉さん、何も持っていないよな。

 そう思った次の瞬間、テーブル上にトレーに載った食事一式が出現する。


「ごゆっくりどうぞ」


 そうか、あのお姉さんも収納を使ったという事か。

 確かに収納を使えば手で持たなくてもいいし収納中は劣化しないし便利だ。

 現実でも欲しい能力スキルだよな。


 さて、トレーに載っているのはメイン、サラダ、スープ、パン。

 スプーンとフォークで食べる形式のようだ

 

 まずはメインと思われる皿っぽいのにこんもり乗っかった、上面が茶色のパリパリっぽいものから。


 スプーンを入れて下まですくい取る。

 茶色の層の下はホワイトソースで、その下はミートソースっぽい味の挽肉らしいと目で確認。


 次は食べて確認だ。

 一番上はパリパリになったチーズとパン粉で、その下がホワイトソース。

 更にその下は95%挽肉という感じの肉々しいミートソースと焼いたナスで、一番下の土台部分は挽肉交じりのマッシュポテト。


 食べた事がない組み合わせだけれど美味しい。

 味はまあミートソースとホワイトソース、そして上のチーズの味そのもの。

 しかしこれが組み合わさっているおかげで飽きない。

 なかなか凝っているけれどこの辺の地方ではメジャーな料理なのだろうか。


 他には

  ○ ジャガイモの代わりにほぐしたパンを使ったポテトサラダ風のもの

  ○ 豆のスープ

  ○ 黄色いもっちりしたパン

がついてきた。

 どれも悪くないというか美味しい。


 考えてみると最近、宅配で購入した冷凍パンとか冷凍食品ばかり食べていた。

 外に出るのが怖かったからだけれども。


 冷凍食品さえ面倒で、冷凍パンをオーブンレンジで解凍したものにマーガリンを塗っただけ、という時も多かった。

 そのせいできちんと作った料理というものが久しぶりだったというのもあるかもしれない。


 日本の冷凍料理や冷凍パンは世界有数の美味しさだとは思う。

 しかし毎日それというのも飽きるのだ、やっぱり。

 こうやって作ってもらった料理を熱いうちに食べるのとはやっぱり違うし。


 なんて思いながら食べて、夕食も終盤という事になってやっと思い出した。

 これ、ゲームだしVRだったなと。

 しかしそう気付いてもやっぱり美味しい。


 ここはVRだとかゲームだとかいうのは気にしないほうがきっと正解。

 その方が楽しいし美味しいと感じられるだろうから。

 

※ 夕食のメインのおかずは、ムサカと呼ばれる東地中海地域で一般的な料理です。一応ギリシャ風のレシピのつもりで書いています。

 しかしこのムサカ、日本の味噌汁と同様にバリエーションがやたら豊富です。だから上で書いたのが一般的かと言われると自信ありません、というか多分違います。

 またパンが黄色いのはセモリナ粉を使っているからです。


※ テイクアウトのギロス

  ピタパンに肉やフライドポテト、タマネギスライス、トマト、水切りヨーグルトソースを挟んだものです。

  肉はケバブのように丸めて串刺しにして焼いた肉をそぎ取ったものです。ギロスの場合、肉はマトンに限らず豚の肩肉なんかも使ったりします。

  日本のギリシャ料理店でギロピタなんて呼んでいるものと同じだと思って下さい。

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