第12話

あれから二週間程たった。


平和な日々が遠のいたと思っていた俺だが意外にも快適な日常を過ごしていた。


木曜(食堂の特別限定メニューの日)以外は欠かさず生徒会室通いを続けている。

以前カズに話したように俺は誰かが側に居ると悪夢を見るため熟睡出来ず体調を崩す。だからもしそんな事になったらお誘いを断ろうと思っていた。


だが、、、と鏡に映る自分の顔を見る。

そこには肌艶が良く目に精気が溢れている自分が映っていた。まぁ昼寝の質だけの・・・効果ではないだろうが。


今日もいつも通りカズとの昼食後に教室を出ようと席を立つ。

するとこれまたいつも通り『およよよ、、』と嘘泣きをして追い縋ってくるカズを引っぺがし陽キャグループに放り込みヒミツの安眠スポットへと足を運ぶ。



周りに人が居ないか軽く確認しドアをノックする。


コンッ コンッ コンッ コンッ コンッ



いや、何故5回?

と最初の頃は思っていたがーー


『遥希(くん)のノックを特長的にする事でそれ以外の時、すかさず私(早苗)が身を隠せる様にする為(よ)』


と、二人はまるで示し合わせたかの様に口を揃えて言ってきたので『まあ確かに。』と一応納得してこの5回ノックをしている。


ただ気になるのは退出時にも何故か5回ノックさせられている事なんだが、早苗のニマニマした目を見る限りイタズラの一貫が見え隠れしている。

まぁノックするだけだし実害はなさそうだからここはスルーしよう。


そしていつも通り生徒会室の中へ入ると由紀が極上の笑顔で迎え入れてくれる。

ドアのすぐ横を見れば早苗が気配を殺しひっそりと佇んでいた。

最初のうちは壁に貼り付き無表情で此方を見る姿にヒッと息を呑んでいたものだが数日もすれば慣れたものだ。

それに無表情と思っていた顔もその実、目だけは感情でくるくる変わる事に気づいた。

今その目は嬉しさを全面に出しキラキラと輝いており、俺を歓迎してくれているのだと読み取れる。



「遥希くん、いらっしゃい。待ってたわよ。さあどうぞ好きに過ごしてね。」


「こんにちは。ゆ、由紀に、、早苗。いつもありがとう。」



挨拶を交わし、未だぎこちなく二人の名前を呼ぶ自分に苦笑いが溢れる。

『折角親しくなったのだから呼び捨てをして欲しい』と詰め寄られて早数日。

彼女達のグイグイ詰めてくる距離感に辟易しつつも嫌じゃ無い自分が居る。



「じゃあ早速寝かせて貰うね。おやすみ。」


「ん、おやすみ。」


「おやすみなさい。良い夢を。」



直ぐに早苗からアイマスク、クッション、ブランケットを受け取り今では指定席となった日差しが暖かい窓際のソファへと横になる。


そうここでは本当に寝るだけなのだ。

会話は挨拶や昼寝後の僅かな時間だけで、それ以外は俺に構うわけでも無くただ寝かせてくれて居る。

二人の空間に異物である俺が紛れ込み邪魔なはずなのに『三人でいる空間が今のお気に入りなのよ。この心地良さが私たちのメリットよ』と本当に幸せそうな顔をして言うものだから、そのままその言葉に甘えさせてもらっている。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



薄ぼんやりと意識が浮上する。

生徒会室には石鹸とラベンダーの匂いがほのかに薫っていて心地よい。この二つの匂いはおそらく彼女達から放たれた香りだ。

以前身体に付いた残り香はこの二人のものだった。

でも、同じ空間だけでこんなにも強く残るものか?

そんなことをぼーっとした頭で考えていると


ーーーなんだろう、いつもより濃いラベンダーの匂いが直接鼻腔をくすぐる。



「遥希、時間。起きる。ぎゅーーー」


「ーーー、、、、ぐっ!!?っぷはっ!!スッ、ストップ!!起きた起きたから早苗離れろって!お前のそれは色んな意味で凶器だから!!」


完全に目が覚め一瞬で状況を把握した。

俺は慌てて早苗を引き剥がした。

不満げな目で「ちっ、遥希覚醒早過ぎ。」と離れていき甘えるように由紀の頭を抱き締めている。

その際凶器、もとい高校生らしかなぬ大きな二つ膨らみがぐにゅっと歪み由紀の顔を覆って居た。

『俺もあれやられたんだろうな』と遠い目をして見ていると二つ膨らみが凶暴なまでにその形を変え始めた。

由紀の表情は見えないが苦しいのは明らかで空気を求め頭を前後左右に動かしているのだろう。

いやはや、正直寝起きに見るには刺激が強すぎる光景だと視線を逸らす。

最近こんな風に俺に対しても積極的にスキンシップをしてくるものだから困ってしまう。

まあそれだけ心を許してくれて居ると言う事だから嬉しくはあるのだが、、、勘違いしてしまうかもしれないのでもう少し距離感を見直して欲しいところだ。

最低浮気男なんかに好かれたら二人は良い迷惑だろうしな。



キーン コーン カーン コーーン



昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響く。

おっと、本鈴まであと5分。流石に切り上げないといけない。



「はい、そこまで。また前みたいに授業遅刻しちまうぞ。」



二人に近寄り肩を軽く叩くと早苗は頷き抱き締める力を緩めた。



「っはぁ〜〜〜、もう時間なのね。んん〜、早苗と遥希くんの良い匂いに包まれて濡れちゃったわぁ。」


由紀がアカン事申告してきましたが!!??


「んっ、私も濡れ濡れ。じゃあこのままする?遥希も一緒に」


こっちもか!!?ってか俺!?いやいやいや、俺を巻き込むなってばーー!


「アリね。じゃあさっそーーー」


「では私《わたくし》はお先に失礼致しますわ。ご機嫌よう。新實さん刈谷さん。」



つい動揺してお嬢様言葉になってしまった。

いやでも流石にこのノリは焦るって。

あの孤高のヤンキーやカリスマ生徒会長が、アレだぜ?



「あらあら、今回も振られてしまったわね。さあ、諦めて教室へいきましょうか。」


「むーー残念。次こそは3ピーーーーーーー」


「それ音隠れてないからな!」



そんな冗談(、、、冗談だよな?)を交わしつつみんな速やかに退出の準備をする。

そして俺が5回ノックしドアを開けると二人は何かに満足した顔で頷いた。早苗なんて鼻歌で一昔前の曲を奏でて居るし、由紀はクスクス笑って居るし本当になんだろう。


分かれ道になりそれぞれ自身の教室へと足を運ぶ。



「じゃあ遥希くん、またね。」



そう由紀に声を掛けられ肯定の意味で手を挙げる。




教室までの道のり。

早苗の鼻歌が移ってしまい、つい朧げに口ずさんでしまう。

確か俺らの親世代で流行った曲だ。



♪〜〜〜

〜角を曲がるまで ふふ〜ふふふ〜ん

いつも ブレーキランプ 5回ふふふふ〜ん ア・イ・シ・テ・ーーー、、、、



、、、、、、あっ。




また、やられたな。



俺は二人に向かって強制的にサイン送って愛を囁いてたらしい。




「ふふふっ」




「クスクス。」



ーーーーーーーーーーーーーーー



ちなみに作者はヘルメットぶつける無印の方が好きです。

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