第4話
とうとう放課後がやって来た。
鞄に用具を詰め教室を後にする。
あの後冷静さを取り戻しカズに、『プライベートな内容はちゃんとその本人の許可を取ってから話す事』
と説教をする事になった。
そして今後気を付けるようにと言う事で話を終えた。
いつもならここまで気にする事では無かったのだが、いかんせん今回はタイミングが悪かった。
カズが語った俺の情報はほぼ真実ではあるのだがあまりにも印象が悪い。
昨日秘密を知られたかもしれない相手がこんなクズだと何をされるか分からないと不安になるのはもっともで図書室での態度も頷ける。
だから俺は彼女たちに誠実な対応をし、無害である事を理解して貰わなくてはならない。
折角の2人の時間をこんな部外者如きが邪魔をしてはいけないから。
そうこうしているウチに生徒会室の前まで辿り着いた。
ドアを目の前にふぅーと深く息を吐き覚悟を決めてドアをノックする。
するとすぐに「どうぞ。」と新實さんの声がしたので「失礼いたします」と声を掛け入室しドアを閉める。
頭を下げてから改めて真正面を向くと新實さんだけしか居らずコの字型に配置されている長机の最奥の席に着きコチラを
「話しづらいからもっと近くに来なさい。」と言われ数歩ほど前に進むと突然背後から施錠音が聞こえた。振り返ると刈谷さんが後ろ手で鍵を掛けていた。
いや待って!気配ありませんでしたが!?
その後何も無かったかの様に刈谷さんは無言で新實さんが座ってる席の斜め後ろに控えた。まるで秘書みたいだ。
俺が知る限りこの2人はこんな風な関係ではない。
良く見る光景としては新實さんが刈谷さんの着崩し過ぎた制服を注意したり、明らかな遅刻を咎めたりするなどの『生徒会長と問題児』としての姿だ。
つまりこれを見せられていると言うことは俺は2人の関係を知っていると確信した上で話をしようと言うことだろう。
俺は彼女たちが満足する言葉を出せるよう最善を尽くそう。
けど、もし信用を得られなかったらーーー正直怖いなぁ。図書室で会った時の目を思い出し冷や汗がでる。まぁ最悪俺が犠牲になって解決するので有れば問題無いのである意味気楽ではある。
でも痛いのはさすがに嫌なのでなるべく穏便にお願いします!とつい縋るように新實さんを見てしまう。すると新實さんは何故か困惑顔をしていた。
だがそれも一瞬の事ですぐ生徒会長の顔へと戻った。
「さて宮里くん。私の質問に答えなさい。良いわね?」
有無を言わさない圧をかける様な話し方に少し引っかかる。
彼女はこんな威圧的な人だっただろうかと疑問を持ちながら「分かった。」と頷いた。
「では率直に聞くけど昨日あなたは何を見て何を聞いたのかしら?」
無駄話をせずさっさと本題へ移して来たので今回は誤魔化さず素直に話す。
「えーと知っての通り俺は一悶着後、公園のベンチに座っていたんだ。そしたら後ろの雑木林から聞き覚えある2人のちちくりあってる声が聞こえた。んで学校での2人の姿、在り方は良く知ってたからこれは聞いてはいけないものだと思ったのでさっさと退散したんだ。
言っておくが2人の邪魔は一切するつもりは無いから俺の事は気にしないで欲しい。」
聞いた事と俺が思っている事をそのまま伝える。言葉のチョイスが悪かったのか新實さんが『ちちくりあってる』のくだりで頬が若干赤くなっていたが俺の言葉を受けても依然として表情が硬い。完全に疑いの眼差しだ。
「邪魔は一切しない、ねぇ。本当?私たちの弱みを握ろうとしてない?」
そう思っても仕方がないな。2人の有名人振りをみると今までも何かしらあっただろう。疑い深くなるのも頷ける。
こりゃ誤解を解くのに骨が折れそうだ。
「ないない。第一俺にメリットないし、人の恋路を邪魔するつもりは毛頭無い。
現に俺誰にも話してないぞ。」
「メリットはあるじゃない。弱み握って私たちを好き勝手しようとか思ってるんじゃ無いの?
良くある話しね。
なんせ貴方って女癖が悪いじゃない?複数と付き合ったり、取っ替え引っ替えしてるみたいだし。」
やっぱりカズの話が不利に働いているらしい。まぁ複数と同時に交際するヤツは常識的にも倫理的にもクズだしな。
そう分かってはいるけどーーー俺は俺の心は通す。
「俺はお互い好きあってじゃなきゃそんな関係を持ちたく無いから、弱み握って無理矢理なんて外道は絶対しない。絶対、だ。
と言うか女癖が悪いとは失礼な。ただ一般的な価値観が違うだけ。確かに複数人彼女がいる事はあるが一人一人をちゃんと好きな気持ちがあるんだ。そこだけは理解しないでもいいから分かって欲しい。」
しっかり目を見据えてはっきり言うとずっと黙っていた刈谷さんが淡々と話し出す。
「目、表情、仕草どれを取っても白。彼は嘘を言っていない。
私たちに悪意は無い。ーーーあと一人一人ちゃんと好きあってるのも本当みたい。」
図書室でもここでもじーっと見られてるなとは感じてたけど刈谷さんって嘘発見器の役割だったの?!
驚いて彼女を凝視しているとずっと表情が硬かった新實さんから大きく息を吐くのが聞こえた。
「そっか。」
そう一言溢し安心した笑みを浮かべたのだった。
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