第46話 事件の解決

 俺は家の中で目を覚ました。

 ヨウカが俺を看病してくれていた。


「皆は、無事か?」

「無事です。一番大丈夫じゃないのはユウヤさんですよ」


「でも、チャクラヒールをかけくれたんだろ?」

「私だけじゃないですよ」


 部屋の扉を見るときゅうが扉から半分顔を出して俺を見ていた。


「きゅうは何度もユウヤを回復しました」

「きゅう」

「ユキナとあかりを守れなくて悔しいと言っています」


「きゅう、来い」


 きゅうが俺の膝に乗った。


「よしよし、気にするな。きゅうは悪くない」


 俺は、色々足りなかった。

 自分の力が足りなかった。

 みんなをもっと強く出来ていれば良かった。

 A市から引っ越しをしなかったのも良くなかった。


 全部を一気に揃える事は出来ない。

 次やる事は考えておこう。


 でも、俺は犯罪者か。


「ユウヤさん、どうしました?」

「犯罪者になってしまったと思って」


「大河さんとそうさいん?の方が訪ねてきていますよ」

「捜査員か。取り調べを受けよう」


 俺はあかりと入れ違いで捜査員の男から取り調べを受けた。

 あかりは、顔には出さなかったが動きを見て疲れているように見えた。

 ジンの件があった後だ。

 疲れるのが普通だ。


 俺は何を言えばいいか分からず、すぐに取り調べに呼ばれてすれ違った。




「はい、取り調べは以上です。もう自由にしていいですよ」

「そ、そうなんですね」」

「ああ、今は緊急事態宣言中ですから」


 異界が現れてからずっと緊急事態中だ。


「おほん、仙道君は大人の事情で無罪です」


「モンスターが多いのに人を捌いている場合じゃないと国民の民意を受けて捜査員なんかの人数が削減された中で暴力団やヤンキー崩れの冒険者が武装化して力をつけたり、改革の隙間を縫うようにA市の市長みたいな人間がいたりと捜査の手が足りないから国民も正当な手続きを省略して事件を早く解決する捜査員や裁判官たちを悪く言えずなあなあで済ませているのを放置している状態と考えればいいですかね?」


「ユウヤ君は賢いね。その通り、異界発生前の日本のように防御をガチガチに固めて中々改革を進められない状態では日本人が滅びてしまいますからね。今は急速な変化が求められています」


 失われた30年の時と同じように何年も裁判に時間をかける仕組みを続けていたら日本は滅びていたかもしれない。


 よく言えば迅速、悪く言えば雑な対応を取るしかない状況なのだ。

 それもあって日本は目覚め好景気を迎えている。

 人が亡くなった分のGDPは失われているが、1人1人の豊かさは上がった。


 正当な手続きを踏んで民主主義をきちんと進めていてはモンスターにやられる。

 今は異界発生前の防御をガチガチに固めた日本からの反動が起きているのだ。


「大河さんはまだいますよね?」

「話をしますか?呼んできますよ」

「いえいえ、自分で向かいますよ」


 俺は大河さんの元を訪ねた。


「起き上がれるようになったか」

「はい、大河さんにはお世話になりました」


「いい。こっちも知り合いが喜んでいた。楽に事件が解決したとな」

「どうなったんですか?」

「まずあかりの両親は無事だ、市長は逮捕され、二重陣の事件も市長の件もすべて明るみに出た」


「それは、安心しました」

「それでだ。B市に引っ越さないか?俺もそこに住むことにした」

「はい、それは考えていました。ここから異界の門までのルートや見学をしてギルドを移そうと思います」


「仙道、元気でな」

「え?もう帰るんですか?」

「捜査員を護衛しながら帰る。こいつは忙しいんだ」


 捜査員の男が俺に手を振った。


「……でしょうね」


 急激な改革には隙が生じる。

 制度の隙間や脆弱性をついて悪人が暗躍しやすい。


「受付嬢はお前が送ってくれ。じゃあな!」


 大河さんは帰って行った。

 あかりの様子を見に行こうとすると就寝中だった。

 今は休養が必要か。


 俺はまた眠て過ごした。




 もう少しで体力が回復する。


「こんにちわ~」


 受付のお姉さんがぬるっと部屋に入って来た。


「あ、どうも」

「この前はお世話になりました」

「あ、いえいえ、むしろ無理な運び方をして体調を悪くしましたよね?」


「確かに移動のGが凄かったですが、でも助かりましたよ」

「受付嬢さんが帰るのはもう少し後になると思います」


「それは全然、所で私の名前ですが、西野風音ニシノカザネと言います」

「西野さんですね」

「カザネです」

「カザネさんですね」


「……」

「……」

「……カザネです」

「……カザネ、ですね?」

「はい」


「所で」


 カザネが俺の耳元に近づいてきた。


「私の体でお返ししましょうか?」

「……え?」

「私は市長にその、奴隷のようにされちゃったわけで、でも、仙道さんに助けて頂きました。市長にされる事に比べたら、仙道さんは凄く、いいですよ」


「カザネ、大丈夫ですか?」

「正直きついです。私は女なんだと、思い知らされましたから。市長に奴隷のようにされて、でも、何度も気を失う瞬間は本当に気持ちよかったんです。おかしいですよね?」


「それは薬のせいですから」

「違うんです、市長に調教されるのが嫌で嫌で、私は現実逃避をしていました。市長ではなく、仙道さんにされる妄想をしながら自分を保っていました。ギルドで仙道さんが私のお尻や胸を見ているのが分かると気持ちよくなっていました。ギルドでは仙道さんに強く言ってしまう事もありましたが、本当は仙道さんから怒られて強引に体を押さえつけられる妄想をしながら仕事をしていました。後は」


「ちょちょっと!ストップストップ!ちょっと落ち着きましょう!」


 カザネの事がドMに見えて来た。

 かなりしっかりしているイメージがあって仕事も出来るのに、思ってたのと違う。

 後俺の視線が全部バレてる!


「仙道さん、温泉に入って、裸の付き合いをしませんか?」


 温泉=アレか!

 あれなのか!……いや、妄想はやめておこう。

 カザネはからかい上手だ。

 大人の女性はからかうのがうまい。


 調子に乗るな!

 俺!

 焦ってはいけない。

 毅然とした態度で臨む。


 恐らく、ああいう事件があった後だ。

 話をしよう、落ち着いて話を聞けば、それで終わりだ。


「そうですね!入りましょうか!」

「では行きましょう」


 2人で温泉に入った。




 ◇




 カザネは、ドMだった。


「はあ、はあ、せん、どうさん。出ましょうか。布団で、休みま、しょう」

「そうだな」


 俺はカザネとため口で話す。

 温泉でそうなったのだ。


 布団に行くとカザネが何もまとわずに俺と布団に入った。




 ◇




 チュンチュンチュンチュン!


「仙道さん!ご奉仕できず申し訳ありません!あぐ!」

「どうしたカザネ?最後まで言いきってくれ!」


 俺とカザネはごっこ遊びをしていた。


「カザネ、もう眠ろう」

「はあ、はあ、はー」

「大丈夫か?」

「いいです。こういうのがいいんです。仙道さん、私はB市のギルドで受付嬢になります。仙道さんに情報を届けます。みんながいる前では親しい感じではなく、敬語で話してくれませんか?」


「分かった」

「でも、温泉とベッド、2人の時はさっきみたいにしてくださいね。2人だけの秘密です」

「ヨウカ達は知っているけど」


「秘密のプレイです」

「ああ、そっちか」

「ふふふふ、ゾクゾクしますね」

「俺も興奮する」


 カザネが俺のキスをした。


 その口づけは、息が止まるほど長く、激しかった。

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