第47話 市長の最後
事件解決の前まで話はさかのぼる。
【A市市長・小池太一視点】
ワシは落ち目の街から冒険者を奪い取る。
「A市で共に生きていきましょう!ここにいてはモンスターの被害を完全に防ぐことは無理でなのであります!命を賭けて戦った挙句、責任を押し付けるように責められ続け、苦しい思いを続ける事になるのです!」
ワシはA市のメリットだけではなく、この街の問題点を指摘していく。
コツは冒険者に寄り添う雰囲気を醸し出しつつここにいれば苦しい思いをする、そう訴えかける事で批判ではなく、心配をしているように見せかける事だ。
スマホの電源を切っておく。
スマホを見ているワシの顔は皆に取って邪悪に映るようだ。
特に今は、帰ればユキナが待っている。
この状況でスマホを見てはいけない。
ユキナを犯す妄想が止まらなくなる。
市長はイメージが大事なのだ。
無事仕事が終わり、ホテルに泊まる。
スマホの電源を入れると大量の着信とメッセージが送られていた。
「なんだ?何があった?」
『ユキナとカザネが、攫われました』
「何だと!すぐに奪い返せ!」
『今Aランクとジンが部下を引き連れて取り返しに向かっています』
「国にバレていないだろうな?」
『分かりません』
「なぜ確認しないのだ!無能どもがあああ」
『それが、攫った犯人をしばらく見失いまして』
汗がダラダラと流れる。
まずい!
ドンドンドンドン!
「A市市長、小池太一、話を聞きたい!」
ドンドンドンドン!
ワシはスマホを切った。
この会話を聞かれてはまずい。
窓を見る。
今はホテルの15階だ。
窓を割って飛び降りれば生きたまま降りられるはずだ。
魔力がワシを守ってくれる。
異界発生前よりワシの体は丈夫になっておる。
だがもし駄目だったらワシは……
体が震える。
「小池太一!ドアを開けろ!」
ドンドンドンドン!
室内の電話が鳴った。
出てはいけない。
どうする?
今どうなっている?
スマホを回収されて調べられるのもまずい。
鍵が開けられ、武装した集団が入って来た。
「小池太一、何故出てこなかった?」
「わ、ワシは忙しいのだ」
武装した男のスマホが鳴った。
男が連絡を取って話をしている。
「そうか、小池太一の家、うむ、地下室が発見されたか」
「な、何を言っている!」
「小池太一、逮捕する」
「話を聞くと言っていたではないか!」
「状況が変わった。証拠も押さえつつある」
「ぬ、濡れ衣だ」
「分かった。濡れ衣を晴らすために同行しろ!」
「わ、ワシはいかん!これは横暴だ!訴えてやる!」
ワシは投げ飛ばされ、取り押さえられて、連行された。
◇
【次の日】
ワシは1日拘束された。
取り巻きもバラバラに取り調べを受けているようだ。
「いい加減に白状したらどうだ?」
「濡れ衣だ」
「もう証拠は揃っている」
「ワシは無実だ!ワシがいるおかげでA市は持っている!ワシがいなくなればA市は崩壊する!」
「もういい!連れていけ!お前らのような奴はまだまだたくさんいる。時間を取っていてはキリがない!」
ワシは異界に連れて行かれ、そこから目隠しをされて輸送車で連行された。
目隠しを外され、丘の上で降ろされた。
「なぜここで降ろした!」
「お前は最前線送りが決まった」
「こんなことは許されん!最前線は死刑と一緒だ!ワシは冒険者ではない!武器はどこだ!防具は!?これではただの人殺しだ!」
「理解が早くて助かる」
「バカな!こんなことは許されない!法を歪めている!」
ワシは丘の上から投げ飛ばされた。
斜面を転がる。
「次も投げ落とせ!」
ワシと一緒に連行された取り巻きも斜面に投げ飛ばされた。
「戻ってくるようなら発砲する!死にたくなければ走れ!煙が上がっている方向に人がいる!」
取り巻きはワシを無視して煙が上がる方向に走り出す。
「待て!どこに行く!ワシを置いていくなあああ!!!」
ワシの周りにスライムが集まって来た。
「スライムはタヌキをターゲットにした!今がチャンスだ!」
「タヌキがおとりになっている内に逃げるぞ!」
「あいつはもう駄目だ!おとりになってくれて最後だけは役にたったぜ!」
取り巻きが走り去っていった。
「待てえええええ!ワシが世話してやった!ワシのおかげでいい思いを出来たはずだ!」
ワシが叫べば叫ぶほどモンスターが集まって来る。
「ここは異界の最前線だ。国民の役に立ってモンスターを倒せ!出来なければ死ぬだけだ!」
「違法だ!これでは異界が発生する前の日本と変わらん!失われた30年と同じことを繰り返すのか!政治改革をしようとした途端にルールを守らずよく分からん理由で起業家を逮捕し、日本の発展を妨げてきた!」
「お前は何も発展させていない!お前が言うな!」
「何か都合の悪い事があると芸能人や政治家のスキャンダルをタイミングよくリークして国民の目を逸らす!ワシを国民の生贄にするな!」
「失われた30年と一緒にするな!お前はどう考えても悪人だ!」
「違う!ワシではない!ワシを逮捕する暇があったら悪人を逮捕しろ!」
「それはお前だ、この刑務所で反省しろ!」
「ここが!?違う!これは最前線の異界だ!実質死刑だ!ルールを歪めている!人権を何だと思っている!」
「お前が言うな!」
スライムが集まって来る。
ワシは横からスライムの攻撃を受けて転んだ。
「助けろ!助けんか!」
起き上がろうとするとスライムに肩を攻撃されまた転んだ。
「わ、ワシはモンスターの生命力を吸って強くなっている!負けはせん!」
スライムを殴った。
だが避けられ倒せない。
「無理だ!少し冒険者の後ろをこそこそついていき楽をしてレベルを上げただけで簡単に強くなれると思うな!スキルを磨いていないからスキルが育っていない!立ち回りを磨いていないから判断が悪い!」
「た、助けろおおお!」
「苦しい思いを人に押し付け、人を苦しめてきた罰だ!お前はスライムすら倒せない!」
「助けろおおお!武器いいいいいいい!武器をよこせええええええ!」
「助かりたければ煙の方まで走れ!錬金術師の罪人もいる!生きていれば武器を作って貰え!」
後ろからスライムに攻撃された。
起き上がろうとするとまたスライムに攻撃された。
スライムに囲まれ、ワシは何度も攻撃を受けていく。
「助けろ!ワシは市長だ!特別な人間なのだ!家畜とは違う!ワシは選ばれたぐぼおおおお!」
丘の上を見ると輸送車が離れて行く。
その後、小池太一を見た者は、誰もいない。
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