第2話 異界にダンジョンが現れた



「待っていろ!今助ける!」

「大河さん!無理です!あの子は諦めてください!このままじゃ全員死にます!」


 生徒の声が聞こえる。


「うああああ!殺されるうう!」

「助け!助けてえええ!」


「大河さん!全員を助ける事は出来ません!あの子は無理ですよ!」

「くそ!これを使え!」


 大河さんが俺に筒を投げた。

 剣の魔道武器だ。

 そしてスペアの剣を取り出してモンスターを倒しながら離れて行く。


 俺は武器を握って微量の魔力を込めた。

 筒から魔法剣が発生する。

 ファイターの資質が無い俺が使っても威力は低い。

 行けるか!?


「バリア!」


 スライムを斬ると1撃で倒せた。

 俺でも倒せる!

 問題無く戦えるんだ!


 俺は何度もバリアを使ってモンスターを斬り倒していく。

 包囲を抜ける事が出来ない!


 倒しても倒してもモンスターが減らない。


 100を超えるスライムに包囲された。

 後ろからタックルされて慌ててバリアを使う。


 遠くを見ると鬼道の不気味な笑みが見えた。

 あいつが悪魔に見える。

 俺が死ぬのが嬉しいのか!?


 俺の頭にふとよぎった。


『何で助けたんだ?助けなければよかった』


 みんなが魔法陣の方向に走って行った。

 俺だけが残され戦い続けた。


 



「バリア!ぐ、バリア!」


 手が痺れる。

 腕が動かなくなってきた。

 魔力を使いすぎて吐き気がする。


 魔力酔いだ。

 魔力を使いすぎると二日酔いのような症状が起き始め、能力値が減少するのだ。




 スライムが俺に近づいてきた。


「うああああああ!来るな!来るなああ!」


 その時地震が発生した。

 俺の目の前に巨大なタワー生えてきた。


 タワーを中心に魔法の幕が発生して広がっていく。

 モンスターが弾かれ、俺だけがその幕の中に入る事が出来た。


「たす、助かった?」


 俺は嘔吐した後、地面に倒れこんで気を失った。




 ◇




【自衛官・大河雄大視点】


 俺は高校の生徒を1人見捨てて異界の外に出た。

 生徒たちは安心したような顔をした後、すぐに顔が引きつった。


「ダンジョンの外も、なの?」

「3回目のモンスターパレード!」


 モンスターパレードとはモンスターの大量発生の事だ。

 1回目のモンスターパレードでは現代兵器が通用しないモンスターへの対抗手段が分からず、日本で4000万人の被害を出した。

 2回目のモンスターパレードでは、魔力を使い、モンスターを倒す事を学んだ。

 それでも訓練不足により2000万人の犠牲者を出した。


 魔法陣から魔物が出てくる。


「落ち着け!ここは異界よりモンスターの発生頻度が少ない!高校に避難して結束して戦えば生き延びる事が出来る!」


 俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。

 生き延びられる保証などないのだ。


「皆で集まって戦えば生存率は高くなるわ!」


 逃げ回り誰も戦わないでいるとモンスターが減らない。

 モンスターは倒されるまでずっと人を狙い続ける。

 協力してモンスターの数を減らすのが最も効果的なのだ。


「そうだ!A市高校に移動する!座らずに走れ!」


 情けない!

 生徒一人助けに行けないのか!


 分かっていた。

 あの子はもう、死んでいる。

 俺が投げた剣も無駄だった。

 せめて、これ以上は死なせはしない!


 俺は前に出た。


「前にいる敵は俺が倒す!後ろからついてこい!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は道を斬り開くようにモンスターを倒しながら高校を目指した。





【仙道優也視点】


 俺は目を覚ますと周りを見渡した。

 タワーを中心に張られたバリアがモンスターの侵入を阻んでいる。

 タワーを見るとまがまがしいものを感じる。

 

「まるで魔王のタワーだ」


 タワーのバリアを一周するが、モンスターが見張っている。

 タワーの入り口を何カ所か見つけた。

 だが怖くて入れない。


 今何時だ?

 魔道スマホが壊れている。

 異界は通信圏外だ。

 生活魔法の収納でしまっておくべきだったか。


 ……今は時間どころではないか。

 幸い俺の力は増している。

 モンスターをたくさん倒せたのと、大河さんが倒したモンスターの生命力を吸収できたおかげか。


 俺はステータスを開いた。




 ユウヤ 男

 ジョブ ????

 レベル ????

 体力  ????

 魔力  ????

 速力  ????

 スキル:『生活魔法』『バリア』『シールド』




 ゲームと違って名前・性別・スキル以外見る事が出来ない。

 高価なアイテムを使えば他の能力も見る事が出来るみたいだけど、ステータスは基本スキルを見る以外に使い道がない。


 ……決めた。

 モンスターの包囲を突破して異界から出る!


 その前に、休もう。

 魔力酔いで頭が痛い、吐き気がする。

 動きすぎて体が痛い。

 



 休み、あかりが作ってくれた弁当を食べた。

 食料は貴重だ。

 あかりに感謝だな。


 深呼吸した。

 俺はモンスターの少ない場所を選んでバリアを抜けた。


 スライム7体!

 そしてチキン3体!

 チキンは大きいニワトリだ。


「バリア!」


 俺の体を魔法の光が覆う。


 俺はチキンを狙って魔法剣を突き刺す。

 1体を倒すとチキンが黒い霧に変わって消えた。


 そして邪魔なスライムを倒して次のチキンを狙って走る。


 クエエエエエエエエエエエエエ!


 叫ぶチキンを斬り倒すと周りからモンスターが集まって来る。


「まずいまずいまずい!」


 俺はバリアの中に逃げた。


「はあ!はあ!甘、かった!」


 チキンが叫んだことでモンスターが集まって来た。

 モンスターの生命力を吸収して、剣を手に入れて強くなった気になっていた。

 でも包囲されたら終わる。


 方角を変えて何度もモンスターの包囲を突破しようとしたが無理だった。


「はあ、はあ、俺一人を、はあ、はあ、殺すためにそこまで、はあ、するか」

 

 俺は座って生活魔法を使った。

 異空間に収納してあったパンを取り出して食べる。

 これも前にあかりから貰った物だ。


 生活魔法は便利ではあるが、貴重なスキル枠3枠の内1つを消費する。

 ウイザード・錬金術師・ファーマーの前提スキルとして覚える事はあってもそれ以外の目的で取る事は無い。

 パーティーにウィザードがいれば生活魔法は当然使える。

 収納や着火、水を出したりと便利ではあるがウィザードが生活魔法を使える事もあって貴重なスキルではないのだ。


 ここで諦めたら終わりだ。

 何度も挑戦しよう。

 俺は脱出する!




 ◇




 俺は何度も脱出を試みた。

 だがモンスターを倒していると必ず周りにいるモンスターが集まって来て包囲されそうになりバリアの中に逃げる。

 これを何度も何度も繰り返した。


 何度も寝て起きてあかりに貰ったお菓子も弁当もパンも携帯食料も全部食べつくした。

 武器の動力が切れて何度も動力が切れて魔石を交換した。


 俺はモンスターの落としたドロップ品を集めて逃げ帰るだけの行動を繰り返し消耗していく。


 チキンを切り倒す。


 チキンが肉をドロップした。


「肉だ!」


 モンスターだけではなく、ドロップしたアイテムの上にもアイテム名が表示される。

 俺はチキン肉を掴んでバリアの中に逃げ込んだ。


 脱出は難しい。

 甘かった、何度もモンスターを倒していればモンスターが減ると思っていた。

 だが、モンスターは無尽蔵のように集まって来る。

 焚火をしながら後ろにあるタワーを見つめた。

 タワーには何があるんだろう?

 怖いと思っていたタワーだが、何度も脱出に失敗して思った。


『タワーに入れば何かがあるかもしれない』


 モンスターパレードが起きた今、救援は期待できない。

 自分で何とかするしかない。


 もし何かあっても逃げてくれば大丈夫だ。

 肉を食べた後、タワーの内部に向かって歩き出した。

 もう、それしか、出来る事は残されていなかった。

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