第13話『すべてを抱えて行く』

 最近、どうもイチゴとアリアさんの仲が良さそうだ。


 まあ、元から友達だったし将来的に義理の姉妹みたいな関係になるのだから仲いい分には何も問題無いが。


 それにしては仲が良すぎる感じだ。


 なんか浮気してるみたいにこそこそと俺を避けてるしな。


 という事で、捕まえて問い質してみた。


「申し訳ございません恭一さん。私……浮気してしまいました……」


 で、アリアさんから聞かされた事実は結構ショッキングな内容だった。


 まさかイチゴとアリアさんが一線越えた事をするとはな……。


 浮気と言うには……微妙過ぎるが。


 男相手に浮気したなら文句なくギルティだが、アリアさんとイチゴは同性で、3Pとかやってる時に似たような事してたしな。


 という考えで、取りあえず許す事にした。


「……いいよ。元々俺はアリアさんたちの浮気を責められる立場じゃないし、相手がイチゴだからな。節度を持ってるのなら咎めたりしない。これからもイチゴと仲良くしてくれ」


「ありがとうございます恭一さん!」


 アリアさんは深々と頭を下げた。


 所で、ユカとイチゴの顔が見えないな。


 まさかとは思うがイチゴ、ユカにも手を出そうとしているのか?


 先ずはイチゴの部屋に行って確かめるか。


 イチゴの部屋の前に着き、不意打ちのつもりでノックせずにドアノブを捻ったのだが、ドアが開かなかった。


 鍵を掛けてるのか?益々怪しい。


 イチゴの部屋のドアの合鍵は持っているんだけども。


 一回自分の部屋に向かって引き出しに入れてあったイチゴの部屋の合鍵を取り出し、戻ってドアを開錠した。


 すると、ベッドの上で半裸のユカと、そんなユカに迫ろうとしている半裸のイチゴが見えた。


 明らかに事後で今から二回戦、って感じで。


「……何してるんだ?」


 彼女二人の気まずい場面に遭遇して、俺は自分でもわかるぐらいドン引きした。


「恭一!」


 直後、俺に駆け寄ったユカがそのまま抱き付いて泣き出す。


 この様子じゃユカとの合意は無かったみたいだ。


 手籠めにした後から合意を得るつもりだったのか?


 取りあえず犯人を睨み付けた。


「イチゴ」


 自分でもビックリするような低い声が出た。


 まさかイチゴ相手にこんな声が出るとは。


「……はい」


「ちょっと、リビングで話そうか」


「……うん」


 そしてリビングにて、俺に抱き付いたまま泣いてるユカを慰めながら、ソファの上で正座しているイチゴに一部始終と、その動機を聞き出した。


「きょーくんの気持ちはユカちゃんに取られちゃったけど、それでもきょーくんと一緒にいられるように味方を作ろうとしたの……」


 つまり、イチゴは俺と離れたくないと思えるくらいには、俺が好きだったという事だ。


「それならどうして……」


 俺を他の女子とくっつけるような真似を……いや、止めよう。


 色んな女子と遊んでる俺を取られそうなスリルと、それでも自分が一番に想われてるのが嬉しかったと、何度も聞かされたから。


 それが普通の感性と離れすぎてて、イチゴの気持ちを疑って心移りしたのは他でもない俺だ。


 つまり……今更なんだ。


 怒ったり悲しむ以前にただ呆れるくらいに、俺の心はイチゴから離れていた。


 もしイチゴが男だったら俺もブチ切れたんだろうが、そうだったらそもそもハーレムな状況にもなってないから意味の無い仮定か。


 てか、俺を取り返すんじゃなくて女子たちを寝取りに来るとか、邪悪過ぎないか?


 イチゴの邪悪さは一体どこまで行くんだ?


「取りあえず、今更イチゴを捨てたりはしないから、安心してくれ」


「いいの、きょーくん?」


「いい」


 今までの義理もあってイチゴを捨てるのも今更なんだからな。


 花京院家も俺のハーレムを認めた根本的な理由がイチゴの知能だから、イチゴを捨てるのは許さないだろう。


「ただ、合意無しでユカを襲ったのはやり過ぎだ。何かしらの罰を受けてもらうが……どんな罰がいいんだろうな……」


 悩み所だ。


 イチゴを捨てる事は出来ない以上、罰にも限りがある。


 それに、ついこの間までイチゴが一番好きだった事と、俺が先にイチゴを裏切った罪悪感もあって、イチゴに酷い仕返しをする想像が出来ない。


 イチゴを放置するとか、盗聴アプリを落として貰うとか、逆効果になるかも知れないし、盗聴アプリは逆に身を守る手段にもなり得るって前のキャンプで学習したしな。


「ユカは何かあるか?」


 なので被害者に直接聞いてみた。


「……私、恭一の実家に行ってみたい。思えば今まで一度も行った事ないから。そして恭一の両親に私をちゃんと紹介して?」


 なるほど。


 どうせ仕返しした所でどうにもならないならイチゴは相手にしないで、それを踏み台にして俺との関係の外堀を埋めるってのか。


 正直、慰謝料とか痛くも痒くもないから意味無いし、暴力での報復はちょっと引くし、イチゴを放置して俺とユカがイチャイチャしてる所を見せつけるとかしても、逆に喜びそうだもんな。


 一応ユカは俺の両親と面識はあるが、長岡と揉めて警察のお世話になった時にちらっと顔を合わせただけだったか。


「あとついでに、しばらく恭一の実家に泊まりたい」


 罰として効果的なのかは分からないが、被害者であるユカへの慰めにはなりそうだ。


 まだ夏休みの途中で予定にも余裕があるからな。


「分かった。そうしよう」


 という事で、すぐ俺はユカを連れてしばらく実家に帰省する事にした。


「ただいま母さん」


「あら、お帰り恭一。で、そっちのお嬢さんが?」


 実家に入ると、母さんがリビングで迎えてくれた。


 父さんは今仕事の時間だから居ないか。


「ああ、俺の恋人のユカ」


「お久しぶりですお母さん。恭一の恋人の斎藤由華です!」


 ユカは緊張したまま母さんに挨拶した。


「いらっしゃい。花京院さんの所に比べたら何も無い所だけど、ゆっくりして行ってね」


 母さんは、前々から色々イチゴに聞かされてたらしく、俺の二股みたいな状況に何も言わずユカを歓迎してくれた。


 でもユカのいない所でどこまで本気なのか、そのままイチゴを捨てるんじゃないのかと色々問い詰められたりはしたみたいで、


「正直、中学を卒業する辺りからこうなるんじゃないかって思ってたしね。恭一があんまり女の子を泣かせないのならいいわよ」


 って最終的に母さんからはそう言われて納得して貰った。


 夕方になって帰って来た父さんからは「強く生きろよ」と俺に寄り添ったエールを貰った。


 聞けば、父さんも学生の頃は大分モテてて色々苦労したらしい。


 母さんとは社会人になってから出会ったので、母さんは父さんの学生の頃について詳しくなさそうだが。


 あと俺の知らない話だったんだが俺が中学生だった頃、俺を狙ってたけど俺を飛び越えて先に両親から攻めようとした女子がいたとも。


 当時はイチゴも変な性癖に目覚めてなくて、俺の両親もイチゴを俺の嫁に決めてたから全部突き放したみたいだが、その時に高校に入ればもっと大変になるのではないかと危惧してたようだ。


「そんな事もあったんですね」


「そうよ。恭一は昔から心配なくらいモテてたんだから」


 実家に来て数日経ち、母さんとユカはそれなりに打ち解けて俺の昔話に花を咲かせていた。


「ウチとしても、あの頃はイチゴがあんな風になるとは思わなかったけどねぇ」


 あんな風って、イチゴの奴ウチの親に性癖の事をカミングアウトしてたのか。


「ユカちゃん、イチゴちゃんは昔から恭一の面倒を見てくれて、私たちのとってはもう娘みたいな子なの。だからこんな事言うのはおかしいけど、イチゴちゃんとも仲良くしてね?」


「……はは、ほどほどに仲良くします」


 母さんのお願いに、ユカは乾いた笑みで答えた。


 あんな事があって流石に仲良くするのにも限度があると知った後だからな……。


 アリアさんはそっちでも手遅れみたいだが。


 と、噂をすればアリアさんから電話が掛かって来た。


「ユカ、ちょっと」


 俺はユカに声を掛けて、アリアさんからの着信を表示するスマホの画面を見せた。


 アリアさんが相手とはいえ今一緒にいるのはユカで、彼女に無断で他の女子と通話するのは不義理だから。


「別に出てもいいわよ。シカトしたら後が面倒だし」


「ああ、ありがとう」


 ユカの許可を貰い、俺はリビングの隅に移動して電話を受けた。


『恭一さんーーー!!!』


 直後、スマホのスピーカーからアリアさんの声が大きく響いたので、ついスマホを耳から遠ざけた。


「アリアさん?どうしたんだ?」


 叫び声が落ち着いた後、スマホを耳元に戻して質問した。


『今ウチに誰も居なくて寂しいんです!いつ頃戻られるんですか?』


 と言うアリアさんの声は若干、涙ぐんでる感じだった。


「誰もいない?イチゴとリナは?」


『二人とも恭一さんとユカさんが帰省されたのを見て、自分たちもと実家に帰省されました』


 なるほど、それで今シェアハウスにいるのがアリアさん一人と。


 アリアさんは家事が苦手だから、一人では色々苦労してるんだろうな。


 それとリナの実家は二つあるが、状況的に実母の所に帰ったのか。


「でもアリアさんも上のフロアにある実家に帰ればいいんじゃないか?」


『実家の家族は……旅行に出ました。しばらく帰って来ません』


「……そうか」


 ルームシェアしてる友達だけじゃなくて家族内からもハブられるとか、哀れアリアさん。


 しかしあれでもアリアさんは婚約者だから、流石にこの話を聞いて放置は出来ないか。


「ちょっと待ってくれ」


 アリアさんに一言断ってから、ユカに歩み寄った。


「家にアリアが一人だけだって?」


 通話の内容を隠すつもりもなかったから声が駄々洩れだったので、ユカはすぐ会話内容を確かめて来た。


「ああ。それでだけど、アリアさんもこっちに呼んでいいか?」


「……まあ、いいんじゃない?アリアが庶民の家での生活に耐えられるのかは知らないけど」


 ユカは一瞬渋い顔をしたが、すぐ嫌味込みで答えられた。


 俺がユカを一番に想っている事が、ユカに余裕を持たせているのかも知れない。


「ありがとう」


 嫌味の所はスルーし、お礼と共にユカの額にキスしてから通話に戻る。


「アリアさん。一度迎えに行くから俺に実家に来ないか?両親にもちゃんと紹介するから」


『そうします!では待ってますから!』


 そのまま通話が切れ、俺は簡単な支度をしてアリアさんを迎えに行く。


「はあ……」


 しかし、移動中についため息が出てしまった。


 今更ハーレムから逃げるのはもう諦めているものの、家族にハーレム作ると打ち明けてイチゴ以外の彼女たちを紹介するとか俺も遠くまで来たものだ。


 もう俺の幸せとかはいいから、せめてユカたちを後悔させないように頑張らないとな。


 一番好きな恋人のユカも、がっつり外堀埋められて逃げられないアリアさんも、今までの義理で捨てられないイチゴも、すべて抱えて。




 これは蛇足だが、アリアさんを両親に紹介すると、金髪の美人な上にお金持ちのお嬢さんだと知って両親が度肝を抜かし「お前マジで逆玉の上にハーレムやったのか」って目で見られたんだけど、詳しく語る程でもない。



―――――――――――――――

 イチゴのハーレム内NTR発覚からの修羅場は……ありませんでした!

 期待された方もいるかも知れなくて申し訳ございませんが、そこまで書いたらもっと長くなり、モチベが保つのか自信が無かったのです


 この後、24時の更新で第一部最終章にして五章は終わりとなります

 ここまでお読みいただきありがとうございました


 作者としての感想などはこの後の同日18時の章あとがきで色々書きますのでよろしくお願いします

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