第4話「打ち上げと脳破壊攻撃」
「では男子バスケ部門の表彰式を執り行います。優勝はAクラスの葛葉恭一くん。壇上にあがってください」
球技大会の表彰式が執り行われた。
流石に試合展開に問題があり過ぎだと思われたのか、男子バスケ部門で表彰されたのはAクラスのチームではなく俺個人だ。
準優勝したEクラスだがやらかした事が事なので、準優勝が取り消しになり表彰式には出られず、俺のチームメイトの奴らと纏めて裏で事情聴取を受けている。
あんな事したんだから、運動部に所属していた奴らは確実に退部されそうだ。
それと準優勝の賞品はそろそろ夏だからという事でクラス全員分のカップアイスだが、準優勝取り消されタダアイスを台無しにしたEクラス男子バスケチームはクラスでかなり肩身の狭い思いをするだろう。
ちなみに優勝賞品は学校近場にあるカフェでの一千円割引券をクラス全員分だ。
今回の球技大会に合わせてカフェが協賛してくれたらしい。
表彰式が終わって球技大会の予定が全て終了し、俺は共用シャワー室で汗を流してから制服に着替えを済ませ、一回教室に戻った。
そこでHRと共に大会賞品を受領する。
俺たちAクラスは男子バスケと女子バレーボールで優勝、女子ドッジボールが準優勝だった。
全部合わせて、クラスから四人を抜いた全員がカフェの割引券二千円分とカップアイス貰う事になった。
なのでHRが終わってもクラスメイトの皆はカップアイスを食べながら駄弁っている。
「やー。凄かったからね、恭っち!ユカっちがジャンプする度にあのデカおっぱいが揺れて、ボール三つかよ!って思ったんだから」
「あれは金が取れると思った」
「ユウリもカヨも止めようよ。流石に同性でもセクハラだよ?」
ユウリとカヨが試合でもユカの事を囃し立て、それをケイコが窘める。
「そうよ。私だって恥ずかしいんだからね」
ユカはそう言って庇うように腕で胸を抱きしめる。
そういう雑談の様子を、クラスの男子たちが生唾を飲みながら聞き耳を立てているが……、実害は無いからスルーしていいか。
俺の彼女のユカに性欲駄々洩れの目を向けるのには思う所があるが、交際については隠しているからな。
ちなみに俺以外のバスケチームメンバーは肩身が狭くてさっさと下校してもういない。
スポーツマンシップを大きく逸脱する事をやらかしたという事で、賞品を受領する権利をはく奪されて割引券もアイスも受け取れ無かったからな。
逆にアリアさんとイチゴは大会には出てなかったが、裏方で頑張ったという事でクラスメイトと一緒に賞品を貰えたのだが。
「ねえ、皆!せっかくだしこの割引券使ってさ、打ち上げしない?」
ぼちぼちカップアイスも食べ終わる頃、ユウリがクラス中に聞こえる大声で提案した。
「お、いいね!」
「行こ行こ!」
クラスメイトの反応は概ね好評だった。
ただ、予定があって行けなかったり、ごく少数ながら話に混ざって来ない所謂陰キャなクラスメイトもいた。
無理に全員誘う必要もないし、後者の場合は賑やかなのが苦手ならこっそり抜けるだろう。
「打ち上げはいいと思うけど、急に皆で行って店に迷惑じゃないかな?」
ケイコがもっともな心配を言う。
それもその通りで、割引券を使える店は普通に一般の客にも営業しているだろうから、二十人ほどいるクラスメイト全員が店に入ると迷惑がられるかも知れない。
だが……
「それなら大丈夫ですよ。こんな事もあろうかと、お店を方に明日までウチの生徒だけの貸し切りにして欲しいとお願いしておきましたので」
アリアさんがその心配を打ち消した。
「そうなんだ」
「ええ。まあ、私たちの他にも優勝したチームのいるクラスで打ち上げに行ったり、今日すぐ個別で店に行く方もいらっしゃるって手狭になるかも知れませんが、店の了承は貰ったので大丈夫だと思います」
「決まり!じゃあ打ち上げ行く人、手あげて!」
ユウリが仕切って打ち上げに参加する人を数える。
俺も手をあげて参加意思を表明した。
「依藤さんも行くんだね?」
「うん。後になると暑くで外出も面倒だからね」
それとイチゴも例外なく参加した。
イチゴは入学した時と考えが変わったのか、陰キャボッチロールをやめて生徒会役員繋がりでアリアさんのグループに入ったのだ。
俺とイチゴが幼馴染だというのはまだ内緒のままだが、これはバレたら逆にイチゴの扱いがどう変わるか分からないので仕方ない。
とにかく、別の予定があるか賑やかなのが苦手な一部を除き、ほぼ全員で打ち上げに行く事になった。
割引券を使えるカフェはオシャレなのは勿論の事、二階建てで俺たち全員を受け入れてもまだ余裕があるくらい客席の数が多かった。
それと俺たちのクラス以外にも、少人数で割引券をすぐ使いに来たウチの生徒がぼちぼちといる。
「皆さん、せっかくですのでさらに千円分は私が奢ります。なので割引券から足が出る分は気にせずに楽しみましょう」
「お、アリアっち太っ腹じゃん!ありがと!」
注文前にアリアさんが奢りの提案をし、皆アリアさんに感謝しながら注文を決めた。
そして注文したメニューを食べながらまばらに雑談したり、持ち込んだテーブルゲームを(店の許可を得て)遊んだりした。
「ところで君たち。俺に何かして欲しい事あるか?」
「ん?ああ、優勝のご褒美ね」
俺はタイミングを見て、女子バレーチームだったクラスメイトたちに聞いて回った。
「私は……最近上映された映画を一緒に見に行って欲しいな」
「私は新しい洋服が欲しいかも」
「じゃあ私はバッグ!ブランド品で!」
するとバレーチームの女子たちからアレコレ所望された。
「じゃあウチも買って欲しいのがあるんだけど」
「私も」
ユウリとカヨも似たような感じか。
映画や洋服ならともかく、ブランド品のバッグとか、学生の友達にねだるような物じゃないと思うんだけどな。
でも昔はネットで稼いでいたイチゴから金を貰ってて、今では自分で配信とかオリジナル曲販売とかで稼げているからそのくらいはポンとプレゼント出来てしまうし、だからこそ俺はモテるのだろうな。
物目当てなのか「こんな物まで買ってくれるとか実は私に気があるんじゃない?」と勘違いされてるのか知らないが、今更止めるとどんな反発を受けるか分からないから仕方ない。
「いいぞ。今後みんなで出掛けて回ろうか」
「出来れば二人だけがいいな……」
「私も!デートがいい!」
そこでケイコが自分の意見を挟み、他の女子たちも乗っかって来た。
「ああ。じゃあ今度調整しよう」
という事で、バレーチームの女子全員とデートするのが決まった。
「ユカはどうする?」
「私は……最後でいいわよ。落ち着いた後に改めてお願いするわ」
ユカに振り向いて聞いたら、ユカは気の無さげに答えた。
「……これが最後なんだものね」
最後にボソッと、小声で呟いたのがハッキリ聞こえたが、聞かせるつもりの言葉じゃなさそうだったので聞こえなかった振りをする。
「そうか。分かった」
元はと言えば、一番最初にお願いしたのはユカだったのにな。
だけどこの中で一番親しいのもユカで、あまりユカばかり贔屓するとユカに反感が集中しそうだから、本人がいいなら後回しにした方が無難か。
……どの道、スケジュールの管理はユカがする事になるだろうが。
それから食べたり喋ったり遊んだりであっという間に二時間も過ぎ、俺たちはそろそろ解散しようと店を出た。
「斎藤さん!」
その時、誰かがユカの苗字を叫んで駆け寄って来た。
そいつは今日俺に勝負を仕掛けて来た松村だった。
「良かった、間に合った……」
「私に用事?」
仕方ないといった顔で、ユカが松村の相手をする。
「ああ。その、ちょっと二人で話さない?他の人に聞かれるのはちょっと……」
そう言いながら、松村は牽制するように俺を睨んだ。
対してユカは、鼻で笑う。
「ふん、嫌よ。どうして私があんたと二人きりで話す訳?周りに誤解されたくないんだけど?」
「それでも、大事な話なんだ!」
「そもそもあんた、恭一に負けたでしょ。負けた側は私に近付かない条件じゃなかったかしら?約束を破る人の何を信じてついて行けと?」
「それは……。くっ」
ユカに気圧された松村は、またも俺を睨んでからユカに視線を戻す。
「分かった、ここで話すよ。……斎藤さん、葛葉とつるむのはやめた方がいい」
おっと、まさか俺の話だったとは。
「はあ?」
そしてユカの機嫌も瞬時に最悪になった。
それに気付いた松村が慌てる。
「いや、聞いてくれ!こいつは危険なんだ!毎度色んな女の子と遊んでるし、絶対色々やったに違いない!斎藤さんだって、葛葉が体目当てで仲良くしてるかも知れないんだ!」
その言い訳染みた松村の言葉を聞いて、ユカの怒りが収まった。
多分、怒りよりも呆れが先行したからだと思う。
「はあ……。あんたそれ本気で言ってるの?」
「え?本気……だけど……?」
「じゃあ、知らないみたいだからハッキリ言ってあげるわ」
ユカは俺の腕に抱き付いた。
……これ見よがしに胸を俺の腕に押し潰す形で。
それで俺もユカが何を言おうとしてるのか察した。
「ぐっ!」
松村が物凄い顔で俺を睨んで来るが、それ所じゃなくなると思うぞ。
「行けユカっち!のうはかいこうげきだ!」
それと後ろでユウリが茶々を入れてるけど、スルーだ。
「私、とっくに恭一とやる事やってんのよ。だから後からうるさく言わないで」
「な……んだって……?」
松村が信じられなさそうに聞き返す。
「二度は言わないから。さっさと失せなさい」
が、ユカは冷たい言葉で突き放す。
「……くそっ!見損なったぞ、このビッチが!せっかく彼女にしようとしたのにー!!」
松村はそんな捨て台詞を吐いて走り去って行く。
流石にユカをビッチ呼ばわりするのは聞き捨てならないので、追い掛けて訂正させようとしたが、俺の腕に抱き付いたままのユカが止めた。
「ほっときなさい。あんなの一々相手してたら恭一の格が下がるわ」
「……分かった」
それで俺も松村を追い掛ける気になれず、そのまま打ち上げの集まりは無難に解散した。
ちなみにその後松村の顔を一切見なくなったが、どうもアリアさんが処分したみたいだ。
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次話、サービスシーン(笑)の松村視点です
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