死亡フラグに愛された敵組織の女幹部が大好き過ぎて、俺は『結婚したい!』と告白していた。─女を捨てた悪役の女騎士を乙女に変えていきます!─

桜祭

1、新しい人生の鼓動

「驚き過ぎて声も出ないかぁボクゥ?お姉さん、優しいから遺言くらいは聞いてあげるわよ?お父さんやお母さんや友達とかに言い残したいこととかあるかな?なんでも1つだけ聞いてあげる。聞いてあげるだけだけどねー」


まさか、前世からの推しだった敵幹部の悪女の騎士とこんなところで出会えるなんて……。

俺、この日気持ちが昂っていた。


「じゃあ1つ……」

「うんうん。死ぬ間際の言葉くらいエリィィィトな騎士であるわたしが見届けてあげる!」

「すぅ……」


好きなことを言って良いようなので、深呼吸をしながら躊躇いなく大声を出した。

この気持ちが彼女に伝わるように──。


「プライドが好きです!大好きです!」

「…………え?ええ!?」

「プライド!俺と結婚してください!」

「ええええぇぇぇぇ!?」


俺は、プライドに自分の気持ちを告白をしていた……。




──────







──バゴンッ!




「いってぇ!」


自分から情けない声が漏れてしまい、ぶつけられた頭を抑える。

「ごめーん!」と申し訳なさそうに謝ってくる少女の謝罪がどこか遠くから聞こえてくるくらいに頭がグラングランする。

おかしい……。

本当に5メートル先にいるはずの彼女なのに、20メートルは離れているくらいには声が遠い。

それくらいに、今の俺は痛さに頭がヤられってしまったようだ。

攻撃の物理最強であるカスミのボールをこんな至近距離でくらったら仰け反って頭が混乱するのも無理ないっての……。


「…………っ!?」


あれ?

攻撃の物理最強……?

意味のわからないことが頭に浮かび、一瞬で混乱が冷める。

俺は一体、なんの話を思い浮かべた……?


「だいじょーぶ?ユキ?」

「あ、あぁ……」


俺に駆け寄りながら、身体を揺らしてくる。

何を言ってんだ……?

俺の名前は南晃太ミナミコウタって名前のはずなのに……。

頭が割れるように痛くて目を細めると、少女の白魚のような小さい手が伸びてくる。


「ごめんねぇ!ごめんねぇユキぃぃ!」

「ん……?」


泣きながら頭を撫でてくる少女の顔をよく見ると、見覚えのある顔にポカーンとする。

いや、あり得ない。

彼女の顔はよく知っているのに、現実のものではない。

ただ、何故かそこに当たり前のように彼女は存在していた。


「か、カスミ……?」

「うん。ごめんユキ……」

「だ、大丈夫だ……」


ポニーテールにしたピンク髪の少女。

ちょっとキツそうな目付きだけど、自分をよく追い詰めてしまうくらいにメンタルが弱い彼女。

俺はすぐに駆け寄っている彼女がカスミだとすぐに理解した。

本名、カスミ・アグーテ。

大人気RPGである『ハートソウル』のメインヒロインの1人である。

主人公のユキの相棒であり、幼馴染の彼女は『ハートソウル』の最強物理女である。


「…………」


彼女がカスミと理解して、俺が『ユキ』と呼ばれていることにハッとする。

…………え?

俺、もしかして『ハートソウル』の主人公であるユキ・エメラルドに憑依?転生?してしまったのか?

瞳を自分の前髪に映すと、雪の結晶のように輝く白い色が見える。

ユキ・エメラルドの特徴の白髪である。


俺、南晃太の髪色は純粋な日本人の黒髪であるのだから、明らかに自分の前髪の色がおかしいことに気付いた。


「なぁ、か……カスミ……?」

「どうしたのユキ?」

「俺の目は何色だ?」


心臓をバクバクさせながら俺の容姿を尋ねる。

これで碧色と答えられれば、俺がユキ・エメラルドなのが確定してしまう。

パンドラの匣を目の前にしたようなドキドキ感が胸を支配する。


「ユキの目の色……?それは……」

「ゴクリ……」


自分がユキなのか、晃太なのかハッキリさせる言葉に時間の流れが遅く感じる。

碧ならユキ。

黒なら晃太。

俺はもう、自分が誰なのかわからない。

カスミが何を言うのか怖くなり、ぎゅっと目を閉じる。


「赤い……」

「え!?赤!?」


予想だにしない目の色が明かされてすっとんきょうな声を出す。

『俺は誰なんだよ!?』と、彼女がここにいなければ叫びながらゴロゴロ転がっていたかもしれない。


「ボールが目にもぶつかっちゃったかな……?」

「そ、そういうことかよ……。瞳の色だよ、瞳の色!」

「え?碧だよ」

「…………」


碧かい。

俺にコスプレ趣味がない以上、やっぱりユキ・エメラルドに憑依?転生?みたいなことが起きているようだ……。

俺、あんまりユキが好きじゃないんだよな……。

こいつ、主人公の癖にバフとかデバフとかヒーラー的な役割ばかりで主人公っぽくないし……。

物理最強幼馴染であるカスミに守られているような描写ばかりであんまり好きになれなかった……。

やたら童顔過ぎるのも、ちょっと受け付けないビジュアルである。


──そもそもの話、『ハートソウル』のゲーム自体が大嫌いである。



「因みに、俺何歳……?」

「大丈夫なのユキ……?私たち、10歳でしょ……」

「10歳……?10歳!?」

「何にそんなに驚いているの……?」

「い、いやぁ!そんなに俺たち大きくなったんだなぁって!」

「う、うん……」


10歳……。

『ハートソウル』の物語開始の主人公らの年齢は12歳。

今日が何月何日かは知らないが、少なくても1年は物語開始までは時間があるということ。

俺はこのゲームをよく知っている。

やり込みまくったからという理由もあるかもしれないが、それはただの過程だ。



そのゲームのモチベーションにあったのは、『ハートソウル』に登場する敵対組織の女幹部『プライド』の大ファンだったからである。

プライドが大好き過ぎて、俺は『ハートソウル』を発売日に買って即ゲームをプレイした。

同時、高校生だった俺は必死にゲームにかじり付き、ゲームとにらめっこをしていたものである。

──なのに、どんなルートを辿っても辿っても絶対に死んでしまうプライドに絶望して俺はこのゲームをクソゲー扱いして、押し入れに封印したのであった。

どんなに頑張っても死亡フラグに愛された女幹部のプライド・サーシャを助けられないと知った俺は『ハートソウル』という名前を聞くのも嫌になったものである。


「…………」


もしかして、この世界って……。

プライドが生きているのか……?

そして、プライドを助けられたり出来るの……?


俺の新しい人生が動きだした鼓動を感じ取った。

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