第9話 友達になりませんか?


「あ、八神くん!」

「…瑠香さんと…七瀬さん…」

「八神くん?どっちも七瀬さんよ?」

「そ、そうですね…」

「そちらが妹さん?」

「はい。ほら、咲希」

「はじめまして。いつも兄がお世話になってます。妹の八神咲希です。今日はお誘い下さり、ありがとうございます」


 にこやかな笑顔で挨拶する咲希。

 こんな顔出来るんだな…


 そんなふうに感心した我が妹だったけど、テーブルに着いてから、やたら俺との距離が近い。

 いつの間にか椅子を動かして、肩が当たるくらいの所にいるけど、食べずらくないか?


 そして同じように、七瀬さんと瑠香さんの距離も近い。

 なんだろう。流行りなのかも


 しかも七瀬さんは、ふと俺の方に向いた時の目付きが鋭い気がする。

 え?威嚇されてる?


 そして、隣の咲希の七瀬さん姉妹を見るその目も、同じように見える。

 お前も威嚇してるのか?


 さしずめ、向かい合った猫が尻尾を立てて「フシャー!!」と言い合ってる感じ



 たぶん、パッと見は仲良さそうに食事を楽しむグループなんだろうけど…



「八神くん、彩香がこんなでごめんね」

「ちょっ!お姉ちゃん…」

「いえ、うちも咲希がこんなですみません」

「兄さん…?」

「普段、学校の事をあまり話さないし、ちょっと心配だったのよね」

「そうなんですか」

「ええ。でも、最近はあなたの事を楽しそうに話す事があったんだけど、冬休みで顔を合わせることもなくなって、寂しそうだったから、今日誘ってみたの」

「…お姉ちゃん、余計な事は言わなくていいから…」

「あら、どうしたの?普段はそんな口調じゃないじゃない」

「私にだってちゃんと友達はいるんだから。それに、八神くんはまだ友達じゃないし」

「あら…彩香ったら…」

「え?」

ですって。ふふ」

「っ!…だから!彼はそういうのじゃないってば!」

「じゃあ、どういうのなの?」

「え…それは…」

「そうですね。それは私も妹として気になります。はい、妹ですから当然です」


「八神くんはお姉ちゃんの恩人なだけ」


 スンと、感情が感じられないトーンでそういう七瀬さん。


 まあ、そりゃそうだろうな。

 わざわざ俺みたいなモブAと仲良くしなくても、彼女の美貌なら引く手数多だろう


 そして咲希もそう思ったのか、


「でも、お二人とも美人さんなのに、うちの兄とクリスマスに一緒にごはんなんて、今更ですけど、良かったんですか?」


 俺もそれはそう思った。

 仮に彼氏はいないとしても、二人とも良かったんだろうか


「今日はね、彼の仕事が遅くなるから、って言うから、それでね、明日デートするの」


 おや?


「お姉さんは彼氏さんがいらっしゃるんですね。お仕事、ってことは、社会人です?」

「そうなの。年末に向けてのこの時期は、何かと忙しいみたいで」


 瑠香さん…彼氏いるんだ…

 男が苦手、って言ってたけど、いるんだ…


「あのね…八神くんのおかげなの…」

「え?なにがです?」

「その…八神くんのおかげで、彼と出会えたから…」

「え?なんで俺なんですか?」

「その…あの時の、彼なの…」


 …はい…そういうことね…


「お姉ちゃんはラブラブなんだから」


 なぜかドヤ顔でそう言う七瀬さん。

 えっと…リアクションに困るんだけど…


どうやらこの前俺と会って話したことで、あのお兄さんと付き合う決心がついたらしい。

しかも瑠香さんから告白したとか…

でも、本当に良かった。これで幸せになってくれれば、それで


「そうだったんですね!」


 嬉しそうな顔でテンションの上がった咲希。

 急にどうしたんだ?

 しかもそのままの勢いで、隣の七瀬さんにも話を振る


「じゃあ、彩香さんもこの後、彼氏さんと遊びに行ったりするんですか?」

「…私は…その…」

「咲希ちゃん。この子はまだ…」

「え…あ、じゃあ、あの、もしかして…」

「大丈夫。私は今そういうのはいいの」

「今?」

「そう。この先のことは分からないけど、今は彼氏とか、それこそ友達とか、いいの」

「彩香…」

「お姉ちゃん、私は大丈夫だから」


 七瀬さん…やっぱり、学校では無理してるんだな。

 俺には奏汰がいるし、部活に行けばそれなりに話せる、友達と言えるような奴もいる。

 でも、あの時感じたように、いつも仮面を被っるのかもしれない。

 みんなが望む高嶺の花で、清楚可憐な美少女を演じているんじゃないだろうか。

 さっきは「ちゃんと友達はいる」とか言ってたけど、心を開いて本音で話せるような、それこそ親友と呼べるような友達は、もしかしたらいないのかもしれないな


 だって、あの体育館裏で話した時の彼女は、普段見る七瀬さんじゃなかった。

 あれが本来の彼女なのかも


 そう思ったら、俺は自然に口が動いていた




「七瀬さん、俺と友達になりませんか?」





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