26.ドラッグストア
ルリカは部屋のお祓いを頼むために、近くのお寺の住職にお願いをすることにした。
住職は快く引き受けてくれたものの、予定が詰まっていて実際にお祓いに来られるのは一週間後と言われてしまう。
その間、ルリカは仕方なく毎晩テッペイの部屋に泊まることになったが、当然ながら無事で済むはずもなく。
十二個入りのコンドームは、四日目の朝にはすべてなくなってしまっていた。
「て、テッペイ……今夜の分のコンドームがないんだけど……」
「じゃあ、生でいいだろ」
「よくないっ! 買ってきてよ!」
「自分で買ってこいよ。俺はいらねーし」
「もうっ!!」
んじゃ、とテッペイはアルバイトに出かけていく。
またあんな思いをしながら避妊具を買わなければいけないのかと思うとゾッとした。
この間のコンビニで買うのはもう嫌だ。誰も知らない大きなドラッグストアにでも行った方がマシだ。
ルリカは出かける準備をして、鳥白市内でも大きなドラッグストアまでやってきた。
避妊具を買うためだけに、なにしているのかと自嘲する。それでも来たからには、目的のものを買わなければと買い物カゴを持った。
ここなら知り合いもいないし、余計なものは買わずに避妊具だけを買って帰れるはずだ。
意を決してドラッグストアに入ったルリカだったが、広過ぎて目的のものが見当たらない。
あれは、何用品になるのだろうか。生活用品であっているのだろうか。
グルグルとあちこちを探すも、見逃してしまっているのかまったく見つからなかった。店員と何度かすれ違ったが、避妊具の場所なんてルリカに聞けるわけもない。
実は、ドラッグストアには置いていないのかという疑問を抱きながらも店内を回り続ける。
「ないわけ、ないよね……」
「なにかお探しでしょうか?」
「はひいっ?!」
いきなり後ろから声を掛けられ、ビックンと体が跳ねた。
話しかけてくれたお姉さんの方が驚いたようで、あちらもビクっと体を震わせている。
「あ、すみません。後ろから急に話しかけてしまって」
ふわふわと柔らかい髪を一つに束ねた、とても清潔な感じがする店員だった。
営業スマイルだろうとは思うが、人当たりが良くて、化粧もナチュラルでかわいくて、女子力の高い人だという印象だ。
「い、いえ、大丈夫です……っ」
「それで、なにをお探しですか?」
何度も何度もこの広い店内を回っているのに、なにもカゴに入れていないので、不審に思われたのかもしれない。
もう聞いた方が早いとわかっているのに、どうしても『コンドーム』という言葉が出てこない。
「えーっと、あの、その……これくらいので……」
ルリカは人差し指と人差し指で、四角を描いた。避妊具が入っている箱、のつもりだ。
「これくらいの? なにをするものです?」
「え、そ、それは……」
昨夜のテッペイとのやりとりを思い出し、耳がボッと熱くなる。
すると店員は「ああ」とニッコリ笑った。
「もしかして、こちらじゃないでしょうか?」
そう言って、その女の人はスタスタと歩き出し、コンドームがたくさん並んでいるコーナーへと連れていってくれた。大当たりである。
「あ、ありがとうございます」
「探し物が見つかったようで、よかったです」
ニッコリと笑うその姿は、まるで天使だ。その天使が去ろうとした瞬間、ルリカは面倒を掛けついでだと自分から声を掛けた。
「あ、あのっ」
「はい?」
「種類が多すぎて……どれを選んでいいのか、わからないんですけど……っ」
「はい。お好みのメーカーとか、おありですか?」
無茶なお願いをしたというのに、まったく嫌な顔をせず対応してくれる。
その人の大きな胸には、『伊佐木』という名札がついてあった。
「好みのメーカーとかわからなくて……えーと、前に使ってたのは、青に緑のラインが入ったパッケージだったと思うんですけど……」
「あ、それでしたらこちらですね。先日、パッケージが変わったばかりなんですよ」
そう言って、伊佐木は一つのコンドームを手に取ってくれた。
メーカーを見ると、こんな名前だった気もする。
「ありがとうございます、多分これです」
「この商品でしたら、あちらで三箱入りパックを特売していますよ。いかがですか?」
三箱入りパック、特売……基本的に女が好きなフレーズである。
伊佐木はそれだけ言うと、スッと去ってくれた。
一箱十二個入りだと、数日後にはまた買いに来る羽目になるに違いない。三箱一パックをひとつ入れ、またどうせいるのだろうからともう一つ入れ、結局十二個入りが六箱分、計七十二回分を買うことにした。
どれだけヤるつもりなのかと苦笑しながら会計に行くと、先ほどの伊佐木がレジに入っている。
なにか言われるだろうかどドキドキするも、マニュアル通りの対応だけでほっとした。
「ありがとうございました」
ニッコリと微笑むその姿は、清楚で可憐。それでいて今時で、美人な上に、髪型や服装は女性らしい清潔さとかわいらしさがある。
ルリカはそんなドラッグストアの店員に「ありがとう」と声を掛けてから、家路に着いた。
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