24.いざコンビニへ
すぐにテッペイの部屋に連れて行かれそうになるのをなんとか制し、先にお風呂に入る。
どうせ見るんだから一緒に入ればいいのにというテッペイは、なんとか説き伏せた。
一人でお風呂に入っていると、少し頭が冴えてきて、なんて約束をしてしまったんだという後悔が、頭をもたげる。だからと言って、自室で眠る勇気がないのだから、テッペイと寝るという選択しかないのだが。
ルリカがお風呂を出て、テッペイもお風呂を終わらせると、まだ寝るには早すぎる時間だからと理由をこじつけ、リビングで一緒にゲームをした。
しかしゲームをしていても、ルリカの心は今晩のことでいっぱいだ。逃げていても、どうしたって夜は更けてくる。
「おい、十時過ぎたぜ。ゲームはもういいだろ!」
「あんた、いつも十二時過ぎまでゲームやってんじゃん!」
「そんなにやってたら、エッチする時間減るじゃねーか! そろそろヤるぜ! 来い!」
「うひーっ」
遅くまで遊んでテッペイを先に寝かせてしまおうという作戦は、簡単に棄却された。
腕を取られたルリカは、あれよあれよという間にテッペイの部屋に連れていかれ、ベッドに簡単に転がされてしまう。
「うそ……ほ、本当にするの?」
「あったり前だろ。どんだけ待ったと思ってんだよ」
テッペイがバサッとパジャマ代わりのシャツを脱いだ。相変わらず引き締まって、穴でも空いているのかと思うほどの筋肉の溝が顔を見せる。
「やだっ、いきなり脱がないでよっ!」
「どうせ脱ぐんだろー。ルリカも脱げって」
「や、やだ! 恥ずかしい!」
「しょーがねーなー。じゃ、俺が脱がしてやる」
怪しく動く手が、ルリカの胸元に迫った。
逃げたい。けれども、怖くて動かない。
テッペイがルリカのパジャマのボタンをひとつひとつ外してくる。そしてパジャマを勢いおくバッと脱がされた。その下には、ルリカの肌──ではなく。
「なんでお前、パジャマの下にパジャマ着てんだよ?!」
「だって、寒いんだもん! エアコン使えないし!」
「ルリカ、金持ってんだろ! 自分の金でガス補充しろよ!」
「それは家主の仕事でしょ!」
そんな言い合いをしながらも、テッペイは二枚目のルリカのパジャマもするすると脱がしている。
それを脱がし終えると、テッペイはまたも叫んだ。
「三枚もパジャマ着込んでんじゃねーー!!」
「次はない、次は着てないから!」
なんだか少し申し訳なくなり、これで最後だと主張する。それを聞いたテッペイは、今度はゆっくり楽しむように、三枚目のパジャマのボタンを外してくる。
「ブラジャーしてんのかよ。まぁいいけど」
二つ目ボタンを外された時の言葉に、顔が熱くなって爆発するかと思った。
ブラジャーを、見られてしまった。それだけでこんなに恥ずかしいというのに、全部見られたらどうなってしまうというのか。
「ちょ、ま、待って!!」
「待てるわけねーだろ!」
「ちょっと、ほんとに! やめて!!」
パジャマの胸元をガッと押さえて、テッペイから逃げるように上に移動する。
ルリカのとった行動に、テッペイは当然ながら不満を募らせている。
「んだよー。早くヤらせろよな」
「あ、で、でも、ちょっと気になって……」
「なにが?」
「あの、コンドーム、用意してるよ……ね?」
「んなもんねーよ」
「はあ?!」
当然、テッペイが用意しているものと思っていた。予想外の展開に、ルリカはガッチリと膝を擦り合わせる。
「え、じゃあ、なにもつけずにする気だったの?!」
「一回、生でやってみたかったんだよなー」
「ほんっとサイテー!!」
「だって、だーれも生でヤらせてくれねーんだもんよ」
「あんたみたいなやつに生でヤらせたら、後悔しかないわ!!」
歴代の彼女も、さすがにこの男に避妊具なしでさせることはしなかったようだ。テッペイの性格を考えると、当然の処置である。
「コンドームないなら、絶対やらないから!」
「ルリカは持ってねーのかよ。こういうの、自衛のために女が用意するもんだろ?」
「えっ、そうなの?!」
避妊具は、男が用意するものだと思い込んでいたが、違ったのだろうか。ルリカの持っている漫画本では、男が避妊具の袋を咥えて登場しているが、あれはやはりただの夢物語か。
「しゃーねーな。買いにいこうぜ」
「え?」
「ゴムあったら、させてくれんだろ?」
「うん、まぁ……」
「じゃあ行こうぜ」
テッペイは下の服も脱ぐと、ジーンズに履き替えて上の服も着直している。
ルリカの服は、ルリカの部屋である。どうしようかと思っていると、テッペイが普段は滅多に着ないロングコートを貸してくれた。
ルリカが着ると長くて大きくて不格好だが、夜だし誰も見ないだろうと、テッペイの陰に隠れながら外に出る。
十分ほど歩いたところにコンビニがあって、ルリカとテッペイは中に入った。テッペイは迷うことなく、真っ直ぐ目的の物に向かっている。そして何種類かのコンドームを見比べると、そのうちのひとつを手に取った。
「あー、これがよかった気がすんな。ほい」
ぽい、と避妊具を渡され、「は?」とルリカはテッペイ見上げた。
「え、私が買うの?!」
「ったり前だろ。俺は別に、つけたくねーもん」
「お金は私が払うから、テッペイがレジに行ってきてよ……!」
「やなこったー」
んべっと出す舌が憎らしい。
ここでルリカが買わなければ、本当にこの男は避妊具なしでするに違いない。それだけは、本当に困る。
ルリカは買い物カゴに避妊具を入れると、その上にこれでもかとお菓子やジュースを詰め込んでカムフラージュした。
いつもの格好ならまだしも、男物のコート一枚だけの状態だ。なにを思われるかわかったものではない。
しかもテッペイはここの店員と仲が良く、ルリカもよく来るので顔を覚えられてしまっているのだ。
嫌だ、レジに行きたくない。しかし、避妊具なしは困る。
意を決してレジに持っていき、店員と目を合わさないように横を向くと、テッペイはニヤニヤ笑いながら腕を組んでルリカを見ていた。
サイテーという言葉を心の中で百回は呟き、お金を支払って奪うように荷物を受け取る。足早にコンビニを出ると、その後をにやけ顔のテッペイがついてきた。
「なんだ、買えるじゃん」
「恥ずかしかったんだからね! こんな、男物のコート着てるし……今からしますって言ってるようなものじゃない!」
「そりゃー、今からヤるんだしな」
テッペイはルリカの手から荷物を奪うと、ギュッと肩を寄せてきた。
ここまできたら、本当に逃げられない。
心の底から嫌なわけでは、もちろんない。ルリカは、テッペイが好きなのだから。
しかし、こんな風にしてしまっていいのかという思いは拭いされない。さらには初体験の興味より、どうしても恐怖が勝る。
ルリカの心はぐちゃぐちゃなまま、それでも家は近づいてきてしまった。
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