20.腐女子

 テッペイとは相変わらず、キスまでの関係で体は許していない。

 不満そうなテッペイをのらりくらりと躱しながら、それでも仲良く平和に暮らしていると言えた。


 三月に入ったある日。

 多くなってきた本を売りに出すため部屋を片付けていると、テッペイが遠慮もなしに入ってきた。


「ノックしてよ、もう。どしたの、テッペイ」

「今日バイト休みだから、どっか行こうかと思ってよ」

「あ、そうだったんだ。ごめん、ちょっと部屋の片付け始めちゃった」

「なに、捨てんの?」

「ううん、売ろうかなーって」


 あまり多くなっては部屋が本で埋れてしまうので、毎月ある程度は整理していく。

 売る本をさっさと避けていたら、テッペイがそのうちの一冊を手に取ってマジマジと見つめていた。


「なんだこれ。エロかと思ったら、BLってやつか?」


 あ、と思った時には中身を見られていた。

 ルリカはソフトなBLが好きなのだが、それは予想に反して思いっきりハードだったやつだ。


「へー。俺、BLって初めて見たぜ。ルリカは腐女子っつーやつ?」

「えっ! う、うん、まぁ……」


 特に隠しているわけでもないが大っぴらにすることでもない。腐男子という存在もいるが、それは少数だろう。普通の男子は嫌がるに決まっている……と、ルリカは思い込んでいた。


「リアルのやつでもカップリングを妄想したりすんのか?!」


 けれどもテッペイはそんな質問をしてきて、すごく楽しそうだ。


「三次元はそんなに妄想しないけどね、たまにするかな」

「マジかよー!」

「き、気持ち悪いよね、ごめん……」

「べっつにいいんじゃね? ただの妄想だろ?」


 気持ち悪いとか、最悪だとか言われるかと思っていたので、テッペイの反応は拍子抜けだった。それどころか、ノリノリで話し掛けてくる。


「じゃあよ、オカシな国のメンバーだったら、誰と誰で妄想するんだ?!」


 テッペイの所属するバレーチームのメンバーは、全員で七人いる。考えたこともなかったが、テッペイに言われてどのカップリングがいいだろうかと真剣に考えてみた。


「やっぱり、仲のいい晴臣くんと拓真くんかな。拓真くんが攻めで、晴臣くんが受け!」

「ぶはははっ! 拓真、どんな風に攻めんの?!」

「晴臣くんに彼女ができて、嫉妬しちゃった拓真くんが無理矢理! とかどう?」

「ぶっははははは! 拓真が、無理矢理、晴臣を……フヒーーーー!!」


 なぜかわからないが、テッペイにめちゃくちゃウケてしまった。調子に乗ったルリカは、もうひとカップル考えてみる。


「一ノ瀬くんは受けが好みだなー、私。大和くんも受けがいいし……となると、攻めは雄大さんで、二人を調教する感じで! しかも、一ノ瀬くんと大和くんは、雄大さんの愛を独り占めしようとするライバル!!」

「なんだそれーー!! はははははっ!! 一ノ瀬と大和さんがっ、雄大さんを奪い合って、調教されるとか……ぶははははっ」


 ゲラゲラと大笑いして、息が苦しそうだ。なにがそんなにツボだったのだろうか。


「じゃあ俺は俺は?!」

「テッペイは……うーん、思いつかないかも。テッペイは相手、誰がいいの?」

「え、俺?! そーだなー、拓真みたいな筋肉野郎を蹂躙したらおもろそうじゃね?!」

「ああー、いい!! 拓真くんの悔しそうな顔が浮かぶー! 拓真くんは受けでも美味しい!!」

「だろーー!!」


 あんまりテッペイのノリがいいので、本当は腐男子ではないかと疑ってしまったが、それは違うらしい。

 実際にテッペイは女の方が大好きなので、ただ男同士のカップリングを作って想像して、笑っているだけだ。まさか腐男子でもない人と、それもリアルでのカップリング話で盛り上がれるなんて思いもしていなかった。

 そうやって喋りながら本を片付けると、一緒に売りにいってくれた。

 売却先のお店で、面白そうな中古のシューティングゲームを見つけたので買って帰る。

 リビングのテレビに映して、二人で協力プレイしながら遊ぶゲーム。あっちを撃て、こっちは任せろと言い合いながら進めていく。

 阿吽の呼吸というか、お互いにどう動けばいいのかなんとなく通じ合っているこの感じが、たまらなく心地いい。


「ルリカ、いったん離れるぞ! ついてこい!」

「うん!」


 ルリカはゲームの中で、テッペイの背中を追い掛けて走った。

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