第2話
「リップとかアイシャドウとかなんで知らないわけ?」
そう彼女が少し冷たく返すと、中橋は下を俯いた。
「アタシの家、電子機器使えないから」
「なんでないの?そんなんほぼ虐待みたいなもんでしょ」
しかし、急にケロッと舌を出した。てへぺろというふざけた文字がうっすらと見えてしまうのは気のせいだろうか。
「家自体は高度な技術によって生成されたマザーAIだから必要ないなぁ」
「突拍子もない嘘つくなよ。住所知ってるからな?普通の賃貸だろ、何がマザーAIなわけ?」
なつぽんと中橋の仲はこれでも良い方なので、お互いの家に遊びに行く事が多い。
「マザーAIに家賃滞納してるから…」
「お前大家さんのことマザーAIって呼んでんの!?失礼じゃん」
彼女は首を傾げた。
「失礼なの?」
「そんなん自分で考えろよ」
「あ、今日予定空いてる?」
「空いてるけど、どっか行きたいの?」
なつぽんも首を傾げた。
「いや家賃払ってもらおうかなって」
「なんでうちがお前の家賃払わなきゃならないわけ?うちの事情も考えろよ」
彼女はため息をついて、少し心配そうに呟いた。
「はぁ…じゃあ、コスメ買いに行こ。もう顔面殴って色つけんのやめな?」
「は?何それ?なんでそんな態度で言うの?そこはざぁ!?」
急に中橋が机から立って、怒りを周囲に振りまいた。
「何にそんな逆キレしてんの?そんな上から目線の言い方してないでしょ」
そんな怒っている彼女をあまり見たことなかったので、なつぽんはビビって少し声が小さくなった。
「ついて行ってあげるんだから感謝しろよ雌豚でしょ!?」
「なんでそんな事言わなくちゃならないわけ?ドMか!?」
そう、彼女が罵倒すると、中橋は気持ちよさそうな顔をするので更に罵倒がエスカレートしていった。
「はい、私は卑しいドブカスです」
「卑下すんなし。キモイんだけど」
彼女が色々な罵倒をしていると、段々彼女の顔色が良くなっている。
「あぁ…」
「あ、今のでいいんだ。お前の好みに付き合いたくないんだけど」
「ありがとうございます」
「え、なんも褒めてないし。キモイからやめてくんね?」
急にハッと言い、中橋は彼女に手招きをした。
それに何の意味があるか分からないが、とても怪しげな笑みを浮かべている。
「で、アタシがそこで言ってやったのよ。なつぽんは事務所NGなんですって」
「急に話飛びすぎじゃね?うちの母親みたいだな」
「てか、うち自体が事務所NGなの?普通は人物に対してNG出すんだわ」
「あと論破したオチにしてるけど全く理詰め出来てないからね?」
中橋は変顔した。
「理詰め?お徳用パックかぁー?」
「知識詰められるなら欲しいかも」
それに真面目に答えてしまった、なつぽんは少し恥ずかしくなった。
「え、やっぱり伊藤博文さんですよね?」
「そういうのって存命してるやつじゃないと通じんのよ」
「てか伊藤博文がなんでJKやってんの?そっからおかしいじゃん」
「おじさんも若い女の子に憧れてしまうのは仕方ないと思います」
「お前はどこの目線でそれ言ってんの?」
中橋はカバンから、ヒビが入った老眼鏡をかけて、さながら専門家になったつもりで話した。
「ま、憧れるのはかわいい女の子だけなんですが」
「それは…触れちゃいけないだろ」
「あのぉ、やっぱり伊藤博文さんですよね?」
「また言ってんのか馬鹿が」
彼女は中橋の頭にゆるいチョップをした。
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