六 言葉を話す卓球のラケットと、恐らく中学生位だと思うけど、おねショタって事でいいですか?
チーちゃんと妖精女王の不毛な戦いは、大勢の妖精達や町中一の事など、まったく無視して、ヒートアップして行き、小学生も顔負けな、語彙力のまったくない、頭の悪そうな言葉が飛び交う激しい舌戦になって行っていた。
「これは、いつまで続くのかね? 俺は、いつまで、こうしていればいいのだろうか? こんなん止める気にもなんねえしなあ。そもそも巻き込まれたくねえしなあ」
暇を持て余し始めた町中一は、ブツブツとこぼしてから、よっこらセ〇クス。と聞いた瞬間に、このオヤジ、死ねばいいのに。と誰もが思うような、お下劣なオヤジギャグを爆発させつつ、その場に座り込んだ。
「ん? 腰に何か、くっ付いている?」
座った拍子に左の腰の辺りに何かが当たったので、町中一は、その何かの方に目を向けた。
「んんんん?」
町中一は自分が見ている物が、あまりにもこの場にそぐわない物だったので、我が目を疑い、腰に帯びている何かを二度見した。
「んんんん?」
これは、なんだろうか? どう見ても、卓球のラケット、しかも、ペンホルダー型のグリップの部分に見えるぞ。いやいやいやいやいやいや。そんな物がどうしてここに。それに、それにだ。何なんだこれは? 剣の鞘、だよな? どうして、剣の鞘に納まっている剣の、本当は剣の柄がある部分が、卓球のラケットの、ペンホルダー型の、グリップ部分の形をしていやがるんだ?
何が何だか分からない。この面妖な物体は一体何なんだ? 妖精達のいる異世界にいるという、この現実すら霞んでしまう程の、あまりの現実感のなさに、ふうっと意識が遠退いて、眩暈が町中一を襲う。
おうっふ。危ない。死んだ時には見えなかったのに、今は、明らかに彼岸らしき場所が見えちまったぜぇ。
とにかく、あれだ。あれ。おっさんになると、あれってすぐに言っちゃうんだよなあ。まあいい。外見は若返っているのかも知れないが、中身はおっさんのままなんだからしょうがない。あれだ。また言ってしまった。あれなあれ。ええっと、抜いてみよう。ひょっとしたら、そういう柄をした、特殊な形の、剣なのかも知れない。
……。だって、思えば、そうだった。俺は、中学生の時に卓球部にいたじゃあないか。しかもだ。一度だけだが、大会で、優勝しているじゃあないか。ま、まあ、団体戦のダブルス担当だったけれどもさ。けど、あれだ。高校の時は、柔道を、大学の時は、空手をやっていたが、後にも先にも、俺の前世の中で、あんな、確か、市が催しているような大きな大会で、活躍した事なんて、他には、なかったもんなあ。
女神様が何かしらの気を利かせてくれたのかなあ。そうだそうだ。確か、体とか精神とかが一番充実している頃の状態で生まれ変わるとかなんとか言っていたような?
となると、あれか? 俺は、今、中学生位の体になっているのか?!
おおっと。待て待て待て。まずは、剣の方だ。そっちを見てから、体の方を見てみようじゃないか。俺はこう見えても、一番の大好物は最後まで取っておくタイプなんだよねこれが。そうそう。すんごい昔に、家族と外食に行った時に、それが原因で、取ってあった料理を片付けられそうになった事があったなあ。懐かしい懐かしい。は? いかんいかん。
でも、でもなあ。こりゃ、ひょっとするとひょっとするぞ。俺としては、小説が一番乗っていた頃になると思っていたが、それより若いのなら、まあ、な。小説の事はこの際置いておいて、そっちの方が良いんじゃないか? 良過ぎるんじゃないか、なあ、俺よ。おねショタ好きだしなあ。良く抜いたしなあ。中学生もおねショタだよなあ? こりゃ、リアルおねショタNTR来るんじゃね?
町中一は、もう、なんだか、とってもとっても、上機嫌になって、すっくと立ち上がると、剣の柄ならぬ、卓球のラケットのグリップ部分を右手で掴んだ。
「出でよ。俺だけの聖剣エクスカリバー!!!」
この世界中に轟けこの野郎。というぐらいの勢いで、叫びながら、町中一は剣を抜いた。
「ちょっとぉ~ん。あんたぁぁぁん、いきなり抜くなんて、あんたもぉん、好きねぇぇぇ」
どこからどう聞いてもおっさんの、ダミダミのダミ声が、どこから聞こえて来て、そんな事を宣いやがった。
「はう? な、なんだ? 肌が粟立つような、なんとも言えない声質の、しかも、お姉系の人っぽい感じの人の声が聞こえたような気が」
町中一は体中を駆け巡る悪寒に、体をガクガクブルブルと震わせながら辺りを見回した。
「あたくしよん。あたくしが言ったのん。あーたの、その、とーってもかわいい、ふわふわのふわの、若い柔肌の指でギュギュギュギューっと握られている、あたくしが、言ったのよぉん」
「ぶわっはっ!!!」
町中一は、手に握っていた剣、いやさ、もう今は鞘から抜いたので、剣身の部分が見えているので、どうやって鞘の中に納まっていたのかは、まったく謎の、はっきりと、卓球のラケットの、ペンホルダー型だと、分かっている、しかも、言葉を話す、物体を、反射的に、地面に向かって、思い切り叩き付けるように投げた。
「おおおお~~ん。あ~~~~ん。いったぁ~いぃぃん。でも、ちょっち、気持ちいぃぃん。ちょっとぉん。あんたん、また、なの? 今度は何があったのぉん?」
町中一は、素早く十メートル位、ラケットから離れると、近くにあった木の幹の陰に隠れて、顔の半分だけを、木の幹の陰から、ちょろりんと出して、ラケットをチラ見する。
「もうぉぉん。このおぉぉん、照れ屋さぁん。うっふぅぅん」
そんな言葉を言ったと思うと、ラケットが一瞬にして、町中一の目の前に現れる。
「え? え? へぇぇぇ? ラケットが二つに増えた?」
「あらぁ。いやぁんだぁん。あれは、ざ・ん・ぞ・うぅぅ。あたくしの動きが速過ぎてぇん。残像が残っちゃったのよぉぉん」
「ギャー。変態ラケット!! こここここっちにににん、きき、ききっききき、来たぁぁっぁあ」
町中一は、くるりと踵を返すと、自身の進行方向を一切見る余裕もなく、一目散に逃げ出した。
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