異世界プログラマー ~タブレット&プログラミングで理不尽まみれの世界をぶっ飛ばせ!~
@D6K1
プロローグ 二つの『不明』ランク
「次、ケイーク・タイカー!」
「はい!」
今日は待ちに待った神授の儀式。
神様がその年に十五歳になった人間へ特別なアイテムを授けてくれるという、一生に一度の特別な日だ。
剣を貰えた人は剣士に、魔術書が貰えた人は魔法使いに、ハンマーが貰えた人は鍛冶師に……
と、『何が貰えたか』でその後の人生にも大きく関わる一大イベントなだけに、まわりの皆も緊張しているようだ。
「こ、これは!
なんと、Sランクの聖剣! グランシルバー!」
神官の驚きの声とともに、周囲からも「おおおっ」という歓声が上がる。
どうやらあの人は凄いのを貰えたみたいだ。
「ロイドっ! 聞いた!? Sランクだって!」
銀髪の少女が振り返り、興奮気味に話しかけてきた。
この子は僕の幼馴染で同い年のアミリー。
確かに、ここ一年で髪も伸ばし始めて、話す内容もずいぶん大人びてきたような気もするけど……幼い時からずっと一緒の僕からしたら、アミリーはとっても元気でお転婆なアミリーのままで何も変わってないと思う。
「Sランクかあ。あの人、きっと大活躍するんだろうなあ」
聖剣を授かった少年は大はしゃぎ。一緒に来た仲間たちと大盛り上がりだ。
「ロイドだって、きっと凄いのが貰えるわよ! だって、世界一の冒険者になりたいんでしょ? きっと神様も見てくれてるわ!」
「う、うん。そうだったらいいんだけど」
僕は運が良くないからなあ……。
今日も近所の犬に噛みつかれちゃったし。
一応、ある程度はその人の素質に応じた物が出るらしいけど……もしFランクとか、Eランクだったらどうしよう。
「次! アミリー・ベイシカ!」
「ほら、アミリー、呼んでるよ!」
「あ、はい! 今行きます!」
肩口まで伸ばした銀髪を揺らし、小走りでアミリーは祭壇の方へと向かっていった。
……アミリーが終わったらいよいよ次は僕の番か。緊張するなあ……。
「両手を差し出し、手の平を上に向けて目を閉じなさい」
「は……はい。こうでしょうか」
「よろしい。では――」
言われた通りの姿勢になったアミリーを見て、白い服に身を包んだ神官の人が何かの呪文を唱え始める。
すると、手の平の上に白く輝くもやのようなものが現れて――そして実体化した。
「……こ、これはっ……?」
「まさか! いや、しかしあれは確かに……」
神官の人たちがざわついている。
何かあったのだろうか。
「だ、『大賢者の魔導書』っ! ランクは……不明!」
「ふ、不明……?」
「そんなの聞いたことないぞ」
「でも、大賢者って言ってたよ?」
予想をはるかに超えるアミリーの結果に全く関係のない周りの人までざわついている。
司祭様のところに集まって何事かを話している神官の人も、未だに信じられないような顔をしている。
しばらくして、神官の人が元の場所に戻ったのだけど――『大賢者の魔導書』について話し始めたのは何と司祭様本人だった。
「……あー。静粛に。
これは、かの大賢者シーシャ様がお使いになられていた伝説の魔導書であり、ランク付けなど到底出来るはずがない代物。
よって、ランクは不明とする!」
「マジかよ、スゲー!」
「あんなのアリかよー」
「おい、あの子パーティーに誘おうぜ!」
「バカ、俺らみたいなCランクがやっとのところになんて来るかよ!」
「ってことはこの国一番の冒険者パーティー『金獅子の誇り』かな!?」
司祭様の一言で、儀式の場は凄まじい歓声が沸き起こった。
誰もがアミリーを称賛し、羨み、一緒に来た者同士でこの場に立ち会えた幸運を語り合っている。
だけど、周りの騒ぎとは対照的に僕は別のことを考えていた。
(不明って、SSランクより上ってこと……?
そんな。それに釣り合おうとするならAランク……? S? いや、SSじゃないと……)
絶望に近い感情で呆然とする僕の元に、『大賢者の魔導書』を小脇に抱えたアミリーが戻ってきた。
だけど、その表情は――幸せ、でもなければ驚き、でもなく……
唯一思い当たるとしたら……困っているときの顔、だった。
「ろ、ロイド。どうしよう。わたし、こんなに凄いの、いらないのに」
「な、何言ってるんだよアミリー! 大賢者だよ!?」
「で、でも」
前から戦いとかは興味ない、ランクなんて低くてもいいから料理用の鍋とか裁縫用の針とか洗濯用の板がいい、って言ってたのは知っていたけど……。
「ねえ、アミリー。もし、僕も凄いのが貰えたらさ」
「うん」
「……やっぱり、何でもないっ」
「えーっ、ずるーい! 最後まで言ってよー」
アミリーを不安にさせたくない。そんな思いで、つい前々から思っていたことを口に出しそうになってしまった。
でも、ようやくいつもの調子に戻ったアミリーを見て、改めて思う。
やっぱりアミリーと一緒に冒険者になりたい、って。
まだ諦めるのは早い。僕も良いのが貰えれば、まだチャンスはあるんだ。
出来ればSSランク、せめてSランクの武器なら……。
「静粛に! 静粛に!
次、ロイド・アンデール!」
「はいっ!」
「両手を差し出し、手の平を上に向けて目を閉じなさい」
言われた通りに手の平を差し出し、目を閉じる。
視界が暗闇に包まれ、神官の呪文が聞こえてきた――
(へー。今回はお前かあ。
……うーん、何だか頼りなさそうな奴だなあ。
――ま、いいや。どうせ人間なんかに期待はしてねーからさ、精々頑張んな。
まあもし万が一、俺様を『起動』出来たなら――
そん時は俺様がお前を『最強』にしてやるからよ)
何だ、今の。
呪文とは別の、妙な声が頭の中に響いたような……?
「ロイド。もう終わったぞ。目を開けなさい」
「あ、はい!」
慌てて目を開いた僕の手の平に乗っていたのは――
「黒い……板?」
――真っ黒な板だった。
つやつやと光り、つるつるとした手触り、手の平二つ分くらいの大きさ。
剣や槍や斧やナイフや弓矢でも、魔導書や杖やローブでもない。
ハンマーでも無いし、鍋や洗濯板でもない。
何かは分からないけど、冒険に役立ちそうなものには見えない。
「これは……何ですか?」
「……あー。漆黒の板、だ」
「しっこくの、板? それってどんなアイテムなんでしょうか。向いている職業とかは」
「過去にそれを使いこなせたものはおらん。何の役に立つのかもわかってはおらん。
よって、それもまた……ランク、不明――だ」
神官の人が言いにくそうにそう言うと、儀式の場はまたしても沸き上がった。
ただし、先程とは正反対の方向に……。
嘲弄する人、嘲笑する人、腹を抱えて笑って人。
可哀想なものを見るような目をしている人もいる。
でも、そんな赤の他人の反応なんかよりもずっと堪えたのは、アミリーがとても悲しそうな目で僕を見ていたことだった。
同じ『不明』なのに、彼女は最上で、僕はゴミ。
天と地ほどの差があるのに、アミリーの隣に立とうだなんて身分違いも甚だしいというものだろう。
――それに気づいたとき、僕の夢は音を立てて崩れ落ちてしまった。
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