彩冠綺譚〜「転生者」である俺は最上級魔導士の称号を授かったのですが、平穏な日々を勝ち取るため事務職員に転職希望です〜

紫波すい

0.『彩冠』


 「彩付いろどりつき」。

 それは魔導士に与えられる最高の称号。


 紅炎、碧水、白氷、黒虚、橙地、紫雷、翠風。


 これらは、7属性により構成されたこの世界を、大蛇のごとく巡り続ける偉大なる魔力の流れ……「魔糸流」の名。通常、それらの気侭きままな姿を視ることができるのは、天上に座す女神様、ただ一柱のみ。


 彩付きは、この魔糸流から名をいただいたもの。


 各国によって、彩付きの認定基準や扱い方は異なるが、シェールグレイ王国におけるその管理は、魔導卿の管轄となっている。


 古き時代の魔導卿が定めた基準は、「万能」であること。その属性に秘められた、あらゆる可能性について熟達していること。


 なお、武器の扱いを極めた戦士には「銀星」という称号が送られる。こちらの管轄は軍務卿だ。


 彩付きとなることを「彩冠を戴く」と言う。

 国の長より直々に証を戴く、儀礼ゆえに。


 常人では、生涯を賭しても辿り着けない領域。

 しかし。「転生者」ならば……





 未だ裸の木々に囲まれた、円形の平地。3日間雨が降っていないにも関わらず、大地の一部はぬかるみ、足跡によって抉れていた。


 対峙する師が、狼の顔を模した水塊を放つ。

 透き通った牙を曝して迫り来る、その数は7。

 四肢で地を駆けるより、遥かに速く。


 しかし、標的に食らいつく前に蒸発した。


 少年も師も、得物は片手剣。少年は、自らの怜悧な双眸と同じ紅色の火炎を、刀身に纏わせ……斜へ横へと流れるような連撃で、一切を蒸気に変えた。


 その間その足は、ただ一歩前へ踏み出しただけ。巻き起こる熱風に黒髪を揺さぶられながら、少年は無表情に素早く剣を払い、そこに宿った熱を鎮めた。


 そして、構える。師の瞳に、ぎらついた渇望が見える……師にとってこの稽古が、稽古以上の意義を持つ証。

 至高の衝撃に、備えなければならない。


 師の影が、からの右袖が、ゆらりと揺れて。

 剣と剣が交わるまでは、刹那。


 競り合う。得物がギチギチと悲鳴を上げる。


 師が操るは、流水に似た緩急自在の業。まばたきの狭間に間合いを取ったかと思えば、瀑布のごとく速く、舞うように無駄なく、片手のみとは到底思えない重さで、攻勢をかけてくる。


 剣戟の音が、突き抜けた晴空に高く、連鎖する。


 応える、父と師から教わった技で以って。

 身に馴染ませてきた「転生者」の魔力で以って。


 その全ては、生き残るために。





 少年の名は、クロニア・アルテドット。


 それは、紅炎の彩冠を戴く者。

 それは、いずれ■■に至る者。





〜〜〜〜〜〜〜〜


 はじめまして、作者の紫波すいと申します。


 沢山の作品の中から拙作をお手に取っていただき、誠にありがとうございます! お好きなときに、お好きな分だけ、お楽しみいただけると嬉しいです。


 もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、作品のフォロー、ハート、星でのご評価など、何らかの応援を残していただけますと、大変励みになります!


 次話より第1章が始まります。

 よろしければ引き続き、お楽しみくださいませ。


 紫波すいでございました。

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