バグだらけのゲームみたいな異世界に転生したヘタレは卑怯な手を使って成り上がる

星月

第1話 ヘタレでオタク

 西暦3000年、2000年代の頃より化学技術、医療技術など、様々な技術が随分と発展した。当然ゲームやアニメも2000年代の頃と比べ物にならない程発展していた。ゲームはフルダイブと言って、自らの精神をゲームのアバターに憑依させて仮想現実の空間での活動を可能としていた。アニメもこのフルダイブの技術を利用して、よりリアルな視点から見る事ができるようにもなった。まあ、当然今までのようにテレビ越しのアニメだったり、ゲーム機やパソコンを利用したゲームだったりも出来る。要は選択制のようなものだ。好きな時に好きな様に楽しめる。そんな時代になっている。え?なんでそんな事をわざわざ話すのかって?そりゃ、俺が生粋のオタクだからだよ。よくあるだろ?物語の導入とかで。主人公からの世界の説明みたいな。オタクなら一度は夢に見た事があるだろう。また、口にしたことがあるだろう。


「あ〜、アニメでもゲームの世界でも良いから異世界に転生してぇ〜」


 そう言ってオタクなら一度は口にしたことがあるであろう叶いもしない夢を今日も俺は強い願いを込めて呟く。


「はぁ…またそんなこと言ってんの?」


 俺の視界にたわわな胸と艶のある長い茶髪が映る。前かがみで下を向きながら歩いているため、身長差があっても顔ではなく胸が映ってしまうのだ。今更だが、俺は高校生で、紺色がかった黒色の髪に真紅の目で、身長は178cmある。もっとも、俺の姿勢の悪さのせいで173cmくらいに見えるのだが。さて、そんな話はそこそこに俺は「眼福眼福」と呟きながら顔を正面に上げる。そこには見慣れた顔の美人が少し怒り気味の表情でこちらを見ていた。


「『眼福眼福』じゃないわよ。いい加減その前かがみな姿勢やめなさいよ。そんな姿勢だからいつも私の胸に顔突っ込みそうになるんでしょ?」


「俺はお前のそのたわわな胸に顔を突っ込めるなら本望だがな。」


 キリッという効果音が合ってそうな表情をしながらそう言うが、すぐに目の前のたわわな胸をお持ちの美女が頭を引っぱたいてくる。


「何すんだよ!痛ってぇな!!」


 俺が引っぱたかれた頭を擦りながらそう言うと、凄い勢いで言葉が返ってくる。


「何すんだよじゃないわよ!何が悲しくてあんたの頭を私の胸に突っ込ませなきゃいけないのよ!!」


 全くその通りです。だが……俺はここで諦めるわけにはいかんのだ!俺はこいつの胸に顔を突っ込みたい!


「それは酷い言い様じゃねぇか!」


「事実でしょ!!」


 あっさりと論破されてしまった。


「「はぁ……」」


 と、俺と目の前のたわわな胸をお持ちの美女は同時にため息を零す。

 おっと、自己紹介と目の前の美女の名前を教えるのがまだだったな。俺は『皇 七音(すめらぎ ななと )』だ。で、この美女は俺の幼馴染の『如月 奈乃(きさらぎ なの )』という。俺達はかなりのお偉いさんの家に生まれた。だから金持ちの多い学校に行かされている。俺はその学校の生徒会長…なんてことは無く、奈乃が生徒会役員というくらいだろう。一応言うと、俺達は家と呼べるのか?と思うほどの豪邸が隣同士の幼馴染で、親同士の仲が大変良い。故に俺達は許嫁にもされていた。俺は大歓迎だが、奈乃は恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながら反対していたが、奈乃の親によれば『奈乃は嬉しいとああやってツンデレになるから大丈夫』との事だった。正直奈乃は俺の癖に直球どストレートで突き刺さっているのだ。ツンデレ、巨乳、茶髪ロング、大人しそうな可愛い顔。これ以上の理想の女性なんて見つからないだろう、というくらい。おっと、話が逸れたな。そろそろ戻ろう。


「なんで同時にため息を零すのよ…」


 奈乃が呆れ気味に、少し嬉しそうに顔を綻ばせてそう言った。


「俺達は昔からこうだろ?」


「まあ、そうだけど…」


 どうやら満更でもないらしい。また俺と同時に微笑んだ。


「ぷっ…」


 思わず吹き出しそうになってしまった。あまりにも俺と息が合いすぎる。アニメやゲームの世界に行くなら、奈乃とも一緒に行きたいものだ。


「なっ……なんで笑うのよ!」


 奈乃が慌ててそうツッコミを入れる。両頬をぷくっと膨らませて、上目遣いでこっちを見てくる。くそ……可愛すぎる…俺を殺す気か…?


「すまんすまん。奈乃が可愛かったんでついな。」


 俺はそう事実を言った。奈乃は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。そうこうしているうちに家の目の前だった。全く、早いものだな。楽しい時間ってのは。


「じゃあな、奈乃。また明日。」


 俺がそう声をかけると、嬉しそうな顔をした奈乃がこちらの方を向く。


「うん、またね。七音。」


 これが、俺達のいつもの日常だった。


「さて、今日もこのオープンワールドのゲームするかぁ」


「そういえば、七音がこのオープンワールドのゲームがおすすめって言ってたっけ…」


 そうして、またしても同時に、各々の部屋にて同じゲームを起動した二人は、ゲーム起動の光に包まれ、モニターに吸い込まれるように消えていった。

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