禁忌 3

―鏡子 七歳―


 その後閻魔大王が現代に視察に来たのは三年後だった。閻魔大王はその間、話しかけてきた幼い鏡子のことなど忘れてしまっていた。

 あれから罪人の数は減っていない。むしろ増えてしまっている。


 さて。どうしたものか。


 閻魔大王は深くため息を吐く。それとは裏腹に周囲はワイワイと子供の喧騒が聞こえてくる。学校の下校時間なのだろうか。ランドセルを背負った子供たちで周囲は溢れている。

 そんな中、閻魔大王はとある箇所に目線を向ける。女の子が三人で集まって何やら話していた。


「このくらい大丈夫だって」

「えっと……」

「ね。ほらほら」


 女の子二人が一人の大人しそうな女の子の手を半ば強引に引っ張っていく。閻魔大王はその様子が気になって離れたところから女の子の後ろ姿を追った。女の子三人はそのうちに昔ながらの駄菓子屋の前に着く。

 二人が一人の女の子の背中を「大丈夫だって」と駄菓子屋の方へぐいぐいと押していく。背中を押されている子は「でも……」と二人を不安そうに振り返った。

 その振り返った女の子の顔に閻魔大王はハッとする。


 この子の顔……。


 だいぶ印象が変わっているが、前の視察の時に話しかけてきた少女、鏡子だった。

 幼い鏡子はおろおろと他の女の子二人を見る。


「やっぱり万引きは……」


 万引き!?


 閻魔大王はギョッと女の子達を見つめる。その間にも鏡子は二人の女の子に背中を押されている。

 幼い鏡子は善悪の分別はあるものの、友達の意見に流されてしまいそうになっている。

 閻魔大王はグッと拳を握りしめた。


 負けるな。流されるな。


 そう必死に祈るも心の声は幼い鏡子に届く事は無い。

 その間にも「じゃあちょっとだけ」と鏡子は駄菓子屋に足を一歩踏み出している。


「駄目だ!!!」


 閻魔大王はついに声を荒げてしまう。女の子三人があからさまにギョッとした顔をして閻魔大王を振り返る。閻魔大王はやってしまったと思ったのと同時に、やってしまったものは仕方ないと覚悟を決める。


「自身の心に惑わされていけない」

「?」


 鏡子は首を傾げる。鏡子は閻魔大王のことなど覚えていなかった。

 閻魔大王は幼い鏡子が自身のことを覚えていないと分かったうえでなお言葉を続ける。


「自身の心に惑わされていけない。君なら何が正しいか分かるはずだ」

「……?」


 鏡子は自分自身を指差す。


それって私に言ってる? と鏡子はぱちくりと瞬く。閻魔大王はそれに強く頷いた。


「君なら正しい選択が出来る」


 鏡子は閻魔大王の言葉に「うん」と頷いた。そして女の子二人にしっかりと向き合う。


「私……。やっぱり。そんなこと出来ないよ」

「「…………」」


 鏡子にきっぱりと断られてしまった女の子二人はバツが悪そうにお互いの顔を見合わせる。


「ごめんね」


 そう言った鏡子を閻魔大王はわずかに俯きながら見ていた。

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