第2部 紅蓮

第2部 前編

70話 4月2日


【紅焔ちゃん17歳/ナティ姉も誕生日だ!】可愛いJKと美人のお姉さんのお通りだ! 祝え!【紅焔アグニス/帝星ナティカ/ルルーナ・フォーチュン】

2万人が視聴中 チャンネル登録者数130.3万人

#YaーTaプロ1期生


¥20000:誕生日おめでとう、姫さん、お嬢!

:二人とも誕生日近かったのか

:今日は4月2日……エイプリルフールじゃないからフェイクニュースではないな!

¥2717:ろうそく代です

¥50000:俺は永遠に待ちわび続ける:この瞬間も待ちわびていたぞ!

:↑来たのか!

:↑遅えんだよ!

:↑待ちわびたぞ! 兄さん!

:兄さんにスパチャ投げてえ 破産する前に

:おっと、きちゃ!


「今日は事務所からイグニッショーン! YaーTaプロダクション1期生、紅焔アグニス、現世に顕現!」

「こんナティカー。YaーTaプロダクション1期生、帝星ナティカです。今夜もあなたの一番星となれますように」

「やあ。待たせたかな。YaーTaプロダクション1期生のルルーナ・フォーチュンだ」

「今日はナティ姉と一緒にルルから祝われまくるから、覚悟しろよお前ら!」


¥10000:イグニッショーン!

¥10000:こんナティカー!

¥667:月の煌きと共に!

¥10000:ふたりとも誕生日おめでとうございます!

:お嬢17歳の誕生日めでてえ!

:ナティ姉27歳の誕生日おめでとう!

:あの喋り方で27歳とか……マジすか いや可愛いから全く問題ないけど

:お嬢と姫さん、10歳差ってマ?


「こらこらお前らー? 女性の年齢で盛り上がるのは止めておくれよ。ナティ姉けっこう気にしちゃってるからね」

「改めて年齢を聞くとアラサーに近づいてるんだなってしみじみ思うよ」

「……本当にアラサーなんだよねナティ姉? いつ見ても年齢詐欺にしか見えないんだが?」

「その詐欺が働いてくれていたらどれだけ幸せだっただろうね……」


:姫さんの顔がどんどん曇っていくw

:すまねぇナティ姉! こんなお祝いの日にすまねえ!


「姫。あまり悲観されるとリスナーの皆も困惑しちまうぞい。祝いの席なのだし、こうして顔を合わせたのも久々だ。もっとめでたい気持ちになろうぞ」

「そうだねえ。確かに久しぶりだよねえ。アグちゃんもルルちゃんも、二人とも収録や案件で忙しかったもんね」

「忙しいのは人気がある証拠だから嬉しいけどさ。ルルやナティ姉と話す時間が減ったのは寂しいんだよねえ」


:てえてえニウムの過剰放出を確認!耐えられません!

:こういう言葉がしれっと出てくるからたまんねえよ1期生

 

「そういう姫だって、最近は人気が加速してぶいぶい言わせてるじゃねえか。よく頑張っているよ」

「えへへ……」


:お嬢130万 ナティ姉59万 団長85万 だったな

:こうやって見るとナティ姉が爆上がりしてるw

:ひと月前が30万くらいだったから、ほぼ倍増か

:配信するたびになんかバズってたからな最近の姫さんは

:あのASMRは神が降りてたわ。無料で聞くの申し訳なさすぎて初スパチャしちまったぞい

:歌いながらワルビー配信、何回もリピートしてるwww

:今の姫さんだからこそできる配信だよな。最近アリアの指導で歌ウマになってきてるし

:昨日のアリアとの歌配信も上達しすぎて替え玉疑惑出てたのはクッソ笑ったわww

:音痴の極み→カラオケ下手な一般人までレベルアップはスタメンの誰一人予想できなんだぞ

:↑エイプリルフールだから余計に疑っちまったよww


「でも、お姉さんは配信者として成長してきたって思うけど、アイドルとして二人に比べたらまだまだなんだよねえ」

「お嬢の歌ってみた動画、500万も再生されてるもんな。まだ1週間も経ってないのに、やっぱ大したもんだよ」

「ルルこそ、地上波デビューとか、声優番組に引っ張りだこだったりとか、しっかり人気者になってるよね」


:お嬢のSay、Hello World!で毎日元気出してる

:むしろまだ500万再生なのかって驚いてるよ

:初配信の紅蓮烈火切り抜き、もう5000万再生突破してるもんなー 我が娘のようで誇らしい


:団長は地上波向けのキャラだよな 物怖じしないし

:リアル美人なんだから、寧ろVよりタレントのほうが向いてんじゃね?

:なんでそのビジュアルでVtuberやってるの?って散々言われまくってたな

:貫禄ありすぎてメインパーソナリティーが畏まってて草生えまくったわww


「さて。お嬢と姫は誕生日という話だが。姫が4月1日で昨日、お嬢は4月2日で今日なんだよな」

「はいその通りでーす。誕生日が近いからまとめて祝ってもらってまーす。事務所の財布に優しい親切設計だね」


¥10000:俺たちの財布には大打撃だぜ

¥10000:単純に倍のお布施だもんな。一向に構わんが。

¥10000:我々にはスパチャがある。敗北の二文字は無いと思っていただこう!

:え? お嬢と姫さんの誕生日、逆じゃないの?

 

「うおぉい、今のコメント見逃さなかったからな! 本人なんだから自分の誕生日くらい間違えるはずないやろ!」

「おん? 姫。なぜリスナーの方々は誕生日を逆だと思ったんだい? なぜお嬢は怒っとるんだい?」

「4月の1日と2日って年度が別れる境目なんだよ。学校への入学タイミングが変わってくるの。だからお姉さんは学年で一番の年下だったし、アグちゃんは一番の年上になるんだよね」

「なるほど。つまり、学年では最年長なのに、お嬢の発育が遅れていることにリスナーは疑問を持ったのだな」

「これでも縦横しっかり育ってるんだよ! 横はミリだけど! 紅焔ちゃん、割と気にしてるんだからな! 特に今日は胸のネタでイジるの控えろよ! BANも考えるからな!」

「お姉さんも、早生まれ扱いで皆と差がつけられやすかったし、その割にムチっとしてたから、苦労したなあ」


:お嬢は一番育ってなくちゃいかんのに、たぶん一番育ってないのかw

:姫さんの悩み、早生まれあるあるだなぁ……体は共感できんが

:また湿っぽくなってるw 誕生日なんだろw

 

祝日いわいびなのに業が深いのう……ようし、この流れを断ち切らねば。誕生日といえばご馳走とケーキと聞いたのでな。どちらもしっかりと用意させてもらったぞ」

「よっしゃその言葉を待ってました! ルルは期待を裏切らないな! 癒やしてくれ、ルルーっ!」

「今日だけは食事制限忘れて食べちゃうぜー!」


:姫さんが俺たちの予想以上に嬉しそうwww

:食事制限してたのかww

:雑談でレッスンやりまくって毎日が筋肉痛と言うてたな

:3Dの体が無いから不確定だけど、お嬢と団長はフィジカルおばけっぽい強者オーラがムンムン出てるから、着いていくのが大変そう

¥7100:頑張り屋だから応援したくなる それがナティ姉 いつまでも元気で居てくれ

 


・・・・・

・・・



「いやー、安心と信頼のルルクオリティなんですワ。やっぱ幸せって食から生まれるのよね」

「アグちゃんよく食べるよねー。毎回思うんだけど、その細い身体のどこに収まってるんだろ」


:しかし胸は成長しないのか……

:↑おいバカ止めろ 消されたいのか


「満足していただいて何よりだ。俺も誰かのために料理を作るのは嬉しいもんだよ」

「いやーすまんね旅団の皆さん。紅焔ちゃん至福でごぜえます」


:そりゃもう特権でしょ

:店クラスの料理連打の飯テロは、いやーキツかったっす


「飯テロ、プレゼントねぇ……うーん……」

「どうしたのアグちゃん」

「今日ってルルのごはんの事しか頭に無かったけど、よくよく考えたら、祝ってくれているリスナーさんには何も返せないなって思ってさ」

「アグちゃんはしょうがないよ。収録と案件いっぱいで、しかも学校だってあるし。グッズや企画を用意する時間が無かったんでしょ?」


:んだんだ お嬢が忙しいのは周知なのよ

:今、アグちゃん『は』って言ったよねナティ姉?

:お? この後、たしか姫さんは配信予定あったよね よもやよもや?

 

「んん? ナティ姉、なんかリスナーの人がザワついてるんだが? もしかして、この後も配信したりする予定?」

「あ。えーと。お姉さんは時間があったし、スタメンさんから活動資金も貰っているから……まあその……後で告知しますので、今はだんまりします」

「しっかりアイドルムーブしてるじゃんナティ姉! しかも今、『達』って言ったな! ルルゥ!?」

「むはは。ばれたか」

「ぬああああっ! この紅焔アグニス、一生の不覚! すまん紅民の皆!」


:元気そうなお嬢の声が聞ければミリも問題ないんだが?

:確かに何も無いのは寂しい 貢がせてほしい

:ナティ姉と団長のお返しがめっちゃ楽しみすぎる デビューからの期間的にグッズは無さそうだから、ボイスかな?

:シチュエーションボイス希望 布教するわ


「お嬢は一期生の中でも人気が突出しているからな。あまり自分を責めてはいかんよ」

「お姉さん達も肩代わりできるといいんだけど、アグちゃんの代わりはできないもんねえ」


:パッション枠のお嬢、キュート枠の姫さん、クール枠の団長で棲み分け出来てるんだよな 故に各々の代用が効かない

:お嬢は歌唱力っていう最強の武器あるから、こればかりはマジで代行は無理だと思う

:やっぱそろそろ新しい世代も必要なんじゃなーい?

:2期生か 確か普通に募集中だったよな


「お。なんか2期生の話題が出てきましたぞ。2期生かー……紅焔ちゃんもちょくちょくプロデューサーに話を聞くけど、いっつも濁されるんだよね。二人は何か聞いていない?」

「お姉さんは何も。ルルちゃんはどう? 社員権限を持ってるから、何か聞いてるんじゃない?」

「2期生の情報なんて、最上位のトップシークレットだろ。俺たちタレントには降りてこない情報だよ。仮に知っていたとしても、この場では話せないな」


:そらそうだ

:もう2期生の話をしてるのか 早くない?

:↑全然。寧ろ遅いまである。最近はデビューに準備期間と金をかけてるし、なかなかデビューしないから感覚分からんかもだが

:駆け出しの事務所だし人数も少ないから、まだ音沙汰が無いのは思った以上に死活問題クラス

:そうだった、ヤタプロは駆け出しの事務所だったんだよな

:もうベテランの貫禄ありすぎて、まだデビューから半年も経ってない事実に戦慄するわ

:三人とも前世割れしてない=配信経験無しってのが、もうバケモノすぎる

:1期生と肩を並べるかそれ以上の人材っしょ? そりゃ全然見つからんだろ

:お化け三人の後にはお化けを並べるしかないもんな 今頃アカルん、死にそうな顔して悩み散らかしてるんじゃね?



・・・・・

・・・



―― ルルーファ・ルーファ ――


 お嬢と姫――二人の誕生日記念配信は大きな動きを見せること無く、粛々と平和に配信を終えることができた。ご馳走の他にも二人にプレゼントを贈ったのだが……姫にあげた手編みのぬいぐるみは喜んでもらえたものの、お嬢に贈ったルーファスのアクションフィギュアへの反応が微妙だったのは至極残念だったな。最近のお気に入りキャラと言うてたのに。解せぬ。

 その後の姫の配信では、リスナーが予想していた通り、誕生日記念のシチュエーションボイスをネット販売すると告知された。俺も配信にお邪魔させてもらい、ゲスト出演をさせてもらった事を併せて伝えると、スタメンの皆がこぞって狂喜乱舞した様は見ていて非常に愉快な光景だったことをお伝えしておく。人気だなあ、おねショタのシチュエーション。


 さて、俺たちのデビューから3ヶ月ほど。リスナー達が指摘したように、そろそろYaーTaプロにも新しい風が必要な時期になってきたようだ。


 2期生。


 このワードがリスナーから飛び出した時、俺もまたリスナー達と同様の疑問が浮かんでいた。後輩の採用事情はどうなってるんじゃろな、と。何も聞かされてなかったからな。

 2期生の採用が滞っている――リスナーの推測は実に正しかった。

 なぜなら、誕生日配信の翌日明朝に、YaーTaプロ社長の朝倉灯からRIMEのメッセージが送られてきたからだ。内容は非常にシンプルであった。



『助けてルルちゃん 2期生つれてきて』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る