42話 元騎士が銃を握ったら 後編
―― ルルーナ・フォーチュン ――
人間が空間を把握する際に使う要素は3つ。
視覚情報
聴覚情報
筋肉・関節からの情報(触覚情報)
3Dのゲームの場合、この3つのうち使う要素の大半が『視覚情報』となり、その他2つの要素はほとんど使用しない。その状態でゲームを進めると、莫大な視覚情報と、あまり使われない耳や筋肉・関節の情報との間に認識の
俺の場合はゲーム側の視点操作に難があった。最速にしても旋回速度がまったく足りない。動体視力にゲームの視点移動が追いつかない。当然、自分が持つ感覚とは
ではどうするか。答えは実にシンプルだった。
「視覚情報を断てばいいのだ」
:お前は何を言ってるんだ
:ちょっと何言ってるか分かんないですね
:見て酔うなら見なければいいじゃない いやいやいやいや
:音ゲーかな?
:え? ……えっ?!
:FPSゲームの話をしていますか?
:団長は人間をやめてるぞー! ○ョジョー!
「まずはマップを憶えるんだ。幸い、このゲームはマップ固定となっている。憶えさえしてしまえば、あとは入力した内容に沿って頭の中でキャラクターを動かせばいい」
:確かにマップは覚えるもんだが限度があるっしょ……
:建物やモニュメントの大きさとか、道端に落ちてる石の位置まで記憶しないと成り立たないレベルだぞ
:入力の
:目隠しマ○オじゃないんだから……
:対人戦でやることじゃねえ!
「全く見ていない訳ではないぞ。交戦している時や狙い撃つ時は流石に見るし、ときどき位置の確認のために目を開いている。
こんなプレイスタイルだからコメントは見逃しがある。ご容赦を」
:いや見てなくても全く気にしないよ俺たち
:見逃し理由が俺たちの予想のナナメ上すぎた……
「相手の位置を特定する方法は主に音となる。銃声、戦闘音、そして足音などの移動音だ。音で5割特定し、4割は相手の動きを予測、そして残り1割は気配察知と直感で敵を割り出す感覚だ。
音のゲーム設定はサラウンドにしないと戦法が成り立たないから注意してくれ。プレイする場合はサラウンドヘッドホンやホームシアタースピーカーの導入も検討してほしい」
:一般人ではその方法でプレイで き ま せ ん
:せめて人類に対応したやり方を教授頼む……
:人間ソナー現る 原理は全然違うが
:そうかBOTいると足音とか会話の声が乗るから排他したのか
:異音=敵か 理に適っちゃいるけど我々凡人には無理やなー……
「お。撃ってきたな」
こちらのレンジ外からの射撃。音からして悪名高きコイルガンか。射程は無限。弾速は最速。障害物貫通。テンタックくんには当たれば即死の超火力だ。
しかし俺のキャラは
:発射音とほぼ同時に無敵ダッシュで躱しおったww
:ノールックだぞww
:反応速度パなすぎぃ!?
:口より先に手が動いてたww
:団長って宇宙出身でしたかね?
『lul KILL (MG701)HS ┣゛┣゛┣゛┣゛』
「キルログ出るまでが狙撃手のお仕事だぞ、お若いの。
:団長も若いだろwww
:心がおじいちゃんだから……
:相手側、確殺だと思った相手から反撃されるとは思わんよw
:団長チート疑惑で通報されてそうw
:ゲームのチートではない。リアルがチートなのだ。
「浮足立っとる。そのまま殲滅しちまおう」
目前の岩へ身を隠して相手の弾幕をやり過ごす。弾倉が尽きるタイミングを見計らい炸裂グレネードを放り投げ、直後に岩を飛び越すようジャンプ。グレネードの気配を察知して岩陰から飛び出してきた相手の進路に向かって3発リボルバーを打ち込み
『lul KILL (S&M) 剛力一号』
『lul KILL (S&M)HS 神業二号』
落ち着いてマグナムをリロードし、眉間に一撃叩き込んでチームは壊滅した。うむ、撮れ高いいんじゃないの?
:人間とは、ああまでもさくりとタヒぬのか?
:B-OVER発動しとる?
:してるけどスナイパー&マグナムの高火力の前ではあまりにも無力
:弾数叩き込むORヘッショなら多少防御上がってても削り切れるからな
:相手の攻撃力上がってるけど、当たらなければどうということはない
:キリングマッスィーンやん……
:クレイジーサイコショタ
:こんな簡単に蹂躙できるゲームだっけ?
:交戦中、団長がまばたきしてなくて怖かった……
:目を開くと 人がしぬよ
:リコイルコントロール完璧やん……馬鹿リコイルのテンタックでけん制以外全部当てやがったぞ
:1日1時間しかプレイしてないの絶対ウソやろ……
:いやプレイ時間で証明済みなんだワ
:逆に何百時間もプレイ済みの別アカあったら、それはそれで狂人になるぞ 3か月だからな
「戦利品漁ったら休憩しようか。この戦法は内臓には優しいが、ちと疲れる」
:そりゃ疲れるよ
:コイルガンあるぞ!
:鬼に金棒 宮本武蔵に日本刀 セガー○にキッチン ルル団長にコイルガン
:残り5発。この弾数で英雄になれるんじゃないの?
「んー……俺、この武器好きじゃないんだよ。あまりにも簡単に人がやられすぎる。過剰なんだよな」
:わかる
:今界隈で一番ヘイト買ってる武器
:もうナーフ決定してるぞ
:↑What does 「ナーフ」 mean?
:お、海外ニキも来たのか
:団長の見た目って海外受けしそうだもんな
:↑「ナーフ」 means "Weakening". (ナーフは弱体化って意味だよ)
:↑OK! Thank you!
「とはいえ相手に持たれても困る。こうしちまおう」
正面の虚空に向けて打ち込む。それからドロップして、後から拾った輩をがっかりさせてやろう。なにせこの武器は弾薬補充不可、しかも1マップ1本限りの貴重品だ。撃ち切ってしまえば鈍器にもならない。さぞかしガッカリするだろうな。むはh
『lul KILL (GL-1 Vanpil)HS なゆなゆ』
「あ」
:なゆたああああああwwwwwww
:逝ったああああああwwwwwwwwwwwwww
:腹筋返せwwwww
:しかもヘッショwwwwwwwwwwwwwwww
:嘘だろwww
:ラッキーショットwwww
:射程無限だからwww
:実は狙った団長?
:団長ならあるいは……
:狙ってたと言ってくれ団長 あまりにも那由多が報われない
:団長、瞬きめちゃはや
「………………」
:無言で上を向いて撃ち始めたwwwwww
:これ偶然っぽいなwwwww
:やっぱ二人とも持ってるなww
:切り抜き班ガリガリ切り抜いてます
「彼……でいいのかな。彼の無念はしっかり背負っていくよ。さて武器をチェンジしておこう。ダメージリングが狭まってくると乱戦も多くなるし、キルログで相手も警戒しだす頃合いだ」
:キルログで警戒?
:団長のキル頻度がバカ高いのと武器種が偏ってるから相手も対策を出してくる頃合い
:臨時結託も視野に入れていいレベル
「昔は調子に乗って3チームほど一気に殲滅したら、4チームから一斉に囲まれちまってな。さすがにやられちまったよ。あれ以来ペース配分は気にしている」
:キルのペース配分を考えるプレイヤーはそうそういないぞ……
:一気に3チーム殲滅とか3人揃ってても聞かないワード
一撃重視のMG701スナイパーライフルから、手数重視かつダメージも大きいSBDスナイパーライフルへチェンジ。
そしてサイドアームはこれまた当たりを引いた。
「お。
:シングルアクションソルジャー!
:同じリボルバーハンドガンなら威力高いマグナムのほうがいいのでは?
:それか装弾数の多いセミオートマチックのハンドガンのほうがトータルでは強い
:でも跳弾あるからこの銃
:あ
:察した ワクワク
:たぶん団長のベストパートナーやこれ
釣果は良好。物資は潤沢。それではラストに備えよう。
俺は人気のない小屋に入り、出入り口に指向性地雷の罠を仕掛けてからしゃがんで待機した。中に入られるか爆発物を投げ込まれない限り死ぬことはない。
「敵もおらんし、しばらく安全だろ。催してきたから、ちょっとトイレ行ってくる。良い子にしていてくれ」
:うそだろww
:戦闘中やぞwwww
:マッチ中にトイレ行く奴初めて見たぞwww
:ぐったり団長えろい
:目視が必要ないから安全と割り切るのが早い
:目を閉じて音に集中してるから逆に視野が広くなってる
:「視」野とはいったい……うごごごご!
:僚機いなくて自分以外の音イコールぜんぶ敵になるから判断が異常に早いのか
:3D酔い無くてチーム戦ができてたらミソロジでもトップ10入りしてるな
:まずい
:銃声 てか撃たれてる!
:近くに敵!
:団長起きろー!
:いま別室で放尿中
「ほい視点注意」
『lul KILL (SAS-PM)HS ヘッドショッター敦』
『lul KILL (M365) テックミェ〜ン』
『lul KILL (SBD) おれ』
:!?
:あれ!?
:復活はやっ!
:一気に3人逝った
:よくワカランうちに終わった プロ英雄解説してくれー!
:ワンチーム奇襲に来る→窓外にいる敵と入口の敵二人に団長がグレ投げる→入り口組グレ直撃→瀕死の奴にリボルバーでキル→逃げる二人目をリボルバーで削って置きグレで爆殺→応援に来た3人目をスナイパーで処理
:最初から奇襲に気づいてないと対処できんレベルで鮮やか
:しかも最初のキル、相手が射角から逃げてたから跳弾で処理してたわ……
:相手、団長がひとりで籠もってるの見越して動いてたな
「先程から付かず離れずの足音が鬱陶しかったぞ……たぶん俺の配信を見ながら様子を伺っていたな」
:ゴースティング!?
:団長気づいてたのか!?
「向こうがラフプレイを仕掛けると思ったから、こちらも
:騙されたが、むしろ爽快だわ!
:くやしいのうゴースティング勢www
:ざまあwwww
「ごーすてぃんぐ……知らんワードだな。団員の皆、解説を頼む」
:要するに、さっき団長が言ってた行為だね
:配信を監視しながらプレイすること
:アイテムの所持状況とか自分の位置とか行動そのものが筒抜けになるから、ゲームが成り立たなくなる
:マナー違反行為よ
「ほーん。あれがゴースティングっていうのか。てっきりルールの穴を突いた戦略のひとつだと思っていたぞ」
:いや普通にアウトよ!?
:まさか団長、ルール違反だとは思ってなかったからって、やってないよね?
「もちろんやってないさ。戦略とはいえ外道であるのは分かるよ。配信者たるもの外道の模範はまずかろうて。
とはいえ、このゲームは『勝負』をするゲームだ。勝負ならば手段を選ばん輩が居るだろうとは思っていた。今回のように、な」
:見られること前提で配信してたってこと!?
:予備知識無しでゴースティングを戦略として発想してたところが恐ろしいぞ
:思考が完全に対人のプロなんよ
:団長が配信者で良かった……
「おっと。散々疑っておいて今更かもしれないが、今のところ彼らがゴースティングをしたという確証は無い。先程の3人は責めないでくれよ。悪意のある切り抜きは止めるように」
:はい!
:御心のままに!
:団長嬉しそう
:返り討ちにできたからか
「嬉しそうっていうか嬉しいな。初回からゴースティングされるほど俺は有名になれたってことだろ。気持ち的にはゴースティング許可したいんだけどな。立ち回り上手くなりてえし」
:!?、!
:ゴースティング公認!?
:圧倒的強者発言www
:不利だろうが実力でねじ伏せるかww
:男前すぎるww
:だが女だ
:団長に具申。ランクマやらない?
「ランクマッチか? だがBOTが使えないぞ」
:俺たちがBOT代わりになればいいよな
:たしかに
:マッチ前にチーム組めば大丈夫
:試合開始したらアイテム回収して抜ければいいか
:団長、強い奴に飢えてそうだし、上に行けば団長クラスのバケモノいっぱいいると思う
「ふむ、たしかに……ちょいと規約に触れないか確認を――返答早いな。許可が出たぞ」
:GJ運営!
:初日の無能っぷりが嘘のようだ
:↑たぶん初日がイレギュラーすぎただけだと思う……
「じゃあこのマッチが終わったら早速行こう。自分からチームを組んだことが無いから、団員の皆、教授してくれるとありがたい、細かなルールはやりながら決めていこう。
そろそろチームも減ってきた。佳境だ。そんじゃまあ――」
目を閉じる。視界は黒に。しかし光景は鮮明に。
「引導、渡しに行こか」
【本日の戦績】
マッチ数:6(カジュアル1、ランクマッチ5)
勝利数:5(ランクマッチで1敗)
キル数:119
ヘッドショット数:66
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