第22話 建国記念式典

貴族も平民も楽しみにしているシュタインベルク王国の1年に1回の国民的祭-それが王国の建国記念日に開かれる建国祭だ。王宮では建国記念式典が開催されるのだが、その市井バージョンが建国祭である。式典は記念日当日だけだが、祭はその後2日間続く。


国王の挨拶から始まる記念式典は、王太子の最後の挨拶で夜会へ移る。今の国王の即位後は王太子が不在なので、社交界デビューを終えた王族が交代で閉会の挨拶をしてきた。マクシミリアンは15歳になって以来その役割を担っていたが、今年はマクシミリアンの健康状態が悪く、まだ社交界デビューは来年ではあるもののヴィルヘルムが挨拶をする可能性が高くなっていた。


一方、市井で行われる建国祭では城下に多くの屋台が出店し、剣技などの武闘大会、音楽や劇の上演もあり、貴族も平民の恰好をしてお忍びで街に繰り出す。最もそこはかとない気品ある振舞いと普段着でもよい素材の服装でたいていは貴族だと周囲の人たちにはわかってしまうのだが、そんなことをわざわざ指摘するのは国民的祭では無粋だということで、誰も彼もが身分を問わず祭を楽しむ伝統になっている。


ユリアもマクシミリアンとこじれる前は、毎年一緒に建国祭をお忍びで楽しんできた。建国祭期間中に中央広場の噴水の柵にそれぞれの瞳の色のリボンを一緒に結びつけるとそのカップルは結婚できるという言い伝えがある。ユリアとマクシミリアンも以前はリボンを一緒に結びつけていた。今はその噴水を見るのも悲しく、ここ数年、ユリアは祭に一人で出かける気にもならなかった。ユリアは、王宮で行われる記念式典の夜会に今年も招待されたが、マクシミリアンが健康上の理由で欠席すると知らせてきたので、行かないことにしていた。


今年の建国記念式典の締めの挨拶は、予想通りヴィルヘルムだった。彼が話し始めようとしたその時、発砲音が数発鳴り響き、ホールにいる参列者達はパニックに陥った。ヴィルヘルムは、不幸中の幸いで左腕にかすり傷を負っただけだったが、そばに仕えていた護衛騎士1人が肩を撃ち抜かれて重傷を負った。その他の護衛騎士が銃で応戦し、犯人は銃創を負ったようだったが、騎士達は犯人を見失った。

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