第14話 愚行の代償

ヒーロー(?)のイメージが崩壊する汚い話がありますので、ご注意下さい。


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マクシミリアンは、何かと苦言を言うユリアを遠ざけ、とうとう王宮で開催された夜会でユリアに婚約破棄を申し渡した。表向きはそうだったが、アナの企みを止められそうもないので、ユリアを巻き込みたくないからだった。最もマクシミリアンの最近のあまりに酷い行動に加え、一方的な婚約破棄宣言の本当の意図をマクシミリアンが誰にも話さなかったので、当初の放蕩王子計画を知っていたオットーさえ、マクシミリアンがそんな意図で婚約破棄を宣言したとは最早想像もしていなかった。


婚約破棄宣言は、国王夫妻もラウエンブルク公爵家もあずかり知らないことだったので、双方の両親の激怒を買った。婚約破棄は無効、でもマクシミリアンは罰として1ヶ月間、北の塔に監禁されることになった。


マクシミリアンは監禁中、面会も医師の診察も一切許されなかった。阿片ももちろん吸引できるわけはなく、治療も受けられないので、禁断症状に苛まれた。2週間も過ぎると、マクシミリアンは排泄も自分で制御できなくなって糞尿と吐しゃ物まみれになり、寄声をあげていた。異臭がするマクシミリアンの部屋には、牢番も近寄りたがらず、食事は日に一度しか提供されなくなったが、それに手をつけられることが次第に少なくなっていった。


面会が許されないため、マクシミリアンはユリアに生き恥を晒さなくて済んだ。最もそれを彼がわかっていたかどうかは微妙だった。それに実際はラウエンブルク公爵家の面々は自家の諜報員に、国王夫妻も王家の影にマクシミリアンの状態について報告を受けていたから、ユリアもマクシミリアンの無残な状況を知ってしまっていた。マクシミリアンが正気になった時にそれを知ったら、羞恥心のあまり合わせる顔がなくなるだろう。


ディアナは嘆き悲しみ、マクシミリアンの監禁をすぐに解いて医師に診せるようにフリードリヒに訴えたが、フリードリヒは相手にしなかった。ユリアもマクシミリアンにワン医師の診察を受けさせようとフリードリヒに願い出るため、謁見を要請したが、却下されてしまった。そこでディアナがフリードリヒの予定を調べ、ユリアがあたかも偶然にフリードリヒに会える手はずを整えた。


ある日の謁見が終わり、フリードリヒが執務室に戻る途中、前からユリアがやって来た。本来なら、身分の高い方が話し始めない限り、身分の低い者から高い者へ話しかけてはいけないのだが、ユリアは不敬を承知で必死に訴えた。


「陛下、ユリア・フォン・ラウエンブルクでございます。北の塔で謹慎中の第一王子殿下が酷い阿片の禁断症状で食事もとれずに苦しんでいます。このままでは餓死してしまいます。どうか医師の派遣をお許し下さいませ」


突然の直訴に護衛騎士は身構えたが、彼らもユリアがマクシミリアンの婚約者であることを知っていた。だから流石に突然国王に話しかける不審者とはとらえず、剣を抜くまではしなかった。フリードリヒは軽く片手をあげて護衛騎士に身構えなくてもよいとジェスチャーを送った。


「なぜ面会禁止のはずのマクシミリアンの様子がそなたにわかるのだ?」


「そ、それは…」


影や諜報員を使って情報収集していることを王侯貴族は非公式に互いに承知していたが、公に認めてよいものではなかった。ユリアは直訴のことは両親にも兄にも言わず、ディアナだけに相談していた。だが直訴するということは、国王に諜報員を使って北の塔の様子を探ったことを認めることになる。そのことがユリアの頭からは抜けていた。


「そなたがマクシミリアンのために色々としてくれたことには感謝している。だが、このように私の予定を把握して突然話しかけるのは大変不愉快だ。それだけではなく、安全保障上の問題でもある。そうなれば、そなたが切り捨てられてもラウエンブルク公爵家は文句を言えまい。今回だけは無礼を許してやるが、二度目はないと思いなさい」


それだけ言うと、フリードリヒは護衛騎士と側近とともに去って行った。ユリアは小さな頃から婚約者としてユリアを知っていたはずのフリードリヒに冷たくあしらわれ、ある程度予想はしていたものの、かなり落胆し、傷ついた。

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