第3話 モノクロな日常に光があった日々(マクシミリアン視点)
僕の日常は、もう小さな子供の頃から色を失っていた。子供たちに興味のない冷たい父親に、弟ヴィリーを差別して僕だけを偏愛する母親、全てがんじがらめに敷かれたレールの上を走るしかない人生。それをもう物心ついてすぐに悟ってしまった。
無邪気でかわいい弟とやさしい乳母だけが救いだった。そんな僕らの日常に光を与えたのが、ラウエンブルク公爵家のオットーとユリアだった。この兄妹が王宮に遊びに初めて来た日、天使のようにかわいいユリアに僕の目はくぎ付けになった。何度も遊んで彼女の性格を知った後も、彼女が僕の天使だという認識は変わらなかった。
子供らしく無邪気だった弟は、ある時を境に僕みたいに達観してしまったような、全てを諦めたような冷めた子供になってしまった。そのきっかけは、今もはっきり覚えている。
トラヘンベルク公爵家のルイーゼとその弟もルイーゼが6歳になった年から王宮に来て、僕たち兄弟とラウエンブルク公爵家兄妹と遊ぶようになった。でもルイーゼは、ヴィリーにべったりで、僕らが彼に構うとヒステリーを起こして、特にユリアにはひどい態度をとった。他の人間が見ていないときにルイーゼがユリアに意地悪するので、とうとうトラヘンベルク公爵家の姉弟とラウエンブルク公爵家の兄妹が王宮に来る日を分けるしかなくなった。
ヴィリーは、ルイーゼのひどい行動を両親に訴えたからそうなったと思ったようだが、実はその前に両家の子供の訪問日を分けることは決まっていた。我が子に害を成すとしても、政治的パワーバランス上で重要な家門の子供だったら我が子と交流させ続ける――そんな両親だとは元からわかっていたけど、それでもやっぱり失望した。ヴィリーの態度が変わったのもそれからだった。
それまでは遊び半分であまり勉強にも剣術にもヴィリーは身に入ってなかったのに、急にまじめにやり始めて僕をあっという間に抜かしてしまった。僕が5回やってやっと成功するようなものを、ヴィリーは1、2回で成功させてしまうような、天才肌だ。
それを知った父上がヴィリーを立太子させたくなったようだと僕も気づいた。でも母上はなぜかヴィリーを嫌っていて、僕を王太子にさせたがっていた。同じ母上の息子なのにどうして母上がヴィリーを嫌うか不思議だったんだけど、その答えを親切ごかして教えてくれる大人がいて真相を知ってしまった。
ヴィリーがユリアに好意を抱いているのを僕も気が付いていた。優秀なヴィリーのほうが王に向いているのは確かだけど、僕が立太子される可能性が正式になくなると、ユリアと婚約するのはヴィリーになるだろう。でも僕はユリアだけは譲りたくなかったから、ユリアが僕の婚約者になってから、王太子の座をヴィリーに譲るよう画策することにした。その代わりにヴィリーにはそれで満足してほしかった。
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