星よ、僕らに祝福を

ハリィ

人間の軽戦士 #1

本作は、「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。

(C)GroupSNE

(C)KADOKAWA


少年は後ろを振り返りながら、名残惜しそうにつぶやく。


「やっぱり少しも調査した方が・・・」


「駄目よ、目的はもう達成しているんだから」


3回目のやり取り。

ため息をつきながら、鎖帷子チェインメイルをガチャガチャと鳴らして、ドワーフの神官戦士が振り返る。

神官戦士の顔は幼女のそれだった。身長も少年よりあたま一つ低い。

ピンク色の髪を邪魔にならないように頭の真上でお団子にしている。その高さがあってもだ。

左手に装着した円形の盾には星神ハルーラのシンボルが刻まれていた。


少年の装備は対照的に真新しい革鎧と、小型の盾。腰に差した小剣。

2人は戦い方が違うのがわかる。


(その目的の達成に、俺が何も貢献できていないから焦ってるんです!)

口に出さずに、少年は心の中で不満を言葉にする。


今回の目的・・・300年前に滅んだ魔動機文明時代のハルーラ神殿跡地の調査。地下へ続く隠し貯蔵庫の入り口を発見することだ。存在は、確認できている。


斥候や密偵の訓練を受けた少年にとっては、自分の冒険者としての実績を積み、信用を得られる絶好の機会だったのに。


「そうですね・・・それに・・・」


のんびりした口調で、神官戦士の隣にいる人造人間ルーンフォークが話しかけてくる。

紫色の髪は一つに束ねられ、三つ編みにされていた。耳や首には金属片。

アクセサリではなく、人間と区別するために作られた彼女の体の一部なのだ。

人間だと20代前後の女性に見えるが、顔は人形のように整っていて表情がない。


「魔動機文明時代の神殿という事でしたが、入り口に使われている扉の素材。当時のものと違うように思われました。もともとは魔法文明時代に作られた部屋の上に、神殿が建てられているようでした」


「そしてマナが感じ取られたということは、あの扉の向こう。防衛機能が生きている可能性があります」


「そ・・・そんなことまで、魔法でわかるんですか?」


少年は愕然とした。


神殿跡地で貯蔵庫の隠し扉を見つけたのは、彼女だった。

しかも到着してすぐ、だ。

彼女の扱う魔動機術の中に、一定エリア内の魔力を感知する魔法がある。


円盤状に形を変えたマギスフィア(おそらくエリアの座標を示すモニターになっていたのだろう)を見ながら、「こちらに反応がありますね」と。


魔法を間近で見たことのない少年が半信半疑でその場所を調べると、確かに貯蔵庫の扉があったのだ。


「材質の事は・・・知識です」


驚いている少年に、表情を変えずに人造人間ルーンフォークは答える。


「何でそんな大事な事、黙ってたのよ?」


神官戦士も目を大きくして驚いていた。確かに、そうだ。


「発見するのが、目的でしたから」


「…」神官戦士は口を開けたまま、言葉が出ない。


3人のやり取りを見ていたエルフの魔法使いが、クスクス笑っている。


「もし今後も、何か気付いたことがあれば、共有してくださいね」


切れ長の細い目は、彼が微笑むと線のようにますます細くなる。


「はい、わかりました」


「些細な事でもいいですからね?」


「はい、黙っていて申し訳ありません」神官戦士に謝る時も表情は変わらない。


「そ、そんな丁寧に謝らなくても良いわよ!」


少年は自分自身への不満は生まれても、人造人間ルーンフォークに対しての嫉妬が生まれない理由が少しわかった。


彼女の感情がわからないからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る