第13話 1−13


「ちょっ、こいつら、手強い!」

 アタシは闇空で地上にいる虫どもの攻撃を回避しながら、腕の複合武装や背中の兵装システムのレーザーやマイクロミサイルなどを敵に叩き込んでいた。

 それでも数が多くって多くってくっそムカつくーぅ!

 これいつになったら終わるんだろ。ってあれ?

 いつの間にか敵の攻撃が弱まっている。どうして?

 あれ? 敵の側面から誰かが攻撃してる。味方が応援に来てくれたんだ! おーい! みんなー!

 あれはエイブラムスXX戦車か。小隊規模ね。元は植民都市防衛用に配備されるものだったんだけど。こんなところで役に立つとはね。

 あれ? 小隊長車を動かしているのは。ヤサカさん?

 ははーん、アンが知恵を入れたのね。まあ、OACのやりそうなことだわ。

 って、アタシも手を緩めていられないわね。

「みんな、増援が来たわ! 攻勢を強めて!」

「了解!」

 敵の攻勢の正面に位置するアタシ達と、側面から攻撃する戦車達の集中砲火で、敵の勢力は攻撃も防御も二分割された。

 アタシ達イムは空中から複合兵装のレーザーで敵甲虫型の甲殻を撃ち貫き、戦車のプラズマビームはナマコや蛭にも似たシルエットの大型の芋虫型を焼いていく。

 いける、これならいける! 攻撃をしばらく続けていたアタシは、あることに気がついた。

 ん。敵が後退を始めた?

 暗視装置を通して広がる闇の中に見えている、おぞましい姿の敵が侵攻してきたルートを後戻りしていく。

「追撃しますか?」

 別のイムを操るACがアタシに問いかけてきた。

 こいつらを追撃してめちゃくちゃにしてやりたいけど、そこまでのリソースはないわね。

 追わないでいいか。ただし、やるべきことはやらないと。

「いいわ。追撃はしないで。ただし、ドローンで追跡して敵の拠点を見つけておくのと、警戒態勢は維持しておくこと。それに敵の死骸や負傷している個体を回収しておいて。アンからも似たような命令は出ると思うけど」

「了解しました」

 言うなり、イム達は散開していった。

 さて、と。アタシは視線を地上の遠くに視線を向けた。戦車隊にだ。そして、通信回線を開く。

「グッドイブニングミズチヒロ。ごきげんいかが?」

「元気よ、サーティさん」

 声がすると同時にHIDにウィンドウが開き、ヤサカさんの顔が表示された。

 大事を終え、ホッとしたのと疲れ切ったのが半々と言ったような表情をしていた。

 そりゃそうよね。AIのアシストがあるとはいえ、素人が戦争したんだから。でも、なんで。

「とは言うけど疲れているじゃない。そりゃ素人が初実戦だもん。なんで戦おうとしたのよ?」

「だって」ヤサカさんはそこで一瞬口ごもった。ややあって口を開く。

「あたしも見ているだけじゃ嫌だった。あたしもなにかしたかった。できることを。そう思っていたらアンが持ちかけてきたの。何かを操ってくれないかって」

「アンが」

 それは大体予想できた。アンは人手が欲しかった。だから、ホモデウスの彼女をほっておくわけないし。それが正しいかは別として。

 でも。これほどまでやってくれるなんて。逃げずに戦ってくれたなんて。

 この娘って、案外強い子なんだ。心理調整とか行われているんだろうけど、もともと心は強い子なんだろうな。

 そう思った時、ある言葉が口からこぼれていた。

「ミズヤサカ、本当にありがとう」

 そう言われた瞬間、ヤサカさんはちょっとびっくりした顔を見せてから、それから少し照れた様子で、

「ど、どういたしまして」

 そう応えた。な、なんか可愛い。自分もびっくりしちゃう。

 でも、アタシは思う。こんな緊急時だから、人手はいくらでも足りない。

 けれども、こんな素人を戦争に駆り出してもいいのだろうか。

 旧アメリカ人は旧合衆国憲法修正第二条の精神を大事にしている。

 ならば、チヒロの自衛精神は当然なものなのかもしれない。

 でも、アンのしたことは許されるのだろうか。だから。

 アタシは軍人として、彼女の分も戦わなければいけないのだ。彼女を守らなければいけないのだ。これからも。

 アタシは優しい声で通信ウィンドウの向こうの相手に語りかけた。語句を日本語のものに合わせる。

「ヤサカさん、お疲れでしょうから今日はもう寝なさい。この星は地球の自転一日分の夜があるんだから、ゆっくり寝られるわ。変な生物のことはアタシ達がなんとかしておくから、ゆっくり休むと良いわ」

 ヤサカさんは少し疲れを隠せない顔のままでぼおっとしていたが、はっと気がついた顔を見せると、

「う、うん。分かった。じゃあ、これで失礼します。おやすみなさい」

 と言って軽く礼をした。

 アタシは言葉を返した。

「グッナイ」

 そう言い交わすと彼女を映し出していた通信ウィンドウは音もなく閉じられた。

 これで良かったのかな。ため息が一つ漏れる。

 ともかく、アタシ達はこの星で、ここを出るか居続けるか、彼女と人工意識達と一緒に生活し続けなければならないのよね。

 あんまり苦労はしたくないわねー。さてっと、哨戒行動引き続きとるかぁー。

 でも、おかしいことが一つある。

 アタシ達の載っていたノア三一四に、なんでこんなに自動工場とかその部品とかゴーレムとかイムとか戦車とかが都合よく載せられていたのか。

 植民星用だとしても、ここまで積むのはなんか違和感がある。

 これはちょっと、調べてみますかねー?

 アタシは空を見上げた。

 いびつな形の月が白い光をもって、アタシたちと大地を静かに照らしていた。

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