第9話
花は浅草の街角に立っていた。
待ち合わせ場所として雷門の前はさすがに混んでそうなので、浅草の神谷バーなら二人とも場所がわかるとそこにしたのだが、平日とはいえ予想外の人の多さに立って待つような雰囲気ではなかった。
歩道は国内や海外からの観光客や地元民が溢れ、車道には人力車が走り、見上げればスカイツリーと生ビールを模した高層ビルや巨大な魂のオブジェが屋上に乗った黒いビルなど、時空の歪みを感じるような光景に花は身の置き場を探しながらうろうろしていた。程なく信号の向こうからさやかが手を振っているのが目に入った。
さやかは東武線で浅草駅に着き、少し駆け足ぎみに二階ホームから一階に向かうとチケット売り場周辺は人であふれていた。
スカイツリーが出来てから随分と立つが、できる前の閑散とした街は、一昔前の繁華街にもどりにぎやかだ。
駅を出て前方の赤信号の向こうの神谷バーを見ると花がうろうろしていた。
いつもの花らしく、白いニットにブラウンのパーカー、紺色のパンツ、足元は珍しくピンクのスニーカーだった。
信号が変わり花に駆け寄るさやか。
「おまたせ」弾んだ息でさやかがいうと、
「お疲れー。ここ待ち合わせには向かないね。人多すぎ」そういって花は笑った。
「浅草の花。浅草花やしきだね」さやかもそう言って笑顔を返す。
何それと言いながら二人でケラケラ笑い
「じゃ、行こうか」
と、新仲見世通りへ向かった。前を行くさやかに花は「あっちの仲見世から行かないの」と声をかけた。さやかはこっちからでも合流出来るからと言って花の手を握って進んで行った。
「浅草は小さい頃からよく来てたんだよね。だから少しは土地勘あるんだ。でも最近はかなりお店も変わったから前とは景色がちがうんだよね」
「私も何回か来たけど王道の提灯からのルートしか知らないもん」
新仲見世のを十分ほど歩き、屋根のない空間が見えてきた。「ほらここから右に行けば浅草寺でしょ」そういってさやかは振り返った。
境内に入り線香を頭に浴び、手水舎で手を洗う。口をゆすぐのははなんとなく躊躇い二人とも本堂に入っていった。
二人そろってお祈りしていると、さやかはそっと目を開け横の花を見た。なにか真剣な表情で祈るその横顔に見とれていた。パッと目を開けた花は「終わった?」そういってまた手をつないで本堂を後にした。
「なにお願いしてたの?」
「いろいろ、内緒。さやかは?」
「そりゃ花とこれからも仲良くって」そういって首をすくめおどけて見せた。
何それ、そう言って笑いながら本堂を出て右に向かい、二人は劇場を目指した。
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