終息ジェミニ
雨宮羽音
帰郷──または終点
心を透かしたような曇天の空の下。
リヤンは生まれ故郷へ帰ってきた。
そこは国の辺境に位置する、田舎にしてはやや規模の大きい港町だ。
漁業が盛んで、貿易の重要拠点ということもあり、町に住む人間達は貴族と平民、そして貧困層が入り混じる混沌とした場所だった。
あまり変わっていないな──。
町の中へ入り、リヤンが最初に抱いたのはそんな感想だった。
家を飛び出してから、すでに10年という歳月が流れていた。
だというのに、町並みはおろか、そこを闊歩する人々の装いすら代わり映えしていなかった。
見慣れたレンガと木造の家屋。
往来を行き来する礼装の貴人、飾り気のないトップスに膝丈のズボンを履いた平民たち。
いかにこの10年で、時代が移り変わらなかったのかが垣間見えた気がした。
しかし──私は変わってしまった。
ボロボロにくたびれて、土汚れに塗れた服。穴だらけの靴。
やつれた顔に、薄汚く脂ぎった髪。みすぼらしいみてくれ。
リヤンは何も持っていなかった。
地位も、財産も、職も──何一つ持っていない。
リヤンという名ですら、自分で名乗っているだけの仮の名前だった。
16歳で家を飛び出して、逃げるように他の町へ。しかしそこにあったのは、生きるだけでも難しい、厳しい世界だった。
奴隷のように扱われる職を転々とし、たいした稼ぎも得られない。
時には泥を啜って飢えをしのいだこともある。
そして盗みを覚え、狡猾さを磨き、命を奪ったこともあった。
自分が落ちていくのが分かった。
人としての矜恃を捨て、畜生になりさがり、生きるためだけの獣となっていく自分が──ある時、嫌になった。
だから死のうと思ったのだ。
首を吊って喉が潰れた。
炎に焼かれ肌が爛れた。
毒で手足に痺れが残った。
それでも死ねなかった。
偶然という名の奇跡が、リヤンをこの世から離そうとしなかった。
そうして──失意の果てにふらりと戻って来たのが、生まれ育った故郷だったのだ。
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