自業自得
ネルシア
第1話 ネコカフェ
「美野里さん、何があったか話してもらえますか?」
警察署のある1室。
震える女性に机の反対側に座る、刑事に促され話始める。
「あの日・・・。」
私(美野里)、聡、八重、淳の4人で駅のモールをぶらぶらする。
広がりながらくだらない話で盛り上がる。
正直このノリがきつい。
でも、これに乗れないと1人になっちゃう・・・。
道幅いっぱいに3人広がって(私は後ろ)歩いていると歩行者とぶつかってしまう。
「なにぶつかってんだよ!!」
淳がおお声で舌打ちして睨みつける。
ぶつけられた側がそそくさと逃げる。
他2人は笑っている。
頭おかしいんじゃないの・・・この人ら・・・。
私はそう思ってしまう。
ふと見慣れない一角が目に入る。
ガラスで覆われたスペースにカーペットが敷き詰められており、ネコが自由に寝たり歩いたり、おもちゃで遊んだりしている。
いわゆるネコカフェだ。
ガラス際で寝ているネコに対して注目されたいのか、八重がどんどんと窓ガラスをたたく。
そんなことしてもネコは反応しないのにと内心呆れる。
案の定たたいても反応しないので今度は聡がより強くたたく。
すると、スタッフだと1目でわかるシャツを着た店員さんが寄ってきて、
「窓をたたかないようにお願いします。」
と丁寧にお願いする。
見た目は普通なのに私はこの人に対してすごい恐怖を感じた。
「あ、うっせーよ。入れる?」
店員さんにため口・・・。
心が苦しくなる。
「はい、すぐにご利用いただけます。こちらへどうぞ。」
施設のカウンターに案内され、説明を受ける。
・抱っこはしない
・フラッシュライトは禁止
・人間の食べ物は与えない
・おやつとおもちゃは持ち込まない
・大声出したり走らない
・ネコと遊ぶときはおもちゃを体に当てない
等々、まぁ当たり前のことだ。
でも私以外の3人はまったく聞いてない。
「最後にこちらにサインを。」
言われるがまま3人は内容も読まずにサインする。
私の番になり、よく読む。
「ルールを守れなかった場合、そのままあなた達にお返しします。」
何故か手汗が出る。
「何してんだよのろま。」
慌ててサインをして中に入る。
ネコは好きだ。
大好き。
優しく触れ合ってるとギャーと猫の叫び声が聞こえてくる。
淳がむりやり抱っこしているのだ。
笑いながら。
しかもそれを聡と八重の2人が面白がってフラッシュつきで写真を撮っている。
スタッフさん何かしないの!?と思って見てみると、悪そうな笑みを浮かべてそれを観察するばかりだった。
その後もルールを守らず、走り回ったり大きな声を出したり、おもちゃで叩いたりと散々なことをして、ネコカフェを出る。
出る際に私だけ耳打ちされる。
「ルールをきちんと守っていただきありがとうございました。
あの3人には後日仕返しいたします。」
なんて答えていいかわからずぺこりとお辞儀をしてネコカフェを後にする。
ある程度離れてから振り返ると、ネコカフェがあった場所にはシャッターが下りていた。
自分のアパートに帰るとあの3人と一緒に動いたのとネコカフェのスタッフさんの恐怖からの緊張が解け、寝てしまった。
スマホに着信が鳴り、慌てて起きて時計を見ると午前2時くらいだった。
淳から着信が来ていた。
「もしもし?」
「助けてくれ!!家に来てくれ!!」
並々ならぬ声と周りからカメラのシャッターのような音に圧倒され、すぐに電話を切り、家に向かう。
淳のアパートの内部から光が眩く、一息つく間もなく放たれている。
ドアを開けて入るとおかしな光景が広がっていた。
淳が自分でカメラを持ってフラッシュを使って自撮りしているのだ。
だが、そのフラッシュが普通のスマホの比ではない。
「助けてくれ!!こいつらをどけてくれ!!まぶしいまぶしい!!!!」
と淳は叫んでいるが、いや、やってるの自分だし・・・と混乱してしまう。
「猫が俺を取り囲んで写真撮ってやがる!!!!!3時間はこれだぜ!?!?」
半狂乱だがまだ意識を保っていられるのがすごいと感心してしまった。
我に返り、どうにかスマホを取り上げようとするが、人間の力とは思えないほどにしっかりと握っている。
写真を撮り続けている親指も両手で止められない。
淳がぶんぶん開いている腕を何かを追い払うように振り回す。
そして、目が見えていないため、足を滑らせ、部屋のとがった部分に頭が刺さる。
「・・・淳?」
呼んでもんでも返事がない。
「ウソ・・・でしょ・・・?」
警察に電話しようとしたのも束の間、今度はカップルでもある八重と聡から電話がかかってくる。
「この悪ふざけはてめぇか!?!?」
いきなりの罵声。
「ドンドンドンドンうっせぇんだよ!!!!」
通話とは別に部屋をたたかれるようなドンドンという音が響き渡っている。
「八重もトチ狂ったのかは知らねぇが俺を持ち上げようとしやがる!!
やめろ!!八重!!!早く来い!!!!!」
怒声に行かなきゃという使命感が働き、向かった。
だが、やけに静かだ。
中に入ると、八重が聡を持ち上げていた。
細身の女性がジムで鍛えているガタイのいい男性を持ち上げているのだ。
「助けて・・・美野里・・・。全然手が離せないの・・・。聡も返事をしないの。」
そりゃそうだろうよ・・・。
だって聡口から血を吐いてるし・・・その・・・ウェストが半分くらいになってるし・・・。
死んでいるはずの聡の腕がいつの間にか握りしめていた人間用のおもちゃとも捉えられる携帯ゲーム機を思いっきり八重に振り下ろす。
脳天に突き刺さり、2人とも地面に倒れこむ。
ここまで話して私は吐き気を催し、もらったごみ袋にまき散らす。
「ありがとうございました。今日は帰ってもらって大丈夫です・・・。お大事に。」
ぺこりと頭を下げ、女性警察官に支えてもらいながら退室する。
「あれは完全に白ですね。」
後輩刑事が先輩にはっきりと物言う。
「・・・だな。証拠もなし、あの動揺も本物。凶器も証言と一致。」
「長引きそうですね。」
はぁと手で顔をぬぐう。
自業自得 ネルシア @rurine
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