#8

窓の向こうで数羽の鳩が飛んだ

黒板を見るふりをして その上の時計を視界に捉える

「あと十秒」 心の中でいつもの呪文を唱えると教科書を閉じた

教師の面倒くさそうな締めの言葉が耳から耳へとすり抜けていく

帰ったら新作のゲームをやり込む

楽しみが肥大していく ここには用はない


ここではない何処かに行きたい

自分ではない誰かになりたい

いつかでいいから何者かになりたい

あの人に愛して欲しい


カーテンを閉めたら椅子に腰掛ける

暗い室内にモニターの光だけが輝いている

夜の光源のようで何処か心が踊った

楽しみにしていたゲームが出来る喜びか 輝かしい光を目の前にした喜びか

今の僕には分からないが夢中でコントローラーを握る

自分の分身に見立てたアバターを操作してニンマリと微笑む


どれだけ自分を否定しても僕は僕でしか無い

いつまでも僕を生きていく

自分を更新することでしか幸せはやってこない

そんな説教を自分にして嫌気が差した

「手っ取り早く」 禁止ワードが心に浮かんだ午前一時

目を閉じたら夢の世界へと…

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