皆既月食と織田信長

洞貝 渉

『11月8日:442年ぶりとなる「皆既月食」と「惑星食」のダブル天体ショー。2つが同時に起こるのは、織田信長が天下統一を目指していた安土桃山時代の1580年以来。』


 SNSで流れてきた文章を見て、思わず笑ってしまう。

 皆既月食と織田信長って、なんてちぐはぐな組み合わせだろう。

「織田信長って、なんだっけ。鳴かぬなら……鳴かぬなら……」

 私はカラカラと氷を鳴らして、一口、琥珀色のアルコールを含んだ。口内から鼻に抜けていくような独特の香りを、満たされる思いで堪能する。

 それから皿にこんもりとのせた焼き鳥を一本手に取り、思い切りほうばって串を横に引き抜いた。


 うん、おいしい。

 うん、幸せ。


「鳴かぬなら、焼き鳥コース、まっしぐら!」

 串を皿の端っこに置き、二本目の焼き鳥を手にする。

 スーパーで半額になってた焼き鳥だけど、私にはそれで充分おいしいと感じられた。

 アルコール、肉、アルコール、肉。幸せな無限ループだ。明日は午前中の講義は無いし、バイトも休みだし、酔いつぶれるまでループし続けよう。

 

 何杯目かのロックを飲み干して、手酌する。

 濃いアルコールがグラスに注ぎこまれ、私はその琥珀色にうっとりとする。グへヘ、これぞ宅飲みの醍醐味だぜ。みんなでワイワイ飲むお酒もおいしいけれど、自分のペースで好きなように飲めるのもなかなかどうしてこれが楽しい。

「あれ? もう氷が無い……」

 グラスに氷を追加しようと思い冷凍庫に向かうも、すかすかな庫内にはアイスと冷食が申し訳程度に入っているだけだ。

 いつの間に使いっ切ったんだったか。酔っぱらった頭では記憶も定かではない。


 どうするか。

 いい感じに出来上がってはいるが、もう少し飲みたい気もする。

 しかし水道水で薄めるのはちょっと嫌だな。氷を買いに行くにしても、コンビニまでは少し歩くし、こんなべろべろ状態で店員さんと対面するのはなんだか面倒くさい。でも、生のままっていうのも、さすがにアルコールが強すぎるしなあ……。


 回らない頭でつらつらと考えていると、ふと、近場に自販機があることを思い出した。

 できれば氷が欲しいところだけど、ここは飲み方を少し変えて、炭酸水で割ってあげるのもいいかもしれない。

 あの自販機に炭酸があったかどうかは定かではないけれど、無ければシンプルにおいしいお水でもいいだろう。

 

 私は鼻歌交じりにいそいそと上着を羽織り、小銭入れを引っ掴んで外へ出た。

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