第60話 対ワイバーン
「……硬い」
勢いよく飛び出してレックスの援護を受けながらワイバーンの首を斬ろうとしたけど、鱗に阻まれてそれは叶わなかった。
ワイバーンは斬られたことに対して怒りを燃やし、私に噛みついてくる。
私は避けるために足に力を溜め、タイミングよくレックスが足場を作ってくれたから、それを使って飛び跳ねる。
噛みつきを避けられたワイバーンは、大きく息を吸い込む。これは確かブレスを吐く前兆行動だったはず。
予想通りワイバーンの口が開いたと思ったら、炎が吐き出された。
しかし私は慌てない。何故なら私には親友が居るから。
そしてワイバーンの炎は火球によって相殺された。
「ギャウ?」
ブレスをかき消されたワイバーンが不思議な表情をするが、私はその隙を見逃さない。
再びレックスの手助けを受け、急接近する。
「しっ!」
斬りかかる瞬間だけ、腕に魔力を集め集中的に強化して腕力を上げる。そうすると先程は鱗に阻まれた剣も、今度は鱗を裂き肉に到達する。
「ギャウウゥゥゥ!!!」
肉を斬られたワイバーンが雄たけびを上げる。そして傷つけられたワイバーンは、私に向かって敵意を向ける。だけど、それは悪手。
私しか見ていないワイバーンは、上から斬りかかってくるレックスに気づかずにレックスの攻撃をもろに受ける。
「硬っ!?」
レックスはワイバーンの鱗が思った以上に固かったことに対して驚いている。
ワイバーンを仕留めきれなかったレックスは、私の隣に跳んでくる。
「アンジュ、よくあれに傷を付けられたな」
「一瞬だけ腕力強化したから」
普通、強化魔法というのは身体全体を強化することをいうのだけど、その魔力を腕に集中させることで、より強化することが出来る。
ただし、デメリットもある。強化していない部分が脆くなるので、その部分に攻撃を喰らうと致命傷になる。それに剣を振るのはいいが、剣を振るために必要なのは腕だけではなく肩や身体全体が必要になるから、その箇所を剣を振っている最中に随時強化していかなければならない。
この強化方法はセンスが必要らしく、剣が苦手なリースは勿論、レックスにもできないことだ。その代わりレックスは、私よりも大量の魔力をふんだんに使い圧倒的な身体能力を手に入れられるのだけど。
「んじゃ俺の全開でも傷はつけられるか」
私の一瞬強化とレックスの全開強化だと、レックスの方が力は強い。
「レックスでも傷つけられると思うけど、綺麗に処理したいから私に任せてほしい」
剣技はレックスよりも私の方が上だ。だからあまり傷つけずに倒すなら、私の方が適任。
「……確かにそうだな」
ワイバーンを食料として見たレックスが納得する。レックスが戦った方が危険はないと思うけど、綺麗に倒すならリースを含め私が一番向いている。
「それじゃあ予定通り、レックスは私の援護をお願い。硬さは分かったから、一撃で仕留める。リースにもそう伝えて」
そう言って、もう一度ワイバーンに向かって斬りかかる。
「グルルル……」
ワイバーンは今まで私を餌と見ていた感じだけど、今は敵と認識しているようだ。
斬るなら首だよね。
首を落とされて死なない生物は居ない。だから狙うならそこだ。
だけど当然ながら、命を狙ってくる相手を簡単に近づかせようとする敵はいない。ワイバーンは迫る私に食らいついてくる。だけど、私はそれを無視して、ワイバーンを斬ることだけを考える。
「グギャアアアア!」
ワイバーンは私が防御行動をとらないことは気にせず、ただ目の前の
ワイバーンの頭はよくないって聞いていたけど、本当なんだ。
さっきレックスに不意打ちを食らったのに、もうその事が頭から離れている。だから下から迫る攻撃に気付かない。
「ギャウウウ!?」
口を大きく開けていたワイバーンは、突然の攻撃に口を強制的に閉ざされた。
ワイバーンは視線を下に向ける。そこに居るのはリースだ。
ワイバーンが私からリースへと視線を向けて突進する。リースの身体能力はそこまで高くないので、ワイバーンの突進を避けることは出来ないだろう。だけど私も、そしてリース本人も慌てない。
何故ならここには私達の大切な人が居るのだから。
「人の婚約者を食おうとは、いい度胸だな」
レックスが怒りながら、ワイバーンの前に空気圧を作る。魔力に敏感なものならばすぐに気付くものだが、逆上しているワイバーンは気付かない。
「グワァァアアア!」
だから透明の壁に激突する。
私は隙だらけになったワイバーンの首を目掛けて落ちる。
その際に私は斬ることに集中する。
私の持っている剣は業物ではなく、普通の子供用のショートソード。だから綺麗に斬るためには、ただ力任せに剣を振るっては駄目。しっかりと刃を引かなければならない。
剣の刃がワイバーンに触れた瞬間、剣を圧しながら引き、ワイバーンの首を斬る。
「ギュアアアアア!!!」
ワイバーンが痛み鳴く。私はなるべく苦しませないように、サッと斬る。
首を斬られたワイバーンは少しの間羽ばたいていたが、次第に力がなくなり落下を始めた。
「よっと」
ワイバーンの首と体をレックスが魔法で受け止めて、私達の初めてのワイバーン退治は終わった。思った以上にあっけなかった。
「んじゃ、飛空艇に戻るか」
私はレックスの横に着地する。リースもレックスの隣にいる。
「そうだね。……今気付いたけど、仮にワイバーンを落としたら、騒ぎになるよね」
「……そうだな。戦っている時は気にしてなかったけど、街道の上だったとは」
「空で戦う時はそういうことも気にしなきゃいけないってことかぁ」
下を気にしている二人をよそに、私は戦場から少し離れた飛空艇を見る。
「……あ」
遠目だからはっきり見えないけど、飛空艇の周りにいくつもの小さな点が飛び回っている。
「二人とも、お義父さん達が魔物に襲われてる」
「「え?」」
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