第15話
老夫婦に、せなかを向けて、洗い物をしている私。
老婦人の、慈しむような目が注がれているとは、ついぞ知らずにいた。
「斎藤さん、相談室で、少しお話よろしいですか」
老婦人が笑顔で、声かけて来た。
「では、これだけ洗ってしまったら、すぐお話しましょう。相談室でお待ち頂けますか」
「そうさせて頂きます」
熱いお茶を容れた。
「斎藤さん、人のふり見て我がふり直せ、の意味をご存じですか」
「人の様を見て、自分も参考にして、気をつける、ということでしょうか」
「そう、ふり、とはね、振りそでの振り、のことです」
「そうなんですか」
「その、振りが、整っていない。自分では気がついてない人がいます」
老婦人は続けた。
「その方に、注意する前に、しなければならないことは、何ですか」
「自分の着物の振りを、直すこと」
「そのとおり、あなたに言うことはもうありません。お世話になりました。今日限りで、駆け込み宿から夫と共に出ることにしました。出来れば、こんな私でも、覚えていて下さいね」
老婦人が、はにかみながら、満面の笑みを見せた。
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