ディストピア

@nikuyama1226

第1話

やけに目覚めがいい。何かが新しく始まる日の朝というのは緊張しながらも滔々とした気持ちで目が覚める。時計を見ると入学式まで残り一時間もあったため、リビングに出てゆっくりと朝食を取っていた。天気は晴れ、気温は18度。春の初めにふさわしい気持のいい天候である。朝食を終えて制服に袖を通すと、両親に急かされて入学式まで30分も余裕があるのに家を出てしまった。中学校に行くまでの道中で私は「この中学校はどんなやつがいるんだ。」や「この中学校は中学受験をしてまで入る価値のある学校なのか」といった思索を巡らせていた。そうこうしているうちに私は中学校の門の前に来ていた。門の周辺には私以外にも多くの両親が息子・娘とともに写真を撮ったり、ママ友同士で集まって話し合ったりしていた。そんな人達を横目に私は、両親に軽く別れの挨拶をして学校の中に入っていった。学校に入ると自分より幾分か年を食った女性が僕を迎え入れてくれ、教室まで案内してくれた。自分の入学を歓迎してくれる人がこの世に存在するという事実はたとえそれが形式的なものに過ぎなかったとしても嬉しいものであった。付き添いの女性は私より10cmほど身長が高く、髪の毛を後ろで結んだ愛想の良い方だった。

「緊張してる?」と彼女が言ってきたので

「少ししてますね」と私は答えた。

私の表情が堅かったからか、彼女は僕に笑顔を向けてきた。それは彼女が私にできる精一杯のコミュニケーションだったのだろうが私にはあまり効果がなく朝から持ち越している緊張感はほぐれなかった。ここが君の教室だと案内されたため私は自分の座席を探しておとなしく席に着いた。

 私が入学した中学校は小学校と高校が附属しているため、小学校から内部進学してきている人間が一定数おり、彼らは中学校で新しく入ってくる私のような人間を無視するかの如く独自のコミュニティを作っていた。私は特に周りの人間に話しかける気もなかったので黙想をして担任の教師が教室に入ってくるのを待っていた。すると、背後からこんな音が聞こえてきた

「うんこ!」

は?私はわけがわからなかった。いくら自分の知っている人間がいるからと言え、外部からの人間と初めて顔を合わせる場で人糞のことを声高らかに叫ぶ人間がこの世界にいるのかと疑問に思った。私の聞き間違えだろうと思った矢先、またしても誰かが「うんこ!」という言葉を叫んでいるのが聞こえた。それに加え、今回は複数人が爆笑する音も聞こえてきた。私は入る学校を間違えたのではないか、中学受験で使った親の金はもしかしてドブに捨てたほうが賢かったのではないかとまで思った。しかし、その一方で入学式早々に人糞のことを叫ぶ人間に対して好奇心がわいてきた。あまり、気は進まなかったがとりあえず「うんこ」と叫んでいる人間に私は話かけてみた。

 卑猥なことを叫んでいたやつの名前は田町という名前らしい。肌は褐色で目が少しだけ大きく、背丈は私より少し小さいくらいだった。私は彼と名前を教えあったり生まれ故郷の話をしたりした。ある程度話してみると、そこまで頭のネジが外れたやつではないということが少しずつではあるがわかってきた。私たちはスポーツの話で盛り上がった。田町は幼いころからテニスをしているらしく、部活はテニス部に入るということを話していた。人と話すというのはかなり楽しい。気づくと入学式が始まる直前くらいの時刻になり教室に教師が入ってきて私たちは講堂へと連れていかれた。行動に入ると沢山の生徒と教師が私たちを拍手で迎え入れてくれたが、式典というのは相変わらず退屈なもので苦痛だった。この先、二度と思い出さないであろう話を校長や教頭が長々と話しているのを聞くだけであり特に生産性のあるものではなかったので私は居眠りをしていた。とはいっても聖書の話だけは印象に残った。というのも、私はこれまで宗教にというのに触れたことがなかったため1タラントンがどうのこうのという話は新鮮だった。結局のところ、聖書が伝えたかったことを真に理解することはできなかったのだが。キリスト教系の学校であったため聖書の話が終わると入学式は終わり新入生の我々は教室にもう一度戻り、担任の教師の紹介があった。私の担任の教師の名前は石川というらしい、声が少しハスキーで自らのことを「女優」と称するなかなかユーモアのある教師であった。担任の自己紹介が終わると我々生徒が自己紹介をする順番となり教室にいた25名が淡々と自己紹介をした。私は初めての場所であったので、自己紹介の時に教室で野糞をしたい気持ちを抑えて無難に自己紹介をした。

 この後に変わったことは特に起こらなかった。どこの学校にでもあるような教科書の受け渡しや保護者同士、担任と保護者の挨拶などを卒なく済ませるとそそくさと帰宅した。

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