第32話 地獄の門
花畑に囲まれた道を、お蘭は走り続ける。道は平坦で、遠くまで見通すことができたが、お初らしき人の姿はどこにもない。その代わりに、垂直に切り立った崖の頂上が地上から浮かび上がるように視界へ入った。近づくにつれて、それは見上げるほど高く、また左右に遠くまで伸びていることが分かる。道の先には、黒い門がそびえ立っていた。柱も扉も漆黒で装飾の類はなく、その周囲だけ闇で覆われているかのようだ。門の前には幅の広い階段が、門とは対照的に光り輝いていた。
お蘭は門の前にたどり着いた。その門の大きさは、お蘭の想像を遥かに絶するものであった。階段は、白色で光沢を持った見たことのない石材で作られ、寸分の狂いもなく積み上げられている。空を仰げば、門の両端にある太い柱がまるで天を貫いているようだ。扉は階段に隠れ、その代わりに黒い霧が階段の向こう側を覆っている。
お蘭は、一歩ずつゆっくりと階段を登り始めた。背後から、激しい風が巻き上がり、お蘭の黒髪は宙を舞う。それは、お蘭のことを急かしているようにも思えた。まるで、早くしなければ間に合わないと訴えるように。
しかし、実際にお初と対面したとき、どうやって説得すればいいのか、お蘭には分からなかった。そんなに簡単に彼女が諦めてくれるとは思っていない。
結局、考えが何も浮かばないまま門の前に到着したお蘭は、目の前にある黒い扉にまず圧倒された。遠目には一枚岩のようであったが、実際はたくさんの鉄の板が寄木細工のように複雑に組み合わされ形成されていた。わずかな凹凸が、不思議な、でも、非常に美しい紋様を描き出している。その大きな扉の前では、お蘭は蟻のように小さな存在であった。
「また、一人やって来たな」
扉に目を奪われ、近くに誰かがいたことに全く気づかなかった。かすれた声のした方向に目を遣ると、そこには一人の小柄な老婆がいた。顔には深いしわが刻まれ、木の肌のように硬そうだ。そのしわと一体化したような窪みから、小さな黒い瞳が顔を覗かせている。白い布の真ん中に穴を開け、首を通しただけの衣装で全身を覆い、骨張った右手だけが布から飛び出して杖を握りしめていた。
老婆の横に、膝の間に顔を埋めて座っている女の子がいた。それはお初だった。
「お初ちゃん」
お蘭の声に反応して、お初が顔を上げた。その目はどこか虚ろだ。
「お蘭お姉ちゃん、どうしてここに来たの?」
先程まで、どう話を始めようかと悩んでいたお蘭であったが、お初の顔を目にした途端、言葉が口から自然に飛び出した。
「お初ちゃん、もう止めよう。果ての世界には何もないの。あのお爺さんもおっしゃっていたでしょ? お姉さんの代わりに私がずっとそばにいてあげるから、元の世界に戻ろう」
「違うの、お初のお姉ちゃんは助けを求めているの。すごく苦しんでいるのよ。お姉ちゃんを助けるためには、お初が果ての世界に行かなくちゃいけないの」
お初は立ち上がった。居ても立ってもいられない様子で、老婆に向かって大声で叫ぶ。
「お願い、この門を開けて! お初のお姉ちゃんを助けて!」
そう懇願した後、お初は涙を流しながらお蘭にも言葉を投げ掛けた。
「お蘭お姉ちゃんからもお願いして! お初を果ての世界に行かせて!」
お蘭は、果ての世界にたどり着いたとき、お初が消え去ってしまうということを彼女に伝えるべきか悩んだ。しかし、すぐにその必要はなくなった。
「果ての世界に入れば、お前の体は消滅する、と先ほど言ったはずじゃ。それでもいいというのか?」
老婆のほうへ、涙に濡れた目を移したお初は、しばらくしてから目を閉じ、静かにうなずいた。
「駄目よ、お初ちゃん! お姉さんは呼んでなんかいない。悪い人に騙されているのよ!」
お蘭の叫び声は、突然の激しい風にかき消された。目を開けていられなくなり、手で顔を覆いながら、吹き飛ばされないよう必死に耐えた。時は流れ、風が止み、あたりが静かになる。目を開いたお蘭は、目の前にいたお初と老婆が姿を消していることを知り、急いで周囲を見渡した。門の前に立ち尽くす老婆の姿が目に入り、お蘭は駆け出した。
「お初ちゃんはどこに?」
「彼女は門を通り、果ての世界へ向かった。もう、二度と帰ってくることはできない」
お蘭は唖然としてしまった。
「そんな、どうして通してしまったの?」
「お前が来ても、あの子は考えを変えなかった。ただ、姉を助けたい一心で懇願してきた。嘘偽りないきれいな心でな。拒む理由など何もない」
「果ての世界には何もないのよ。そんなのところに姉なんているはずがない」
「それは行ってみなければ分からないだろう。果ての世界から帰ってきたものは誰もいない。実際のところ、どうなっているのかは誰も知らないんだ。一度踏み込んだら最後、消え去る運命だからの」
お蘭は、漆黒の門に目を遣って
「私も通して下さい。必ず、連れ帰ります」
と力強い声で言い放った。
「戻るのは無理だと言ったろう。門をくぐれば進むしかないんだよ」
「果ての世界に行かなければ、お初ちゃんは消え去ることはない。絶対に、行かせない」
門を見上げたまま立ち尽くすお蘭に、老婆は妙な質問をした。
「お前は人を殺めたことはあるかね」
訝しげに老婆の顔を凝視して、お蘭は答える。
「いいえ、ありません」
「これから、人を殺めなければならなくなった時、お前さんはどうするかね?」
質問の意図が分からず、お蘭はどう答えればいいか悩んだ。その顔を、黒い瞳でじっと見据えながら、老婆はさらに言葉を重ねる。
「いずれ、お前は誰かの命を奪う立場になるだろう。それしか相手を救う方法がないとしたら、一体お前はどうするつもりかね?」
老婆は、お蘭の鼻先に持っていた杖の先端を突きつけた。鋭い視線に、お蘭は体を貫かれたような感覚を覚え、一歩後ろに下がった。
「その相手が、もし、お初だったら、お前はどうするんだい?」
「お初ちゃんを? 私が?」
か細い声で、お蘭が聞き返す。老婆は目を閉じ、頭を横に振った。
「お前には覚悟が足りぬ。ここを通すわけにはいかぬ」
お蘭は、その場に力なく膝を落とした。周囲が急に明るくなり、現世へ戻ってしまったことを悟った。
「お頭たちは、もとの死体に戻りましたが」
翌朝、猪三郎は雪花のいる宿に赴き、昨夜の出来事について説明した。雪花は
「そうですか」
と返すだけで、それ以上は何も話そうとしない。死体はすでに朝早く、兵士たちが埋葬していた。猪三郎は墓の前に立ち、手を合わせて拝み始める。その様子を背後から雪花が興味なさげに見ていた。
「伊吹たちは、早朝に出発したそうです。兵士たちも皆、彼らを追って旅立っています。我々も出発しましょう」
「銀虫様は、まだ宿の中ですね」
「ええ、あなたの指示を待っているのでしょう。彼を解放することはできないのですか?」
猪三郎の問いに対して、雪花はしばらく沈黙していたが、自分に真っ直ぐ険しい目を向ける彼に対して
「私も望んで束縛している訳ではないのですよ」
と答えた。
「死者を使役していたのもそうなのですか?」
「お役に立ちたかったのです。蝙蝠様の鬼の目も、鬼坊様や月光様の剣術も必要だと思った故」
確かに、蝙蝠の鬼の目によって追跡は容易にできた訳だし、戦力の低下を最小限に抑えられたのも雪花のおかげであろう。それでも、猪三郎は納得できなかった。それが死者に対する仕打ちとは思えなかったのである。幾度も人の死を目の当たりにし、自らも手を汚してきた猪三郎にとって、それは手厚く扱うべき対象だという信念があるのだろう。
「今まで言うのはためらってきましたが、死人の体を利用するあなたには、恐怖と嫌悪しか感じることができない。自分も同じ目に遭うかもしれないと思えば、尚更です」
猪三郎に厳しい言葉を投げ掛けられても、雪花は表情を変えない。微笑みを湛えたまま、彼女は口を開いた。
「大切な人を失ったとき、もう一度、蘇ることができるとしたら、あなたはどうされますか?」
猪三郎は視線を落とし、すぐには答えようとしなかった。雪花はそんな彼の顔から目を逸らすことなく返答を待ち続ける。
「俺には昔、女房がいたが、病気で失った。今でも、現世に戻ってきてくれたらと思うことがあるよ」
一呼吸置いて、猪三郎は視線を雪花の顔に向けた。
「でもな、あなたに操られる女房の姿など見たくないな」
「今はまだ、死人を操ることしかできません。でも、いつかは大切な人を冥界から連れ戻せるだけの力が欲しい。そして・・・」
途中で雪花は言葉を切った。猪三郎は怪訝な顔で
「生き返らせたい人がいるのですか?」
と問いかけた。雪花の目が泳ぎ、ほんの短い間だけ、彼女の体が亡霊のように透き通る。驚いた猪三郎の目が何度も瞬いた。
「私は・・・」
雪花の目の焦点が猪三郎の顔に定まり、その目から涙がこぼれる。猪三郎は、予期せぬ反応に戸惑ってしまった。
「あの、すまない、言い過ぎた」
後頭部を掻きながら、猪三郎は気まずそうな顔で一言謝った。雪花はうつむいてから首を横に振る。
「私は、何のために生きてきたのでしょうか?」
雪花が何やらよくない考えに至っているような気がした猪三郎は、先程とは打って変わり、慰めることに懸命だ。
「それだけの力があれば、いつか成功するさ。今は辛いことを忘れて、仕事に専念しよう。蝙蝠殿はもういないんだ。急がなければ、行方が分からなくなってしまう」
そう言って、猪三郎は雪花の肩に手をおいた。恐るべき術の持ち主も、触れてみれば華奢で簡単に壊れてしまいそうな女性の体である。猪三郎は、雪花の意外な脆さを知って、複雑な気持ちになった。
銀虫が、いつの間にか背後に立っていた。相変わらず、どこを見ているのか分からない目をして、何の感情も見いだせない。しばらくして、三人は宿を後にした。
蒼龍とお蘭は、木漏れ日の差し込む森の中を黙々と歩いていた。浮かない顔をしたお蘭に蒼龍は声を掛けづらいようだ。
そんな状況を一変したのが、二人の前に突然飛び出した一匹の鹿だ。呆気にとられる蒼龍たちに気づいて、慌てて森の中に立ち去っていった。
「あまりに静かだったから、俺たちのことが分からなかったのかな?」
蒼龍が笑いながら、お蘭の顔を見ると、彼女も晴れやかな笑顔でうなずいた。
「そう言えば、あのときも俺たちの前に鹿が現れて、こんな風に二人で笑ったんだな」
お蘭は、蒼龍の言う「あのとき」のことがすぐに分かった。
「あなたが、初めて戦から帰ってきたときね。気晴らしに散歩してたら、鹿の親子を見つけたんだっけ。二人でずっと笑ってたのよね。何がそんなにおかしかったんだろう?」
「お前にはすごく助けてもらったな。俺一人では立ち直ることができなかった」
「私は・・・ ただ、いつもと同じように、あなたを受け入れることしかできなかったのよ。生き抜くためには、仕方のないことだもの。覚悟はできていたわ」
「覚悟か・・・ 俺にも覚悟はできてたはずなんだがな」
「あなたの背負った苦しみは、私なんかの比じゃない。それがやっと、分かった気がする」
地面に目を向けたまま、お蘭は少し悲しげな顔をした。蒼龍は、これが好機と元気のない理由を尋ねてみることにした。
「夢の中で、何かあったのかい?」
さっと自分の顔を目にするお蘭を、蒼龍は優しい笑顔で迎える。しばらくして、彼女は口を開いた。
「もし、生命を奪うことでしか、その人を救えないとしたら、どうすればいいと思う?」
予期していない質問を投げつけられ、蒼龍はすぐに答えることができなかった。顔を見合わせたまま長い沈黙が続き、お蘭のほうが再び話し始める。
「どうして、死ぬことで救われるのかは分からないけど、夢の中でそう尋ねられたの。でも、何も返せなかったわ」
曲がりくねった道は山に巻き付くように続いている。その進む先に目を遣って、お蘭はため息をついた。
「生きることは苦行でもあるとは思わないか?」
蒼龍に問いかけられ、お蘭は彼の顔に視線を戻した。蒼龍は、真っ直ぐ前に目を向けている。
「確かに辛いこともあるけど、そればかりじゃないわ。楽しいことだって、たくさん経験できる」
「その経験が、更なる苦しみをもたらす事もある。幸福、矜持、才能、富や権力、持てば失うことを恐れ、失えば渇望するようになる」
蒼龍がお蘭に、穏やかな笑顔を向けた。
「お前は、俺には想像できないような苦しみを背負っている。しかし、これまで耐えてこられたのは、いつか治すことができるという希望があるからじゃないのかな?」
ちょっと驚いた表情のお蘭は
「何度も心が折れているのよ。希望なんて持ってないわ」
と反論する。
「それなら、一縷の望みと言えばいいだろうか。もし、それさえも捨ててしまったら、耐えられないと思うけどな」
お蘭は視線をそらし、軽くうなずいた。
「もし、誰かに治す方法がないと断言されたら、それがはっきりと分かってしまったら、何を拠り所に生きていく?」
「私は・・・ あなたがいれば耐えられるわ」
「じゃあ、俺が死んでしまったら?」
お蘭が息を呑む。蒼龍の顔は相変わらず笑ってはいたが、少し青ざめているようにも見えた。
「初めて人を斬ったときの苦しみは、お前のおかげで乗り越えることができた。俺たちが幸せに暮らせることを願い、戦を重ね、武功を立てて富を得ることに専念した。苦しみはやがて消えて、代わりに得たものがあったんだ」
「得たもの、ですか?」
「強い者と闘うときの昂揚感、そして倒したときの達成感、尼子の百鬼夜行なんて恐れられることへのうぬぼれと、誰にも負けないという自負心。それに気づいた瞬間、自分が闇に取り込まれるような思いがして怖くなった。新しく生まれたのか、元から持っていたのか、それは分からないけど、そんな事はどうでもいい。俺には今でも裏の顔があるんだ。それが消えることは永遠にない、死ぬまで」
蒼龍の顔から笑みは消えていた。その目はあまりにも悲しげで、お蘭は視線をそらすことができない。
「これが今の俺の苦しみさ。慌てて戦から逃げて隠そうとしても、ふとしたことで裏の顔は現れる。耐えていられるのは、お前がいるからだよ。もし、この世からお前が消えてしまったら、俺は死を求めて再び戦に戻るだろうな」
初めて聞いた話だった。夫は剣の腕のみならず、心も強く、簡単に挫ける人間ではないと信じていた。そんな彼が、これほど苦悩していることをお蘭は知らなかったのだ。
お蘭は、無意識に蒼龍の肩へ手を回し、抱きついていた。ちょっと驚いた蒼龍ではあったが、笑顔に戻り、お蘭の頭を優しく撫でる。
「ありがとう」
蒼龍はつぶやいた。
少し開けた空き地に着いた二人は、特に示し合わせたわけでもなく平らな岩の上に腰掛ける。蒼龍は再び口を開いた。
「人は、生きている限り苦しみから解放されることはない。だから、何かに頼ってそれを乗り越えていると思うんだ。でも、その拠り所がなくなったら、どうすればいい?」
お蘭には、何も返せなかった。蒼龍は大きくうなずいて
「俺にもそれは分からないよ。ただ、全ての支えが失われてしまったら、命を断つことが苦しみから解放される唯一の解決策になるのかも知れない」
と言うが、お蘭には納得できないらしく、頭を横に振った。
「でも、そんなに簡単に判断していいのかしら?」
「駄目だろうね。あくまでも最後の手段だから、相手の苦しみに真剣に向き合い、理解しなければならない」
そう答えた後、真面目な顔で聞き入るお蘭を見て、蒼龍は微笑みながら
「まあ、俺はそう思うけどね」
と付け足した。
「苦しみを理解する、か・・・ 難しい話だわ」
「しかし、不思議だな。自ら命を断てばいい話だと思うが、なぜ他人に委ねるのか」
「自分一人では決心できないから・・・ というのはおかしいわね」
「そうだな、何かこの世に未練があるのか」
「それが心の支えにならない?」
蒼龍は低い声で唸った。
「これは難解だな。自害できない理由か」
二人は、いろいろと考えを巡らせたが、結論が出ないまま時間だけが過ぎてゆく。大きなトンボが、近くにあった切り株の上に止まっても、それに気づく様子はない。
トンボが、何かの気配を察知したのか、どこかに飛び去ってしまった。その空気の変化に蒼龍が気づいたときには、三つの影が間近に迫っていた。
「また、お前たちか」
その男の声は、猪三郎のものだった。蒼龍は、彼の顔をちらりと横目で見ただけで、すっと立ち上がり
「そろそろ行くか」
とお蘭に声を掛けた。
「お待ちになって」
軽やかな鈴の音とともに、雪花が二人を呼び止めた。
「少しの間だけでも御一緒しませんか?」
その言葉に、蒼龍やお蘭だけでなく、猪三郎も呆気にとられて雪花の顔に目を遣った。
「何のために敵対者と行動を共にせねばならないんですか?」
猪三郎に詰問された雪花は、意外だという表情で答える。
「あら、今はお互い休戦状態よ」
「お頭はこの男に殺された。遺恨の残る相手と、どうして連れ立って歩けると思うのか!」
猪三郎が怒るのも当然である。蒼龍はため息をついて
「悪いが、俺はあんた達と馴れ合うつもりはない」
と雪花に返答した。雪花は残念そうな顔をする。
「そうですか。私たちと一緒にいれば、伊吹様たちを襲撃しないか監視することもできるのですが」
猪三郎の眉が少し上がった。雪花の意図に勘づいたらしい。
「伊吹が連れ去られるところを、お前たちが指を咥えて眺めていることしかできないというのも面白いな」
そう言って大声で笑う猪三郎の顔を、蒼龍は表情を変えずに見上げていた。
「仇討ちしたいなら受けて立つぞ、腰抜け。それなら約定違反にはなるまい」
笑みを浮かべる蒼龍に、猪三郎は顔を真っ赤にする。一触即発の事態の中、雪花の鋭い声が響いた。
「怒りをお鎮め下さい、猪三郎様。蒼龍様も、どうかおふざけにならないで頂きたい。猪三郎様と剣を交えるのなら、私たちを邪魔するのと同じこと。約定違反ですわ」
「この男が先に手を出したのなら、俺も斬られる訳にはいかぬのだがな」
「そんなことは、この私が決してさせませぬ。どうか、お二人とも矛をお収め下され」
蒼龍の着物の袖を引っ張る者がいた。振り向くと、しかめ面をしたお蘭が首を横に振っている。彼女は雪花に向かって話しかけた。
「雪花様、ありがとうございます。ぜひ、ご同行願いたいですわ」
雪花は手をポンと合わせて
「お蘭さん、そうおっしゃって下さって嬉しいわ。それでは、これで決まりね」
と、お蘭とともに歩き出した。蒼龍も猪三郎も、声をかける暇なく二人の背中を目で追うだけだった。
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