第11話 冒険者本登録Eランク

 ギルドに戻った俺たちは間違わずフランカさんのいるカウンターゴブリンの右耳を4つおそるおそる巴が置いた。俗に言う買い取りだ。多分。


「ハンカチとかないのかしら」


 血液で汚れてしまった手をしかめっ面で巴は見ていた。


「落ちない……落ちない……うぇっ」


 拭くな拭くな俺の服で拭くな。まあ確かにその着物高そうだけど。

 袖にちょっとついたゴブリンの血のシミを見て巴は泣きそうになっていた。

 これで賞球……もとい昇級条件を満たしてEランク冒険者だ。

 おめでとうございますと賞賛の言葉をフランカから聞くがフランカは気もそぞろだ。


「ありがとうフランカさん」


 巴がお礼をいいながら報酬を受け取る。

 ゴブリンを初めて倒した報酬は銀貨4枚だった。

 フランカさんが何かを抑えるような口調で事務手続きを行う。


「これが冒険者証です。身分証にもなるので無くさないように」


 注意事項を一通り言い終わったあとぼそっと呟く。


「イリアちゃん……そんなのだから出会いあってもないと思うの」


 イリアは受付のカウンターに背を預け天井を眺めながら寝ていた。

 腹をものぐさな片手でぼりぼりと掻いている。

 なんで首にならないんだ。この受付嬢。

 銀貨4枚と冒険者証を興味深く見ていた俺たちに後ろから声がかかった。


「なあ用が終わったらさっさとどいてくれないかな? おっさん」


「あ。すみません」


 わきにどくと見るからにRPGだと主役と言わんばかりの年代層のパーティがどかっと討伐部位の入っているであろう袋をカウンターにのせた。

 堂に入った冒険者コスだ。……違った勇者コスだ。

 馴染んでなさそうなセンスの悪い独特の配色の片手剣と盾を持つとこんな痛々しい格好になるのか。

 その代わりよく鍛えられた肉体は10代の強みを見せつけている。

 そんな男に女が2人。みたところ魔法使いとシーフと見た。

 魔法使いは男にもたれるように腕に絡んでいる。

 シーフは露出が多く目のやりばに困る感じだ。速度重視だと必然的にそうなるのだろうか。

 今にもこぼれそうな双丘に目が釘付けになりそうになり、視線をそらすと頭にある猫耳、猫なのか?

 視線に気づいた首輪をつけた彼女は、ガクガクと震え。

 隣に居たにたりと嫌らしい笑みを浮かべた魔法使いは豊満な胸を男に押し当てた。


「視線がいやらしい。アレクぅ~あのおじさんスイの体ばかり見ているスイ怖いよね~~」


 ビクンっとスイと呼ばれた少女が「はい、怖いです~~」とまるで棒読みで付き従って言った。

 カウンターにアレクの拳が叩きつけられ、フランカさんがびくりと身を震わせる。

 アレクと呼ばれた少年は眉間にしわを寄せ叫んだ。


「何俺のパーティーに色目使ってんだ??ああ??」


「すみません。そちらの方が珍しかったもので、つい」


 スイと呼ばれた子をチラ見すると首輪を隠すような仕草をして今にも消えそうになる。


「そうね。釘付けだったものね、ここに」


 魔法使いがスイと呼ばれた猫耳少女を後ろから抱きつき、胸を揉みしだく。

 にゃあとかやめてくださいにゃとか言っているけどおかまいなしだ。


 それに伴ってアレクの機嫌が悪くなっていく。


「なに俺の女の胸見続けてんだあっ?? ああん?? やんのかおっさん??」


「アレクさん落ち着いてください」


 フランカさんがアレクを掴もうとしたが空を切る。


 カウンターから離れてこっちに詰め寄る。


「気にくわねえ。俺がこいつと同じEランクってのもそうだが、女連れなんてな。冒険者は年とったおっさんがしてどうこうなるもんじゃねえぞ」


「ちょっと謝っているからもういいじゃない」


 巴が興味なさそうに言い放つ。本当に興味ないって顔に書いてある。


「なあ、あんた。そんなおっさんとじゃなく俺たちとパーティ組もうぜ。なんたって俺のスキルは経験値100倍だからな。すぐにDランクだぜ」


 なんでスキル公言してんだ馬鹿の子かな。


「おあいにく様、私冒険者なんてどうでもいいのよね。それに私のパーティを馬鹿にするのはいいけど、もう絡んでこないでくれない? 暑いのよ、熱さ耐性あるけど」


 なんでスキル公言してんだうちの子も馬鹿の子かな。


「ふんっ、しけたおっさんにはお似合いの女か。格好もおかし……」


 言葉を遮るようにして巴がアレクに殴りかかる。炎ものっています。

 アレクにしなを使っていた魔法使いが片手をあげ、炎の盾でそれをはじく。


「ちょっとこんなところでスキル使うなんて頭おかしいの?」


「まあ言うなガーネット、殺されてもいいんだろうよ。腕の一本くらい覚悟しとけよ」


 まだなお噛みつこうかと切れている巴をなだめる。

 フランカさんが大慌てでイリアを起こそうとしてるが、イリアは起きない。

 アレクは剣を上段に構え……巴をかばおうと射線に躍り出たが見えたのはそこまでだった。

 俺の肩口ばっさりの軌道をグレイソンが片手でへらへらしながら止めていた。


「よう、遊都。恩に着ろよ」


 静まりかえるギルド内でグレイソンが酒を飲む音だけが響く。


「冒険者同士の争いってのは国家の損失ってなあ。アレクとか言ったか冒険者剥奪されたい訳はあるめえ」

「おっさんどっから現れた??」


 アレクが表情を強ばらせて尋ねる。


「それを答えるには年とりすぎてるなあ、くはは。まあ平和な世の中だくすぶってるのは分かるが、剣の先を間違えたらいけねえよ」


 それと……。


 ばちんと音を立てて巴がはたかれる。


「攻撃スキルの使用はもっと御法度だ。……公にはどんな事情があろうともな。これで、手打ちだ。文句あるなら……かかってこい」


 瞬間。魔力の圧のようなもので全員屈せられた。

 グレイソンの高笑いと巴の泣き声が響く中、いつの間にかアレクたちは姿を消していた。

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