第2話 宝石

高級アクセサリーブランドが開催したガライベントに招待された数多のゲストの中で、最もメディアが注目したのは月崎ディアナにあてがわれた宝飾品の総額だった。

プラチナの台座に嵌められたマーキスカットのダイヤモンドを花刺し模様の如く繋ぎ合わせた約3億円のビブネックレスに、小粒のダイヤモンドが直列に並んだ約5000万円のテニスブレスレット。中で33カラットのエメラルドカット・ダイヤモンドが嵌め込まれた5億円の指輪は、ディアナの薬指の上で目が眩む程の輝きを見せ、取材陣の視線を恣にした。

一方でディアナは物足りなさを感じていた。ディアナが長年夢見てきた宝石というのは小さな頃にアニメで見た握り拳大のラウンドブリリアント・ダイヤモンドのようなものである。それが大人になり宝石というものに触れてみると『大粒』と呼ばれるものでも10円玉程の大きさしか無いのだ。


「ちっぽけねぇ…」


手の上で輝く33カラットのダイヤモンドを見下ろしながらディアナが呟いた言葉は、隣に立っていた女優をギョッとさせた。




3日後の夜、仕事を終えて帰宅したディアナはその美貌に喜色をたたえていた。

ディアナの手には握り拳大のラウンドブリリアント・ダイヤモンド。これは人工水晶で作られたダイヤモンド型のペーパーウェイトであり、仕事帰りに立ち寄った雑貨屋で偶然見つけたものだ。


「あ〜っ、可愛い…」


ディアナは木製のローテーブルの上にペーパーウェイトを置き矯めつ眇めつしていたが、ふと思い立ってオープンラックの上に乗せていたアーチ型の小さな宝箱を手に取り、中身をペーパーウェイトの周りにぶちまけた。ペーパーウェイトより二回りほど小さく、赤や青、黄色、桃など様々な色をしたそれらは、ゲームセンターの景品に使われるダイヤモンド型のアクリルアイスてあった。


「こうよ〜。宝石っていうのはこうでなくっちゃ〜」


テーブルの上で頬杖をつき、ディアナは眼前に転がされた紛い物のダイヤモンド達の美しさに酔い痴れた。これらの紛い物は本物に比べれば微々たる輝きであったが、ディアナの心は間違いなく満たされたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る