第20話 二人の一日の終わり
ヒーロは、ダーク=ヒーロとレイの待ち合わせ場所になっている街の外れの広場に夕方になると向かった。
「今日は楽しいクエストでした」
ヒーロはお世辞でなく素直な気持ちでそう答えた。
なにしろ美女と一日買い物デートしたようなものだ。
最後はレイの冒険者相手の活躍も見れた。
本来なら自分が活躍しなければいけない場面ではあったが、昼間はモブ並みの実力しかないから、無理は出来ないところだ。
とにかく一日楽しく過ごせたし、レイも笑顔が多かったから楽しかったと思いたい。
「私も楽しかったです。……ヒーロさん、あなたは勇気がある人なので、無理はしないでくださいね」
レイはヒーロが冒険者との間に入ってくれた事などを暗に感謝しつつ、実力がそれに伴っていないから危険もあるかもしれないと心配してくれたようだ。
「ええ。俺もそれはよくわかっているので、なるべく無理はしないですよ。はははっ。それじゃあ」
ヒーロは、そこで魔法収納に納めてある荷物の数々を広場の片隅に出すと、クエスト受注書の完了部分にレイのサインを貰ってその場を去る。
レイから見て、ヒーロが建物の陰に入って見えなくなった。
それから一時間も経たないうちに、周囲は日が落ちて暗くなり、レイも意外に楽しかった一日の終わりが来た事を実感した時である。
銀仮面に上から下まで黒一色姿のダークが『瞬間移動』で目の前に現れた。
「待たせたかな?」
ダーク=ヒーロは、レイの姿を見ると最初にそう声を掛けた。
ヒーロは冒険者ギルドに走っていくと、クエスト完了手続きをして、人目のないところに移動、暗くなるのを待ってマスクを装着、『瞬間移動』でヒーロの最速でレイの元を訪れたわけだが、それでも待たせたという思いがあった。
「いえ、ダークさ……、ダーク。私も到着してそんなに時間は経っていないと思うので大丈夫です。今日は一日、楽しい買い物が出来たので──」
レイがダークの姿を確認して少しホッとした表情を浮かべるとそう答えた。
だが、その言葉をダーク=ヒーロは手をかざして遮る。
そこに、五人の顔を布で覆った男が現れたからだ。
レイは少し遅れてその人影の方に気づいて向き直った。
「あなた達は? ……その歩き方、昼間の冒険者が混ざってますね? 顔を隠していてもわかりますよ」
レイは昼間にぎゃふんと言わせた冒険者だとその観察眼ですぐに見抜き、当てて見せた。
「くそっ! バレたなら仕方がねぇ……。この街から出て行く前に、お前と連れのGランク冒険者には痛い目に遭ってもらおうと思ってな」
そう答えると顔を覆った布を外してその顔を表した。
鼻には血に染まった布が当てられている。
レイの指摘通り、昼間の冒険者だった。
「ダーク、すみません。この者達は私が片──」
レイが、魔法収納から剣を取り出して、そう言うと一歩前に出ようとした。
しかし、また、言葉の途中でダーク=ヒーロが遮ると代わりに前に出る。
「俺にも出番が回ってきた……。いや、こちらのセリフだ。──俺が対処しよう」
ダーク=ヒーロは先程より二人増えた男達と対峙した。
「なんだ、こいつは? 怪しい格好をしているが、こいつも殺っていいのか?」
顔を布で覆った男の一人が、ダーク=ヒーロの格好を値踏みすると昼間の冒険者に確認する。
「知らない奴だが、そこに大量にある荷物と一緒に報酬もちゃんと支払いますよ、旦那。──女! この方々は裏社会で有名な腕利きの人物だ。そこの銀マスクと一緒にあの世で後悔しな!」
冒険者の男はそう言うと、男達に任せたとばかりに後ろに下がる。
「……そういう事だそうだ。こちらに恨みはないが仕事なのでな……。死んでもらおう……!」
顔を布で覆った男達は懐から短剣を抜くと音もなくダーク=ヒーロに距離を詰める。
次の瞬間だった。
ダーク=ヒーロの腕が消えたように見える程早い動きを見せたと思ったら、男達はその場に崩れ落ちた。
「この人、結構強い人だった……。このチートモードの初手の動きに反応出来たの王都の裏通りで初遭遇した時の村長くらいだから……。 まあ、反応だけで躱せはしなかったけど……」
ダーク=ヒーロはレイの父親でもあるヤアンの村の村長を基準にして軽く驚き、評価した。
「そ、そんな馬鹿な……。この方々はこの街どころか、ここ辺境一帯のその筋では有名な一流の殺し屋なんだぞ……!? ひぃ!」
冒険者の男はダーク=ヒーロが只者ではない事を知って、逃げ出そうとした。
だが、黙って逃がす道理はない。
「二度は無いと言いましたよね?」
そこにレイが剣を抜いて冒険者の前に立ち塞がった。
そして、その剣先が冒険者の首を狙って突き出される。
だが、その剣先はダーク=ヒーロが指で摘まむようにして寸前で止められていた。
「レイが手を汚す必要はないよ」
ダーク=ヒーロはそう言うと凍り付いて固まっている冒険者の首元を掴み、次の瞬間には『瞬間移動』でその場から消えた。
そして、五秒と経たないうちに戻ってくる。
「ダーク、あいつをどこへ連れていったのですか?」
レイはいなくなった冒険者について聞いた。
「最初の約束通り、他所の遠いところへ……。そして、生きていくにはとても困難な場所へ……、かな」
ダークは辺境の空の向こうを指差す。
それは呪いの魔王と勇者一行の最終決戦の地であった暗黒大陸がある方向であった。
「遠いところ……。──それなら安心しました。あの冒険者に目を付けられた彼もこれで安全ですね」
レイはダーク=ヒーロに嬉しそうに笑いかける。
ダーク=ヒーロは一瞬今の自分に対して言っていると錯覚したが、それは自分の中の昼間のヒーロの事だろうと理解し、納得した。
「こいつらはこの街の警備隊の元に届けておこう。きっと、有名な殺し屋なら、即刻縛り首だろう」
ダーク=ヒーロは殺し屋四人を両手で二人ずつ担ぐと『瞬間移動』で領都警備隊の本部に飛ぶ。
昼間の掃除クエストで警備隊本部には訪れた事があり、地下の牢屋から隊長室まで行き来が自由であったから、殺し屋達を空いている牢屋に放り込む。
そして、看板に「この辺境一帯で有名な殺し屋一行を捕らえたので、牢屋に入れておきます。確認、よろしく──D──」と書いて、レイの元に戻ってきた。
「ダーク、お手数をお掛けしました。また、助けられましたね。ありがとうございます」
レイは嬉しそうな笑顔を見せると、感謝をダーク=ヒーロに告げる。
「これは俺の身の安全の問題……、いや、俺の勝手だから、気にしなくていい」
ダーク=ヒーロは美女の笑顔が見られて嬉しい事、そして感謝された事で照れているのを悟られない為、後ろを向く。
もちろん、マスク姿だから悟られようがなかったのだが、その照れているとしか思えない行動に、レイにはそれが可愛く映るのであった。
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