第12話 公爵令嬢、女子を助ける

 アランが公爵家に運ばれた後、私は昼食を食べ、午後の授業を受けた。


 ちなみに、昼食では、ローラン様とマクシム様に『今日は食べ方が綺麗ですね』とか、『いつもより食べる量が少ない、大丈夫か?』とか言われた。私としては少し姿勢を崩して食べてたつもりだし、量もいつもより大目にしたつもりだったけど。解せぬ。


 午後の授業は応用魔法学の座学で、階段教室で行われた。お年を召した、白髪のメグレ教授が弁を振るっている。


 応用魔法学と言うのは、要するに身体から魔力を放出する際に、どのようにコントロールして出現させるかという事で、魔力を火属性とか水属性とか、属性と呼ばれる形に変化させる点に注目する学問だ。


 対して基礎魔法学と言うのは、体内で魔法を練って動かして放出するまでの学問で、私はこっちの方が好きだ。魔法を練っていると、真摯に訓練しているという気になるのだ。


 どちらが上位という事は無いんだけど、応用魔法学を専門とされる先生は基礎魔法学を少し下に見ている気がする。まぁ、魔法を出現させるという事では派手だから。魔法が好きという人は、概して応用の方が好きな人が多い。基礎が好きな私としては何だか残念。



「さて、今日は講義が長引いて質疑の時間が取れなんじゃった。質問がある人は、後ほどわしの部屋に来るようにの。それから、係の人はわしの部屋まで講義資料を持って来て欲しいんじゃが。よろしくのう。」


 そう言って授業を閉めた。


 教授が退出し、パラパラと学生達が教室を出て行く中、二人の女生徒が教卓に置いてある資料や本を前に、やや困り顔で話しをしているのが聞こえた。


「あぁ。資料と本が結構あるね・・・朝の占いでは今日は良い日のハズだったんだけどなぁ。今日はハズレの日だ、残念。」


「まぁまぁ。私も手伝うから。メグレ教授は、来る時はお付きの人に持ってこさせるから良いけど、帰りは学生にまかせちゃうからね、仕方ないよ、おじいちゃん先生だし。」


 なんだ。資料を持ち運ぶのが大変なのか。重そうだしね。沢山あるから、少し手伝ってあげるか。


「君たち、大変そうだね。俺も手伝おう。」


 後ろから声をかけると、二人の女子が驚いて振り向き、顔を見てさらに驚いた。


「ア、アラン殿下・・・どうして。」


 二人は振り向いて驚いた顔をして言った。


「いや、後ろから君達が大変そうな様子が見えたからね。女性には少々重そたうだから、俺が手を貸そう。校舎内では魔法は使えないし。」


「そ、そんな事、恐れ多いです。」


「そ、そうです。私達が怒られてしまいます。」


 アランのイケメンに見つめられているせいか、二人が顔を赤くして続けたので、ついつい目線の下にある彼女たちの頭にポンポンと手を置いてしまった。


「「きゃっ。ア、アラン殿下。」」


 二人ともさらに赤くなって固まってしまった。


 あれ? こんなシチュエーション、ついさっきもあったような・・・あ、アリスさんか。ついつい目線の下で丁度良い高さに頭があるとポンポンしたくなるなぁ、気を付けよう。


「二人とも良い娘だな。まぁ、そんなに気にする事はないよ。学園内では、身分差は無く、皆同じ学徒だ。さぁ、運ぼう。」


「・・・占い当たった・・・今日は本当に良い日になった・・・」


 係の女子が、ポーっと潤んだ瞳で呟いたのが聞こえた。




「アラン殿下~! 私もお手伝いしますっ。」


 階段教室の後ろの方からアリスさんも駆け寄ってきた。すかさず二人の女子の横に並ぶアリスさんは、アランの事、大好きだよね。ハートマークが飛んでるのが見えそうだ。


「アリスもありがとう。助かるよ。」


 して欲しそうだったので、アリスの頭にも手をポンポンと置いてあげた。


「は、はい。殿下。頑張ります!」


 アリスも顔を真っ赤にして可愛らしい。レティシアである私には出来ないような表情をするよね。私はアランには疎まれていたからなぁ。まぁ、良いのだけど。


 さあ、それでは、と重たい本や資料を持って教室を出ようとした所で、ローラン様とマクシム様と目が合った。二人は驚いて目を見開いてこちらを見ていた。


「ア、アランがタラシになってる・・・」


「顔が良いだけに、赤くなる女子も多いでしょうね・・・」


 二人がそんな事を言う。


「まあ、今日は手伝ってあげたい気分だっただけだよ。ローランもマクシムも手伝ってくれても良いんだぞ。」


 とごまかしながら笑って答えると、二人も仕方ないですね、と一緒に運んでくれた。



「アラン殿下。今日はいつもよりお優しい雰囲気で嬉しいです。階段からお落ちになったのに、何か良いことでもあったのですか?」


 資料を運ぶ途中、隣を歩くアリスさんが話しかけてきた。

 アリスさん鋭い! ってこうやって運ぶのを手伝ったり、まぁ、そう見えるのかしらね?


「そうだな。確かに階段から落ちたり大変だったけど、まぁ、レティシアとまた話せるようになった事かな。最近はあまり話せてもいなかったからな。」


 今後は『私』の身体に入っているアランともちょくちょく話さなくてはならない事も多くなるだろう。ちょっと伏線を張っておいた。


「むぅ。殿下がいつもよりご機嫌なのは、レティシア様のせいですか。」


 アリスさんが少し頬を膨らませて言う。ちょっと焼きもちを焼いた風だが、そういう所が可愛らしい。


「わ、私達も殿下がいつもよりお優しい感じがして嬉しいです。」


 後ろを歩く女子二人も言ってきた。ふむふむ。アランは意外とモテるわね。


「そうか。俺はいつもと変わらないつもりなんだがな。まぁ、今後も何かあったら言って欲しい。手伝うぞ。」


 笑顔でそう答えると、二人がまた頬を赤らめた。しかし、自分ではアランと同じように演じているつもりでも、確かに冷静に考えるとこんな風に手助けする事、アランならなかったよね? 思ったらすぐ行動に出ちゃうのは、この身体に引きづられているからなのかしらね? まぁ、目指せ完璧王子だから、良いかなって思ってしまう私も私だけど。



 話しながら資料を教授室に届けて教室に戻った頃には、随分とアリスや資料係の女子達と話しが弾んで皆の緊張が解けてきた。アリスさんも他の二人も楽しそうだ。私も元女子だから緊張なんかせずに話しやすいし、向こうも同じように話しやすいと感じてくれているのだろう。


「あ、あの、殿下。私たち、殿下に話しかけて頂いて、資料運びも手伝って頂いて、とても感謝しています。殿下がこんなにお話ししやすいとは知らなくて。わ、私たち殿下の事、応援しています! それでは、失礼します!」


 スカートを少し摘み上げ、軽く膝を曲げて、挨拶をすると女子二人が足早に去っていく。

 キャ~! アラン殿下ってあんなに親しみやすかったのね~ 素敵だったわ~ なんて言葉が遠くから聞こえて思わず苦笑いをしてしまった。


 その場に残った三人からは・・・


「アラン。お前、顔は良いのだから、洒落にならないぞ。ほどほどにしとけ。」


 とマクシム様からは肩を叩かれ、


「はぁ。先程レティシア様と仲が戻られたかと喜んでいたばかりなのに。女性で痛い目見ないで下さいよ。」


 ローラン様は眼鏡の位置を直しつつ呆れた様子。


「ア、アラン殿下。機嫌が良いからって、あまり優しいとおもてになり過ぎてしまいます・・・」


 アリスさんに至っては、上目づかいでむくれられた。


 ふむ。

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