夏目漱石「草枕」を読む

@that-52912

第1話「草枕」を読む。

山路を昇る主人公の後ろ姿を追いながら、ぼくたちは、この小説を読むことになるだろう。つかみどころがなく、のっぺらぼうのような作品だ。真っ黒な鰻のように、つかもうとすると、するり、と手から逃げて行く。鰻は、こちらの顔を見て、にやり、と笑う。まだ、おれの事を掴みきれないのかい、と言って。

文体のリズム感が、心地よい小説だ。声に出して読むことを、読み手に要求している感じがする。また、自然や登場する人物の描写が細かく美しいのだ。磨き抜かれた豊富な言葉たちが、重なりあって豊かなイメージを作り出している。言葉の魔術師、漱石の実力が発揮されている小説だ。

また、この小説は、実は戦争文学でもある。死者も、戦場も存在しないが、存在しないということを通して、遠い満州で血を流し、うめき声を上げている兵士たちの姿を描いているのだ。

穏やかで、ぼんやりとした顔つきのように見える小説だ。しかし、その中に、厳しいもの、強い批判精神のようなものを密かにかくしもっている。

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