　コウイチのオフィスを出て、タクシーを捕まえて自宅へと戻り…

　ルイは荷物をまとめて、実家へと送る。

　ほとんどの時間を、コウイチの側で過ごしていたせいで、自分の部屋には驚くほど荷物が少なかった。

＜私はいったい…　何をしてしまったのだろう？　ずっと、コウイチさんのためを思い、受け入れずにいた…　彼に抱かれながら、何度も叫んでしまいそうだった愛の言葉を、血を吐くような思いで、押さえて来たのに…？！＞

『お前に縁談を用意したから、必ず結婚しろ！』

「アナタがそれを望むなら…　コウイチさんの命令に従います」

　実家に帰り、本家で務めるようになると…

　コウイチが用意したベータの女性と、ルイは命令通り結婚した。

　派手な結婚式や披露宴は行わなかったが、婚約者の女性からは何の文句も出ず、ルイはホッ…　と胸を撫で下ろす。　

＜聞き分けの良い女性で良かった…　さすが、コウイチさんが選んだ女性だ…＞

　その夜、ルイは新居のベッドで初夜を迎えた。

　妻を抱こうとするが、どういうワケかルイの身体は、妻に欲望を持てず…

　ソレどころか嫌悪まで感じてしまい、ルイは焦燥感（しょうそうかん）にかられた

＜私は今まで、コウイチさん以外と、寝たコトがないからかも知れない…＞

　初めてルイが性体験をした時、相手はコウイチだった。

　それ以来、コウイチに求められるまま、ルイはコウイチに身体を捧げ続けた…

　初めてのキスも…　初めての恋も…　ルイの相手はコウイチ以外に考えられなかったからだ。

＜たぶん…　私の身体は、男相手にしか反応しないのだ＞

『ルイ、ベータの女を抱いて子供を作れ！』　

＜コウイチさんの命令に従わなければ！　従わなければ！　従わなければ！！＞

　妻を抱こうと努力しても嫌悪感が増すばかりで…

　嫌で嫌で、ついにルイは我慢できなくなった。

　あまりにも自分が情けなくて、ルイの瞳に涙が滲（にじ）む。

　ルイにとって、ベータの女性と子供を作るコトなど…

　人工授精でもしないかぎり、不可能なのだとルイ自身もようやく理解する。

＜こんなにも、愛していない相手を抱くのが辛いなんて！！　私はこんなに辛いコトを、コウイチさんに強いていたのか？！＞

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