しゃぼんだま

いささか まこと

第1話 ちょっとだけ。

最近、目まぐるしく生きていた気がする。仕事もそう、プライベートもそう。息を抜くのも必死だったようだ。慌ただしく進む、時間の中に生きてきた。

いつもだったらこうして文章を書くときは、少なからず辞書を引けるようにするけど、この作品だけは、辞書を引くのは辞めようと思う。間違っていても、認識がずれていても、それが、その時の俺なんだから。


こうして、人見知りな自分がちょっとだけでも自分をさらけ出したり、自己満足のように文字を書いてみたりするのには、実は理由があったりして。

多分単純に、気持ちを整理しているのかもしれない。自分がこうして生きてきたことに対して。恥ずかしいけれど、これが今を生きる自分が出来る、一つの自己表現でもあったりする。そう、感じさせてくれたのは目まぐるしく進む生活の中で、ちょっとだけ見る目を変えた時だった。


疲れ切った自分を明日も頑張らせるために、仕事終わりに酒を飲んでいる酒を飲まずに眠ってみたり。やめようと何度も誓った癖に、未だに辞めることの出来ない煙草に火を点けている自分を自覚してみたり。いつもは決まった形で湯船に浸かるのに、向きを変えて湯船に浸かってみたり。横を向いて眠るのが好きなのに、あまりにも寝つきが悪いからとうつ伏せで眠ってみたり。いつも急いで職場へと向かうのに、車のエンジンをかけてから少しぼーっとしてみたり。


ちょっとだけ。自分の当たり前に変化をつけてみるだけで、いつもの当たり前が景色を変えてくれる。なんと表現したらいいのだろうか、いつもの自分の景色に色を与えてくれるような変化を感じるんだ。


ほんの少しの変化だけでいい。これを忘れてはいけない。

当たり前は確かに、尊く素晴らしいものだと思うからこそ。


いつも通りの生活に変化を加えるだなんてなんだかおこがましい気や、気持ち悪いと感じるかもしれないけれど。本当に、ちょっとだけでいい。そのちょっとが時に、自分を救ってくれたりもする。ふっと、楽しかった昔を思い出させてくれたり。

悲しくも、つらく、自分を追い込んでしまっている立場を変えてくれたり。本当に、凝り固まった自分の気持ちを変えるのはそのちょっとなんだ。何かを始めた方がいいとか、そこまでの変化を言っているわけではない。刺身を食べるときに、醬油にプラス山葵を添えてみるくらいの、ちょっとしたこと、それでなんとか人生はやっていける気がする。


どうしたって、どうあがいたって、自分の人生の主人公は自分でしかないのであれば、そんなちょっとだけの変化を、生きづらく感じた時にはしてみるといい。

好きなことが好きじゃなく、ただ単に、いつものことになってしまってきたら、それこそ見る目を変えてみるといい。自分はそうして救われてきた。この日常から。


素晴らしく色のついた日常に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る