見上げた先を僕は知りたい
雨森灯水
空
僕は空を見上げる。高校2年の夏だ。夏休みが来たんだ。真っ青な空と、真っ白な雲。わたあめみたいなのに、なぜか食欲はそそられない。嫌いな食べ物じゃないのにな。背景が青だから、食欲が失せたのかな。
終業式の帰り道。駅に向かう途中。どうしてかな、涙が出てきた。先生に言われたんだ。今のままじゃ何もできないって。大学にも行けないし、就職も大変だろうって。なんで?やりたいことが見つかってる人なんて、全然いないでしょ。やりたいことがわからないまま、目標もないまま、何をしろって言うの?道端の小石を力なく蹴った。道路にころころと転がって行って、車に踏みつぶされていた。それなのに、原形をとどめたまま、そこに居座った。なんともまあ度胸のあるやつだな、と通り過ぎた。
家につけば、僕は真っ先に自分の部屋に向かった。狭い狭い部屋。布団を敷けば、残りの床は半分くらい。そこに勉強机があるんだから、床なんてほんの僅か。だから窮屈に感じるのかな。布団に潜り込むと、また泣けてきた。未来が見えている人がうらやましい。そこに向けてだけ、前を見ていればそれでいいんだから。でも僕は違う。きっと、消去法でなんか適当な仕事やるんだよ。勉強も運動もできない。興味のあることも特にない。芸術的なセンスがありゃ良かったけどそれもない。どれをするにも中途半端だし、一番を目指したいと思ったこともない。適職診断してみても、ピンとこない。僕には似合わないよってやつばっか押し付けてくる。眠ることもできなくなって、仕方なく外を歩くことにした。誰も僕を見ることはない。僕が光ることもない。僕は原石ではなく石ころで、磨いたって意味のない行為にしかならなくて。でも、なぜかどうしても、僕は誰かに認めてもらいたかった。
相変わらず空は青いし雲は白い。太陽は明るくて月は少しかすれている。音も声もない土手を歩く。なんとなく写真に収めてみた。切り取られた空間は、見た光景よりひどくて、空は灰色みのある青で、雲は紫みたいで、太陽は白くなったし、月はごみみたいに映った。やっぱり僕にセンスはない。思わず笑っちゃってさ。僕ってなんでこんなに出来が悪いんだろうなって。むしろ笑いになった。
そうして土手を歩き続け、気づいたら自分も知らないところに来ていた。
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